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同じ日の始まり

今日もいつもと同じように、弘忠は朝5時に起床して新聞を読んでいる。

日常生活は毎日同じなのに、新聞の世界では毎日変わった事件が起きている。こんな退屈な日常から離れて新聞の世界に入りたいと、泊は日頃から思っていた。

リビングでこたつに入り、おっさんのように新聞を開いて朝食を待つ。

今日の新聞の見出しには、「アメリカとの国交回復」と書いてあった。在日米軍が消えてから日本とアメリカの不仲は今日まで続いたが、日本がアメリカにサンプルを渡すことで解決した。そのサンプルとは、日本が起こしたIC革命によって生まれた技術。それも無生物に情報を移植する技術をアメリカに伝授したのである。新聞に写っているアメリカ大統領は大変な笑顔だった。アメリカが日本を追い越す技術を開発するチャンスを得たからという理由しかないだろう。大統領は、「日本との関係をより強めたい。なにか問題があれば是非とも力になりたい」と語っている。

「かあさんまだぁ?」

泊が食事を催促する。すると台所から返事が聞こえる。

「もぉ、ちょっとは待ちなさい。できるまで外を散歩したら!?」

「・・・・・こんな真っ暗なのに・・・」

今は12月。外の世界ではクリスマス騒ぎになっている。どこの店にもクリスマスツリーを飾って愉快な曲が聞こえてくる季節である。泊の家にも1本のクリスマスツリーが飾ってあり、夜はピカピカ光っている。ほんと楽しい気分になり、特別な温もりを感じる月である。

しかし日本という国家単位では、温もりを感じることはできない。北朝鮮との問題も残っているし、最近ではロシアも軍事力を強めているという噂もある。泊は一瞬にしてこんなことを考えた。

20分ほどで食卓に朝食が並べられた。

「遅いよ。あと30分しかないじゃん。」

彼の家から学校まで、1時間近くかかる。それでも8時20分に始まる学校には十分に間に合うのだが、7時には学校にいないと彼は気がすまない。

彼は朝食を終えて、家を出た。バス停まで歩く途中、上空に5機編成の編隊が見えた。

一糸乱れぬ隊形は、彼の視界から消えるまでずっと続いていた。戦争の時にもこのような隊形を保たなくてはいけないものなのか?

彼はそう疑問を抱いた。現在、日本の戦闘機は2000機に増えていた。そしてそれらの機体は他のどの国からも影響されずに作った、日本だけの戦闘機だ。日本の最新鋭戦闘機、

その名は「F/A43―フェニックス」である。艦上戦闘攻撃機で、攻撃機としても用いることができる。ステルス機でもあり、レーダーが格段に他の機体に勝っているが、コストが高いため経済に余裕がある国しか作れない。日本は今、それが可能となっている。

日本は技術の面でもアメリカに勝っている。そして日本のIC革命による情報移植で、日本人の頭脳は、他の人間より優れていることになる。そして、経済力により大量生産が可能。

第2次世界大戦時の、日本の兵士、アメリカの技術、ドイツの作戦、ソ連の物量を併せ持てば世界一の軍隊が作れる。そして今の日本は、技術、物量、作戦、この3つを手に入れたが、過去に日本が持っていたものは、今の日本は持っていない。

彼はこの話を、クラスメイトの1人、高田清志に聞かされた話だ。

高田清志は普通ではない。成績は中の下、身体能力は下の下だ。しかし彼の頭脳はずば抜けていた。成績が悪いのはただ単に勉強しないだけで、彼の頭の回転は怖いものだ。

口が達者で、容赦ない。容赦ないというのは、日常生活上の冗談を、まともに実行するのだ。例えば、「カッターをなげるぞ」と彼が言えば、本当に顔をめがけて投げるのだ。

口が達者というのはとても恐ろしい。彼の嫌味はどの嫌味にも勝る。彼の攻撃を受けて、ショックを受けない者は1人もいなかった。

バス停には、すでにバスが止まっていた。彼は急いで走り、ぎりぎりバスに間に合った。

朝早くのバスは空いている。社会人とかが普通、乗車しているものだが、学校行きのバスにはだれも乗らない。しかし昼になると、学校より先にあるショッピングモールが開店するので、おばさんが利用するショッピングバスに化してしまう。

いつも彼のバスの座る位置は決まっている。降車口にもっとも近い席だ。

バスが発車して40分で学校に着く。その間彼はいつも呆然として外を眺めていた。

弘忠は眠りかけていた。ウツラ、ウツラと首ががくがくになっている。

「よっ!」

弘忠はハッとなり顔を上げた。そこにいたのは学校で親友と言える、唯一の相談相手の澤井健司だ。彼の髪は妙に銀色で、顔つきは人がよさそうな顔だ。口が堅く、的確なアドバイスをしてくれるので、どんなことでも話すことができる。

「あ……よぅ」

眠気が覚めてないのでしっかり返事できなかった。

「…………テンション下げんなよ。そういや今日提出の英語の課題やった?」

「あぁ昨日の夜に済ませた」

「そんなんだからテンション低いんだよ。まぁそのおかげで助かるけど。学校着いたら写させて。なっ?」

(いつもこうやって調子のいいことばかり言うんだよな・・・)

「……まぁいいや。いいよ」

「サンキュー」

健司はこれが普通だ。しかしこれでも成績はトップクラス。なんでそうなのか弘忠は納得がいかなかった。

「そういや今日の新聞見たかよ?」

健司が話しを切り出した。

「アメリカ国交回復?」

「ちげぇよ……まぁ知らないならいいわ」

「あ……そう」

そのまま2人は黙り込んだ。そのまま学校に到着。そしてそこから中学校校舎まで歩く。

弘忠の通う学校は、中高一貫の私立学校で、全国的にも有名な学校だ。校長がしょっちゅう募金活動や、奉仕活動を行うので、学校の名声も高いほうだ。

健司がドアを開いた。教室に2人いた。高田清志と中村美奈だ。2人の距離は、机3つ分開いていた。清志はうつぶせて寝ている。そして美奈は今日の予習なのか、テキストを開いてノートに一生懸命何かを書き込んでいる。

中村美奈、彼女は清廉潔白で男子に対して妙に口が少ないが、口を開けば大変かわいい笑顔で話す。その笑顔に魅了された男子はすごく多かった。弘忠もその1人。しかし、彼女がなにを考えているかはだれにも分からない。彼女は口を開くことはほとんどないため、男子は遠くから彼女を見るだけしかなかった。しかし、高田清志と弘忠に対しては特別だった。周囲の男子は、清志と弘忠に嫉妬したが、周囲との付き合いが悪い清志だけを憎んだ。ただ、数人の男子は彼と仲が良かった。そのなかに健司も数に入っている。

教室の中は耳が痛いほど静かだった。物音さえもしない。強いて言えば、美奈がノートに文字を書き込む音だ。

「…………なに、このシケてる教室?」

健司が入り口で立ち止まって言った。弘忠は健司を退けながら教室に入った。

「毎日こんなもんですが?」

清志はうつぶせの状態から顔を起こし、背伸びをしながら答えた。

「そ……そう」

健司は返事にとまどいながらカバンを自分の席に下ろした。清志はまたうつぶせた。

「ねぇ、ちょっといい?」

美奈が清志に近寄り話しかける。弘忠は嫉妬し、そのまま自分の席に着いた。そして、適当に英語単語集をカバンから取り出した。ちらちらと彼女のほうを見ながら単語集に目を通す。

「……………………」

ずっと清志は無言のまま。美奈は心配そうに眺め、清志の隣の席から椅子を持ってきてそれに座る。それを健司は面白がって遠くから観察し、弘忠は恨みの目で見ている。

「ねぇ、今日どうしたの?具合悪いの?」

弘忠は、話をする美奈に見惚れたが、その対象が清志だと思い出し、嫉妬の恨みが目に表れていた。清志は顔を上げ、頭を自分の腕の上に乗せて答えた。

「ただ眠いだけ……あと日本政府に愛想尽きた」

「はぁ?」

健司が叫んだ。美奈はなにがなんだかわからない顔で、目は見開いたまま。美奈は清志の言葉に対して質問した。

「え……それどういうこと?なんで?」

「もういいで〜す。今のなかったことにして。話すのめんどくさい」

なんとも適当な返事だ。しかし、めんどくさがりなのは清志の性格なのでだれもこの返事に動揺しなかった。むしろ、みんなこの返事を予測していた。

こんな感じで毎日ホームルームまで弘忠は過ごしているが、妙に心地悪い。毎日毎日、美奈が清志に近づいて話しかけるの見ているのは、弘忠にとって苦痛であった。


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