頭角
弘忠は、今日の全ての授業を終えた後、清志のところへ駆けていった。自分の恋愛を話したのは清志が始めてだからだ。それに清志は勉強しないだけで頭はいい。弘忠は清志に、恋愛相談を持ちかけようとした。
「よぉ高田。ちょっと相談があるんだけど・・・・・」
清志はなにか本を読んでいた。小説か、参考書か、なにを読んでいるかわからなかった。本にカバーをつけているためである。清志はジーっと弘忠の顔を見詰めた。表情が一切変わらず、なにを考えているかわからない顔だ。
「何?」
なんか怖い。
「いや、ここではちょっと……」
「どこで話す?」
清志はページを取っとくために指を本に挟んで閉じた。
「そんじゃぁ・・・・近くにある例の公園でいい?」
この学校の近くに大きく、綺麗な公園がある。公園の中央にくつろぐためのガラス張りの建物があり、中には立派な椅子と机が置いてある。公園の中央から波状に木が植えてあり、そよ風が吹く時には耳の保養になる、心地よい葉っぱのせせらぎが聞こえる。地面は芝生で、座り込んでも土がつかず、話をする場所としては最適だ。しかし、今は冬。葉っぱも落ちているし、芝生も枯れている。それはそれで味があっていいものだ。
「まぁいいけど・・・・・何話すの?朝話したこと?」
このときの清志は朝の清志とまったく雰囲気が違った。今回の清志は怖いというのか、紳士的というのか、なにか冷酷な感じがした。
「それはそん時わかるからいいじゃん」
清志は本のページを確認し、本をカバンの中に放り込んだ。そしてチャックを閉めてカバンを背負った。
「じゃあ行きますか」
2人は学校から出て真っ直ぐ公園に向かった。行く途中は一切お互いに口を利かず、気まずい雰囲気のまま公園の中央にあるガラス張りの建物に入り、そして椅子に座った。
「うぅ・・・やっぱさぶいわ」
やっと清志が口を利いたかと思うと変なことを言い出した。清志は席を離れ、自販機でコーンスープを買ってきた。
「そんで、話題は?」
清志は、すぐにスープを飲み干し話を切り出した。
「あのさ・・・・・どうすれば中村が俺のことを好きになってくれると思う?」
弘忠は単刀直入に質問してしまった。本当は清志の恋愛話を聞きたかったのに清志の異様なオーラのせいで焦り、変なことを聞いてしまった。
「・・・・・・はい?そんなこと自分で考えろよ」
「え?」
弘忠は間違えて質問した。しかし、その質問に対してまともに答えてくれなかったことにショックを受けた。
「他人の介入を受けて成りたった恋愛なんて、そう長く持たないよ」
清志はすこし不機嫌な顔で言った。まるで軽蔑する目になっていた。
「参考だから・・・・別に介入しなくていいよ」
弘忠はなんとか清志から答えを聞きだそうと必死になり、頭の中が急速に回転した。しかし、いくら頭を回しても清志の頭脳には勝てなかった。
「だ〜か〜ら〜、他人の意見を借りた恋愛は長く持たないの。それにもう一つ気になることがあるし」
「何?」
清志は急に黙り込んだ。清志が質問に対して急に黙り込むというのは珍しいことである。清志は10秒してから話し始めた。
「別にいつも通りのお前でいいじゃん。やたらにカッコつける必要なんて恋愛に必要ない。それに・・・・偽りの自分を好きになってくれるより、本当の自分を好きになってくれたほうがうれしいでしょ?」
弘忠は、清志が恋愛に対してしっかりした考えを持っていることに驚いた。まったくの正論だが、なぜか納得いかなかった。
「中村に対してなにもするなってことか!?」
「声大きい」
思わず大声で言ってしまった。建物内には2人以外にだれもいないので、声を聞かれずにすんだ。
「いや、自分の性格を偽るなって言っただけ。とりあえずこう言っておかないと、お前たいへんなことになりそうだし・・・・中村に対しては、なんらか行動してもOK」
(そんなに俺・・・・・性格偽るか?)
「あ・・・・・そうですか・・・」
しかし弘忠は美奈、好きな人に対してどのような行動を取ればいいのかがまったくわからなかった。弘忠は女子に告白されたことは数え切れないほどある。それは小学生のころからで、今も変わらない。人から好かれるという体験はあるが、人を好きになるという体験は今回が初めてだ。
「まぁこんな世の中で恋愛がいつまで続くか、わかんないけどね」
清志は紙コップをくしゃくしゃにしてゴミ箱に投げ捨てた。
「は?」
弘忠はきょとんとした顔をしている。
「・・・・・・・まぁいいか、とりあえず・・・ってかお前、中村の行動を見てなにもわかんないの?まぁお前観察力ないからわからんか」
清志はあくびしながら言った。弘忠はちょっとその理由に期待し、体を乗り出して清志に聞いた。
「え?なに、ひょっとして俺に気があったりすんの?」
清志は目を見開いて、浅くため息をついた。
「・・・・・・・・んなわけねぇだろ」
弘忠はこの答えにショックを受けた。自分の期待とまったく逆の答えが返るとは思いもしなかった。その動揺を清志に見せないため、椅子に深く座りなおした。
「そうか・・・・・・ありそうなもんだがなぁ」
弘忠は冗談めかして言った。
「中村の行動は観察しとけばいろいろわかるものですけどね、自分で考えてみたら?」
清志の言葉は、たまに日本語の文法がおかしくなる。大抵、一般の人の場合は焦りだが、会話の流れからして焦りからではないと、弘忠は悟った。
「まぁ俺の話はここまででいいや。そういえばお前は好きな人がいたりしないの?」
弘忠は、清志と話しをしても希望を持てないと思い、話題を転換した。
「・・・・・・・・・さぁどうでしょうね。心理学的に考えてみて」
清志は平然と話したがよく見ると、話しを逸らしたい目をしていた。
「じゃあいたんだ。もしかしたらいるの?」
弘忠は恐る恐る聞いてみた。
「正解、今は・・・・・・いない・・・・かな?」
(やっぱりこいつみたいな変人でも好きな人はいるもんだな)
「へぇ。どんな人が好きなの?」
「う〜ん、わかんないなぁ。多分その好きだった女子に対して尊敬の念があったから・・・・多分異性として好きなんじゃなく、尊敬ゆえに好きだった・・・・かな?」
弘忠はこの言葉を聞いたとき、清志から異様なオーラを感じ取った。なにか悲しみと覇気を感じた。そして清志は別世界にいるように感じた。それも、過去の歴史に・・・・
「さて、そろそろ帰ろうかな。まぁ泊君も尽力するように」
清志は笑顔で立ち去った。




