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作者: ぎあ

あの人ーーそれはつまり先輩のことです。

先輩は私の人生においてはじめて好きになった男性です。先輩はきっと忘れてしまったでしょうが、私はあの日、あなたとポプラ並木の下をとりとめのないことを話しながら歩いたことを今でも覚えています。あなたは私にどんなお寿司が好きかい? と尋ねましたが、私は緊張しすぎてハンバーグと答えてしまいました。本当は海老が好きです。と言いたかったのですが、なぜだか海老好きの女の子であることが少し恥ずかしくなってしまい、それに少しだけ笑って欲しくてついついハンバーグと答えてしまいました。今となってはいい思い出ーーというわけでもないですが、まあ若気の至りってやつです。これは忘れて欲しいな。

そんな先輩が、もう少しでもといた世界に帰ってしまうってことをわたしはさっき知りました。ツイッターで。先輩のもといたという世界。そこがどんなところであるか、私は知りません。先輩についてもよく知らないです。ただいつも、私に優しくほほ笑みかけてくれる、そんな先輩のことしか知らないです。でもそれだけで充分です。私はその思い出だけを頼りにこれから生きていこうとおもっています。

窓の外をのぞくと、夕焼けに染まったいつもの街がそこにはありました。そして。遠く、どこまでも遠くへ続く、その地平線。沈みゆく太陽はタイムカードを切りたがっていて、お月様は早く帰りたいとおもいながらゆっくりと昇ってゆくのです。私。街。太陽。月。世界。先輩。

スカートの裾をぎゅっと握しめて、私は大きく息を吸い込むのでしたーー。


ーーーーーーーーーーというような文章を書いた私は、パソコンの画面の前で思い切り泣いていました。涙はとめどなくぼろぼろと零れ、キーとキーの隙間へズブズブと侵入していくのでした。

真夜中。ド田舎にあるアパートの一室。そこで私はそのような極めてやっかいな状況に陥っていました。むろん私はそのようはことで理性を失うべきではないとおもいます。言語道断だとおもいます。これでも私は男です。確かに女々しいであるとか意気地がないと言われることもありますが、しかしながらそれはあなた方が用意した物差しであり、私という人間を推し量る上でその物差しは適切ではないと、おもうのです。むろん私のこのツラミを理解していただこうとはおもいません。しかしながらそれでも私はこの文章を書こうとおもうのです。それはさながら現実逃避と呼ばれる類のものなのかもしれません。彼女は私にもう興味なんてないし、記憶の片隅にもないかもしれません。女性というのは男性よりも失恋からの再起がはやいものであると、そのように聞いたことがあります。ですからもう二年も前になる失恋体験などとうの昔に忘れ、今頃は酒池肉林の限りを尽くしているのかもしれません。ああ、私はなんて醜い男でしょう。彼女が他の男とともに蜜月を過ごしているだなどという想像をついしてしまいます。いやまあ確かに彼女がどんな男性と付き合おうが私の干渉する余地はありませんし、彼女にストーカー行為をしよう、などという歪んだ姓的欲求はいまのところ私にはありませんし、未来永劫そのようなことはない、と、そのように私は自分自身に固く言い聞かせています。ですからこうしてそうした自分の情念をいちんと昇華させるために私はこうして彼女の気持ちになりきって文章を書いているわけですが、これがなかなかどうして楽しいのです。世間一般ではこうした振られ男のガラス細工のように繊細なココロはなかなかどうして理解されないかもしれません。しかし私は私の信じる道を行くのです。人間なんてどこかしらずれている、そう自分に言い聞かせ、背筋を伸ばし、堂々と歩いていく、ただ、それだけなのです。

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