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「はーい、尋史ちゃん笑って」
今時ちょっと珍しく着物姿で入学式に出席してくれた母、佳代はデジタルカメラに尋史
の初々しい高校一年生の姿を収めていた。
「尋史、今度はこっちだぞー」
今時ウルトラ珍しい紋付袴姿で入学式に出席してくれた父、文彦はデジタルビデオカメ
ラで尋史の輝かしい高校一年生の姿を撮っていた。
周囲の生徒や父兄の冷たい視線に曝されながらも、自分の高校入学を祝ってくれる両親
のために尋史は必死で笑顔を作ってみせた。
「帰ったら、早速編集してブログ更新しなきゃいけないわね」
『尋史成長日記』なるブログを作っている佳代だった。尋史は怖いので一度も見たこと
はなかったが。
「そうだね、ママ」
すっかりらぶらぶ親バカモードの二人だった。しかし、尋史はそんな両親が大好きだっ
た。自分のために一生懸命になってくれる両親が。ちょっとばかり人より度が過ぎるだけ
の子供思いの両親なのだ。
「それにしても、尋史ちゃんが入学式会場にいない時はママ心配しちゃったわよ」
「尋史はかわいいから、変なおじさんに誘拐されたのかと思ってしまったよ」
尋史が入学式会場に辿り着いた時は、入り口付近でパニックになっている両親だった。
周囲の非難の視線を浴びながら、両親を諭して席についた尋史だった。
「ごめんなさい」
中学生に間違えられて中学校に行っていたとは言えなかった。自分の小っちゃなプライ
ドにかけても。
「いいのよ。こうして無事に入学式を終えることができたんですもの」
と、涙ぐむ佳代。
「まったくママ泣き虫だな」
そういう文彦の瞳も涙で潤んでいた。よほどうれしいのだろう。
そんな片桐ファミリーを冷めた目で見ていく生徒の中に、熱い視線を送ってくる人物が
いることに尋史は気付いた。
長身、短髪のアリスートタイプの青年。
言わずと知れた、尋史を中学生と勘違いしてご丁寧に中学校まで道案内してくれた世話
好き(悪く言えばおせっかい)な上級生である。
彼は迷うことなく、一直線にこちらへ歩いてくる。どうやら自分の過ちに気付いてくれ
たらしい。
「君、もう入学式は終わったのか? 何だ、ちゃんと来てくれてるじゃないか、ご両親は。
わざわざご両親といっしょにお礼になど来なくてもいんだぞ。オレは人として当たり前の
ことをしただけなんだからな」
と、さわやかな笑顔を浮かべて、尋史の頭をいいこいいこする。
彼はまたしても大きな勘違いをしていた。
「すまん!」
佳代と文彦によって、尋史が高校生であることを知った青年は両手を合わせて何度も何
度も謝っていた。
「いえ、いいんですよ。こんな顔の僕にも責任があるんですから」
実際初対面の人にはいつも実年令より三歳から五歳は若く見られる。
「いやっ! ちゃんと確認しなかったオレが悪かったんだ。自分を責めることはない。え
っと……」
「あ、片桐尋史です」
「尋史か。オレは斎木洋輔。三年生だ。わからないことがあったら何でもオレに聞いてく
れ。っと、勉強以外でな」
洋輔はおちゃめにウィンクしてみせた。すでに君と僕とはお友達状態だった。
「よかったわね、尋史ちゃん。頼もしいセンパイとお友達になれて」
「斎木くん、尋史のことよろしく頼むよ」
「任せてください、お父さんお母さん!」
洋輔はどんっと胸を叩いた。
早とちりでおせっかいなところはあるが、確かに洋輔は頼れるセンパイになってくれそ
うではあった。
「そうだわ。今夜もささやかなんだけど尋史ちゃんの入学祝いパーティーをやるのだけれ
ど。斎木さんもよろしかったらどうぞ」
「いいんですか?」
「こういうのは多人数の方が楽しいからね。大歓迎だよ」
日の丸の扇子をパッと開いて、文彦はさわやか笑い声を木霊させる。それにつられて、
洋輔も笑う。
尋史本人の意志はそっちのけで三人は盛り上がっていた。傍から見ればかなり恥ずかし
い光景だった。
「ヒロ、早く学校に慣れるためにもオレが今から校内を案内してやるよ」
早速洋輔の世話好きが始まったようである。しかも、『尋史』ではなく、『ヒロ』と
呼んでいる。
「それはいいことだ」
「いってらっしゃい、尋史ちゃん。ママたちは先に帰ってパーティーの準備をしておくか
ら」
両親に見送られて、尋史は強引な洋輔に校内を案内してもらうことになった。




