晴天の霹靂
青天の霹靂とはこういことなのか、と陵はぼんやりと思う。いや、この場合は晴天だろうか…などとくだらないことを考えるくらいに陵は驚いていた。
一目惚れだったんです、と彼女は言った。だがしかし、陵は戸惑う。普通、そんな言葉を貰えるのは整ったイケメンくらいじゃないのか、と陵は考えていた。陵は平凡で飛び抜けたものがない”自他共に認める、つまらない人間”である。そんな人間に告白などをする奇特な女子は、はっきり言うと…いない。告白される前までは、そんなことを思っていたのだ。
そんな陵はあまり仲も良くないと思っていた女子に現在進行形で告白されている。彼女の名前は、雨宮晴子。同学年ではあるが、クラスは離れていて接点は殆ど無い。が、しかし陵と彼女は同じ部に所属しているのである。それなら接点ありまくりだろう、と思われるだろうが…
その部というのが文学部という名の帰宅部(もしくは勉強部)で、まともな部活動を行うことが稀な幽霊部員が集まる部なのである。が、しかし何も活動をしないというのもマズイのだろう。月に一度ほど、自由参加のミーティングという名の勉強会が開かれる。その時に同じ学年の陵と彼女は話すことが何度かあった。
その内容は天気の話や世間話が殆どであるが…そういえば、先日。好きな人がいるのか?と、問われたことを陵は思い出す。ということは、おそらくその時にはもう好意を抱かれていたのだろう。しかし、それよりも前に好かれそうな出来事はあっただろうか、と陵は思考の海を泳ぎ始める。
「ーということで、私と付き合ってくれませんか?」
そんな彼女の締めと思われるその言葉で、トリップしていた陵の思考が現実に引き戻される。が、しかし。何故、陵がトリップ…いや、回想を始めていたのかと言えば。その告白の内容が詩的すぎて難解だったのだ。故に陵は早々に聞き流すことを決めたのだ。おそらく真剣に一語一句逃さずに聞いたとしても理解できるまでには一週間くらいはかかるのではないか…と陵は推測する。ちなみにその難解な文章を暗記するのは考えた本人ですら無理だったのだろう、彼女はちらちらとカンペのようなものを見ていた。
陵は宙を見上げて、軽く呼吸してから口を開く。
「気持ちは嬉しいんだけど…ごめん。付き合えない」
申し訳ないな、と思いつつも陵ははっきりとした謝意を伝える。だけど彼女は笑顔だった。想定外の反応に陵は少しばかり動揺する。
「そう、ですよねぇ。そんな仲良くない人から急に告白されても困りますよね。なので…お友達になってくれませんか?」
*
「佐々木くん! お昼、一緒しませんか?」
そんな訳で、彼女は陵の周りをうろつくようになったのであった。
ちなみにあのカンペのようなものは、どうやらラブレターだったようで。別れ際、陵に進呈されたのであった…。一応、読み解こうと挑戦してみた陵だったのだが…やっぱり無駄に詩的で、難解な文章であった。じっくり読んだところで理解できるような代物ではなかった。それでも分かったことがあった。
”雨宮晴子は本気である”ということだ。
本文を見れば分かる通り、青天が晴天なのはわざとです。