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夕時の閃光

 文学部の部室は人気がない。その主な理由は立地だ。文学部の部室は旧校舎にあるのだが…その旧校舎の最上階の最奥という、最も行きづらい場所にある。その為、偶然通りがかかる…なんてことは当然不可能だし、何かのついでに行くなんてことも無いので、部員ですら寄り付かない。そして部室の窓は西にあり、日を遮るものもないので、やたらと日当たりが良い。「冬は暖かくていいけど…夏の部室は地獄だ」と部員は口を揃える。


 ちなみに。部室にはエアコンという文明の利器は無い。辛うじて扇風機はあるのだが…その扇風機も部員の誰かが持ってきた古くて壊れかけのものだ。役に立たないどころか、気休めにすらならない。動けばラッキーだが、その幸運も数秒後には泡と消えるのだから救いようがない。


 しかし、晴子はこの文学部の部室が好きだった。用事などがない放課後は大体ここで本を読んでいる。静かで落ち着くから、というのが晴子の言い分。強い日差しもカーテンさえ閉めてしまえば、さして気にならない。図書室で借りてきた本を読むべく、今日も晴子は部室に足を運ぶのであった。そして部室の扉を開けると、いつものように無人…ではなく、先客がいた。


 その人物は晴子がいつも座る席に、読みかけだろう本を下敷きにして眠り込んでいた。横から覗き込むと辛うじて顔が見えた。誰だっけ、と晴子は思う。おそらく部員なのだろうと晴子は考えるが、人の顔を覚えるのがやや不得意な上に、時々行われる集まりも少数しか参加しないので、晴子は部活動に熱心な部員(たとえば部長とか)の顔しか覚えていないのである。そして残念なことにこの人物は部活動に熱心じゃない部員なのである。


 しかし、部員には間違いないだろう。多分、おそらくだけど見たことがあるような気がする…晴子はこの人物が誰だったかを思い出そうと額に人差し指を当てて少しの間、考え込む。そうして導き出された答えは。


 同学年の文学部員、佐々木。たまに集まりに現れては眠そうに本を読む奴である。晴子は思い出すことに成功してスッキリとした気分で持参した本を開く。その瞬間、窓の外がキラリと光った。直後、けたたましい音が響く。雷だ、と晴子が思った時には土砂降りの雨が窓に打ち付けられていた。


『夕方から雷を伴った激しい雨が降るでしょう』


 お天気お姉さんの言っていた通りだった。雷の音で目が覚めたのか、先程まで眠っていたはずの佐々木が起き上がっていた。晴子は何となく「おはようございます」と声をかけていた。まだ、完全には目が覚めていないのだろう佐々木は眠たそうに瞼をパシパシさせながら、ぼんやりとした口調で「おはようございます」と何も考えていないような顔で、聞こえた言葉をとりあえずといった感じで繰り返す。佐々木は何の気もなしに壁にかかっている時計を見た。


「やべ、寝過ごした…!」


 寝ぼけていた彼の顔が蒼白になる。彼は慌てた様子で、まるで嵐みたいな。そんな疾風のような勢いで佐々木は走り去って行ったのだった。


 彼女が恋に落ちた瞬間だった。


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