エピローグ
「ったく、お兄ちゃんったらどこまでも付き合いがいいんだから。いっしょになって骨折することなんてないのに」
洋輔が仲良く貴久といっしょに骨折したことが麻美には気に入らないらくし、まだぶつぶつと文句を言っていた。
あれから一ヵ月。賢悟はあの日を境に姿を現さない。洋輔の話だと、今度はロンドンの方へ留学したとのことだったが。また戻ってくることもあるかもしれなかった。
「ねぇ、片桐もそう思わない?」
「僕はうらやましいな」
「え?」
麻美が怪訝な顔をしてみせる。
「あ、そーいえば、片桐。あんた空手部に入ったんだって。どうしてまたそんなむさ苦しそうなクラブにしたわけ?」
「強くなりたいんだ、あの人を守れるくらいに」
「あの人? やだ、もう片桐ったら。あたしを守るために。そんなのテレるじゃないの。じゃ、あたし柔道部のマネージャーになっちゃおうかなぁ」
相変わらず大きな勘違いをしていた麻美だった。
「ってことは、やめたんだ。あやとり同好会は。そうよね。やっと片桐もわかってくれたのね。手遅れになる前にあいつと縁切って正解だわ」
「やめてないよ、あやとり同好会も」
「何ですって? 何言ってんの、片桐。いいかげん目を覚ましなさい。これからは空手部でがんばってあたしを守ってくれるんでしょう!」
麻美がしゃべっているのを放っておいて、尋史は教室を出た。
「ヒロー!」
図書室に入ると、洋輔が完治したばかりの左腕をぶんぶんと振りまわしていた。
貴久は相も変わらずいつもの場所で眠っている。
「空手部の方はどうだ?」
「主将からやめた方がいいって言われました」
空手部に入部して1ヶ月。基本となる柔軟運動ですでにグッロキー状態になる尋史だった。誰の目に見ても空手には不向きな体質だと言えた。
「でも、僕どうしても強くなりたいんです」
そう。大切な人を守れるくらいに。
「だったら俺が教えてやるよ。自己流だけどな」
「え? センパイが」
尋史はキレた時の洋輔を思い出し、ゾッとした。トロトロやっていたら、キレて殺されてしまうかもしれない。
「い、いいいいですよ」
「何遠慮してんだよ。俺とお前の仲だろ」
「センパイはいろいろと忙しいですから。そんな僕ごときに時間を取らせるわけには」
「お前にはあやとり教えてもらってんだから、恩返しさせろよ」
「いえ、本当にいいですって」
「よかねえよ!」
洋輔の感情が高ぶり出したのか、声が大きくなっていく。
「てめぇら人が気持良く寝てんのに、耳元で大きな声出してんじゃねぇよ!」
眠っていた鬼神が目を覚ました。
「ヒロ」
「はい」
「タカに教えてもらうのが一番いいかもな」
両鼻にティッシュを詰め込んだ洋輔が言う。
「命がいくつあっても足りない気がしますけど……」
右の鼻にティッシュを詰めた尋史が苦笑する。
洋輔に比べて手加減はされていたものの、同等に扱ってもらえたような気がして、尋史は嬉しくてたまらなかった。
あせらずにゆっくり近づいていこう。
尋史は気持ち良さそうに眠る貴久を見てそう思った。
おわり
最後まで読んでくださってありがとうございます。
おバカなラブコメモードになってしまいましたが、皆様に笑っていただけたら幸いです。




