3-1
一週間が経過した。
尋史はこの日珍しく寝過ごしてしまい、慌てて学校へ向かっていた。
あれから毎日のように洋輔にあやとりを教えてみたが、洋輔は未だに川以外はできずにいた。しかも、貴久はいつも図書室で寝ているばかりで、まともに口すらきいたことはなかった。
どうしてこんなことになっちゃったのかなぁ。
足早に歩いていると、目の前に貴久が歩いていることに気付いた。
思わず、歩く速度が落ちていく。尋史は距離をおいて、前を歩く貴久の後ろ姿を見ていた。やはり眠たいのか背中を丸めている。生気が感じられなかった。しかし、まわりの生徒は気に止める様子もなく、貴久をさっさと追い抜いていく。
尋史も他の生徒たちに混じって貴久を追い抜こうとするが、寸前で足がすくでしまう。
「おっはよー、片桐。何ちんたら歩いてんのよ、遅刻しちゃうわよ」
後ろからどんと背中を叩かれる。
この元気印の声は麻美だ。
「お、おはよう。斎木さん」
「どーしたの? 朝から青い顔しちゃってさ。あ、もしかして、あたしのことばっかり考えて夜も眠れなかったとか」
と、例によって例のごとく勝手な解釈をしていた。
できることなら穏便に貴久の後ろを歩いていきたかったが、そういうわけにはいかなくなった。
麻美の大声に気付いた貴久が肩越しにこちらを振り返ってきた。もう尋史としても無視
するわけにはいかなくなった。
「お、お、おはようございます。勇海センパイ」
顔が強張らせながら、深々と頭を下げた。そして、頭を上げた時にはもう貴久は前を向いて歩いていた。
「あんな奴にバカ丁寧にあいさつすることなんかないわよ!」
キッと貴久の背中を睨みつける麻美。貴久にいい印象を持っていない態度だった。
「斎木さんは勇海センパイのことよく知ってるの? お兄さんは幼なじみだって言ってたけど」
「よく知らないわよ。あたしが小四の時にお兄ちゃんのクラスに転校してきたんだけどさ、ほらお兄ちゃんっておせっかいなとこあるでしょう。だから、転校生っていうだけでいろいろと世話焼いちゃうのよね」
「斎木さんもそうだったよね」
小声で呟く。ちなみに、尋史は中学二年生の時の転校生だった。
「何か言った?」
「いえ、別に」
「でも、さすがのお兄ちゃんも手を焼いたみたい。なかなかクラスと馴染んでくれなくってさ。でさ、中学の時なんかひどかったのよ。しょっちゅうケンカばっかやっててさ、またお兄ちゃんが付き合いいいからいっしょにケンカしてさ、うちの親よく学校から呼び出しされて。しかも、あいつの親は都合が悪くて来れないからって、うちの親がいっつもいっしょに謝ってたんだから。ホント、うちの親もお兄ちゃんもお人好しよね」
この時、麻美のおせっかいが両親からの遺伝であることがハッキリとした。サラブレット級の純粋なおせっかいなのである。
「だから、片桐もあんなのと関わり持たない方がいいわよ。高校に入ってからはおとなしくしてるけど、そのうちひどい目に合わされるんだから」
断ち切れるものなら、今すぐにでも断ち切りたかった。しかし、本人との意志とは裏腹に尋史は貴久との関わりを徐々に深めているような気がしてならなかった。今のところは洋輔を通してだが。
「何、あれ?」
校門が見える頃、麻美がとある集団を見つけて声を上げた。
グレーのブレザー服を着ている数人の青年が校門前に立っていたのだ。
「あれって確か嵩斐学園の制服だわ。カントウ山木がデザインしたっていう」
「へぇ、斎木さんって物知りなんだね」
「片桐が知らなすぎるのよ。けど、どうしてそんなお金持ちのおぼっちゃんお嬢ちゃんが集まる私立高校の生徒がうちみたいな一般ピープル校の前に立ってんだろう」
「さあ?」
尋史と麻美は二人して仲良く首を傾げた。




