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五時限目の授業は全く頭の中に入ってこなかった。
貴久に言われた言葉だけが脳裏から離れなかった。
勝手に入会させたかと思うと、また勝手に退会させられた。尋史の気持ちなどおかまいなしに。
考えれば考えるほど腹が立ってくる。
「一体僕は何だったんですか?」
バン、っと机を叩いて立ち上がる。クラス中の視線が尋史に集中する。
「何か質問か、片桐」
男性教師もきょとんとした顔をしていた。
「あ、その……気分が悪いので保健室に行ってもいいですか?」
「あぁ、かまわんが。誰か」
「大丈夫です。僕一人で行けますから」
慌てて教師の言葉をさえぎった。続きを言わせたら、きっと麻美が付き添いを立候補してくるに違いなかったからである。
尋史は後ろめたさを感じながら、教室を出た。もちろん、向かうは保健室ではなく、図書室である。
しかし、そこに貴久の姿はなかった。考えてみればそれは当然のことだった。貴久とていつもいつも図書室で寝ているわけではない。ちゃんと授業だって受けているのだ。
尋史はだれもいない図書室で、貴久がいつも座っている席に座ってみた。
「僕ってどうしていつもこうなんだろう」
ため息をつく。
昔からそうだった。自分ではなかなか物事を決めることができなくって、いつも他人の意見に賛同して従ってきた。そして、後で必ず後悔する。自分がやってきたことはこれでよかったんだろうか、と。
今まで自分の意志で行動したことなんてあったかなぁ。
今朝が初めてだったような気がした。初めて自分の意志で、賢悟に意見した。興奮する気持ちが押さえられなかった。しかし、後悔はなかった。
だからこそ、尋史はあやとり同好会を退会させられたことが悔しかった。また自分の意志は無視されようとしていたのだ。
今回だけは譲れない!
ここで譲ってしまったら一生後悔するだろう。もう後悔するのはいやだった。
尋史はポケットの中から毛糸を取り出した。洋輔がくれたものだ。
尋史はとりあえず今自分ができる技をやってみる。
川、森、盃、一段ばしご、二段ばしご、ほうき。
自分ができる技の数は十にも満たなかった。
このままでは勝てない。もっともっと努力しなければならない。
幸い、ここは図書室。あやとりの本ぐらい置いてあるかもしれない。藁をも掴む思いで尋史は探してみた。そして、本はあっけないくらいすぐに見つかった。尋史の後ろの本棚の一番上にあったその本をイスを使って取る。かなり読み込まれていてあまり程度のいいものとは言えなかった。
が、技を習得するには充分だった。




