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班活動

「新聞部ってこんなところで活動してたんですね。初めて知りました」


 そう言って部室に入ってきたのは先ほどの網掛あがかけ先輩とは正反対とも言える女生徒だった。校則に従って整えられたひざ下十センチのスカートにもはやおかっぱというのが正しいであろうボブカット。網掛先輩の極端なミニスカートにオレンジメッシュを見たあとでは、彼女はまさに校則が具現化した存在にさえ見える


「新聞部部長の遠方おちかたです。天文学部に次ぐ部活動の僻地へようこそ」


 僕は努めて明るい表情で出迎えると、着座を促した。彼女はやや影のある微笑みでそれに応じた。


「申し遅れました。私は三年の不来坂このさかと言います。予備校の帰りなので遅くなってしまいました」

「いえいえ、無理を言っているのはこちらなので」


 時計を見れば、時刻は二十時になろうとしている。今日はこの六人目で終わりなるだろう。そう思いなら僕は彼女に話を促した。


「そうですね。畑井君から不思議な話をして欲しい、ということでしたね……」


 歯切れの悪い反応である。話しにくい事情があるのかもしれない。


「畑井がなんて言ったかは知りませんが、無理にとは言いません。気が進まないのなら帰っていただいても」

「いえ、そうではないのです!」


 彼女は僕の言葉を遮るように強い口調で言った。そして、しばらく黙った後にこう言った。


「ただ、私には誰にも聞けない一つの疑問があるのです」






 地域学習ってもう行われましたか?

 そうです。私たちが住む地域のことをより深く学ぶために地域の歴史遺産や言い伝えをレポートする特別授業です。ちょうど一年生が二学期の最初に行う大きなイベントがこれですね。私も一年生の時、この授業を受けました。あのとき私のいた五組はちょうど三十人のクラスで、六人の班が五つできました。


 班は確か、二班だった、と思います。


 このとき、何を取り上げるか班で話し合いをした結果、私たちは四乃山のことを調べることにしました。四乃山城とか車輪塚にすれば良かったのですが、そういう他の班が調べそうな物を私たちは避けました。オリジナリティが欲しかったのです。


 さて、ご存知かもしれませんが、四乃山は私達の通う四乃山高校の背後にそびえる標高七百メートルの山です。正確には四乃山連山というべきで、五百から七百メートル級の山々の総称と言えます。そして、この四乃山は山陰から京都へ向かう街道の難所として有名でした。


 急勾配や岩場が多く峯伝みねづたいに山を超えることが難しく、谷間を抜けていくしか京都へは向かえませんでした。このルートが難所と言われるのは、雨が降ると落石や崖崩れが起こるからと言われています。そのため、江戸時代までは多くの通行者が亡くなったといいます。


 明治維新後になってようやく隣の旗山から四乃山の峯に至る新道ができたため、谷間を抜けるこの旧道は使われなくなりました。そして、かつて旧道の入口があったのがいまの四乃山高校のあたりです。ゆえに四乃山高校の正門脇には交通の安全を祈願して置かれた地蔵があります。


 この地蔵は日本各地にある六道輪廻を現した六地蔵ではなく、世にも奇妙な七地蔵なのです。

 どうして七体なのかについては諸説ありますが、一体だけ作られた時期が違うことから、新しい六地蔵の中に古い六地蔵の一体が混ざっている、と言われています。私たちはこの七地蔵に注目して『四乃山の安全を見つめた七地蔵と旧道』と題したレポートを作ることにしました。


 そうして、旧道に関して図書館が郷土資料館で調べると、旧道を歌ったわらべ歌があることがわかりました。




 一人の男が四乃山はいる。路出合みちであいでもう一人増えて二人になった。二人は出口で減って一人になった。

 二人の僧侶が四乃山はいる。金渕かなぶちでもう一人増えて三人になった。三人は出口で減って二人になった。

 三人の男女が四乃山はいる。洲砂すさでもう一人増えて四人になった。四人は出口で減って三人になった。

 四人の公卿が四乃山はいる。来之谷このたにでもう一人増えて五人になった。五人は出口で減って四人になった。

 五人の女官が四乃山はいる。朱壁あかかべでもう一人増えて六人になった。六人は出口で減って五人になった。

 六人の童が四乃山はいる。水屑みくずれでもう一人増えて七人になった。七人は出口で減って六人になった。




 歌に出てくる路出合、金渕、来之谷、洲砂、朱壁、水屑は旧道にある地名で、順番に歩いていくと京都側の出口にたどり着くようになっていました。私たちはこの地名の由来を調べて、実施にこの六ヶ所の写真を撮ろうということにしました。そういうのも私達のレポートは、他の班が城や古墳、埋蔵物の写真をふんだんに使っているのに比べると地味で色彩に乏しいものだったのです。ですので、話はトントン拍子で進み、週末に皆で四乃山を登ることになりました。


「いやー、いい天気になりすぎたな」


 残暑が残る九月の空を見つめながらそう言ったのは岡崎君でした。岡崎君は班長で底抜けに明るい生徒でした。クラブ活動にも積極的でサッカー部に所属していました。


「馬鹿。昨日の昼間に雨が降って俺は気が気じゃなかったよ。四乃山は雨の日が怖いんだ」


 呆れた声で岡崎君を諭したのは赤井君で岡崎君とは小学校からの友達でした。インドア派で読書が好きな男子生徒だったので、よく岡崎君みたいなタイプと仲良くできるのか不思議だったのを覚えています。


「もー、ほんとに登るの? 日に焼けるじゃない」


 この班の中で唯一、登山に反対していた野口さんは私と違った今時の女子高校生といった感じで、日焼けどめを塗るのに余念がありませんでした。確かに可愛らしい人で、年上の彼氏がいるとクラスでは有名でした。


「まぁまぁ、そんだけ塗っておけば大丈夫だよ。野口は可愛いから」


 野口さんをなだめすかせて登山まで連れてきたのが、ソフトボール部に所属する吉田さんでした。彼女は健康的な小麦色の肌をしていて秋になっても夏の香りがするような人でした。クラスでも仕切りが上手い人だったので、私は彼女が一緒の班で嬉しかったのを覚えています。


「カメラの準備は大丈夫だろうな!」


 怒鳴るような低い声を出したのは佐藤君でした。佐藤君はあまり素行のいい生徒ではありませんでしたが、特に班行動を乱すような人ではありませんでした。ただ。ちょっと口調が鋭く、私は少し苦手でした。


「だ、大丈夫だよ。予備の電池もちゃんともって来たよ」


 佐藤君に気圧されるように甲高い声を上げたのは、新村君といい。女性顔負けの白い肌に細い腕をした男子生徒でした。ただ、カメラのことに関しては詳しく将来はカメラマンになりたいと私たちに語ってくれました。


「よし、では出発しよう!」


 岡崎君の掛け声と共に私たちは四乃山高校の背後にそびえる四乃山に入りました。旧道はすでに使われなくなっていましたが、登山をする人が通るのか道らしきものが残っていました。おかげで私たちは思っていたよりも簡単に歩くことができたのです。


「なんだ。つまらんな」


 道なき道を歩くことになるだろうと思ってか鉈を用意していた佐藤君がつまらなげに言いました。きっとかれは鉈を振るいたかったのでしょう。物足りない、という気持ちが顔に書いてありました。


「簡単な方がいいよ。それに道が険しくなるのはこれからだと思う。そのときは頼りにしてるよ」


 赤井君は佐藤君に本当に頼りにしてる、というように重々しくいいました。佐藤君は赤井君に頼られたのがまんざらでもなかったのか。「しゃねーな。任しとけ」、と照れたように言いました。斜に構えたように見えて素直なのです。


「おっこのあたりじゃないか?」


 先頭を歩いていた岡崎君が立ち止まって周囲をキョロキョロと見渡していました。よくみるとこの辺だけ妙に開けて道らしいあとが三方に伸びています。


「ここが路出合みたいだな。ここはちゃんと俺が調べてきた」


 岡崎君は背負っていた鞄から手帳を取り出すと、得意げに読み上げた。


「路出合は、四乃山旧道と隣の旗山からの道が出合う場所であることから路出合と呼ばれるようになった」


 文字通りの由来で皆がそのまんまじゃないか、といった。岡崎君は「そのまんま、と言われてもそのまんまの由来なだからしゃないじゃないか」そう言って少し頬をふくらませた。ふてくされた岡崎君をよそに新村君は数枚写真を撮って「撮影、終わったよ」、と言いました。


 その後、私たちは金渕、来之谷、洲砂を順調に越えることができました。しかし、野口さんが足が痛い、と騒ぐだしたのもこの辺りでした。吉田さんや私が「もう少し頑張ろうよ」、と励ましたのですが、最後には


「もう、ヤダ。ここで待ってる」


 と、言って道でしゃがみこんでしまいました。


 確かに野口さんの足には豆ができており、歩くのも痛いであろうことが想像できたので私は「仕方ない」、と感じました。ただ、彼女をここで置いておいていいのか。私たちはほとほと困りはてました。


「仕方ない。無理はさせられない。佐藤と吉田はここで野口と残ってくれないか?」


 赤井君が言うと佐藤君が露骨に嫌な声を出しました。彼からすれば、これか最後の朱壁、水屑が待っているというのにここで待たされる、というのは我慢ならなかったのでしょう。


「なんで俺がこんなワガママ女のために残らなきゃいけないんだよ!」

「わがままって何よ! 私はこうして怪我をしてるのよ。いたわるとかそういう優しさはないの!」


 言い争いを始めた二人のあいだに岡崎君が「まぁまぁ、落ち着いて」と入り込んでなだめましたが、うまくいきませんでした。どうにも二人の馬が合いそうにないと判断したのか最後には赤井君が、


「分かった。俺が佐藤の代わりに残るよ。残りのメンバーは水屑まで行って来てくれ」


 と、言って残ることになりました。


 こうして、私たちは赤井くんたち三人を残して朱壁に向かったのです。このあたりまで来ると訪れる人が少ないのか、道が本当にあるのかないのか分かりにくくなりました。そのうえ、前日に降った雨のせいで、洲砂から朱壁までの道は足元がぬかるんでいました。


「野口をおいてきたのは正解だったな。こんな足場の中を歩かせていたら大きな怪我につながったかもしれない」

「俺はあんな奴、怪我してもしらねぇよ」


 佐藤君はいまだに野口さんのことを根に持っているかのように口を尖らせましたが、先程までの厳しさはなく、寧ろ心配している様子さえ見て取れました。私も野口さんをおいてきたのは正解だったと思いました。この足場では誰かをかばいながら歩くことは困難としか言えないからです。


「新村、不来坂。大丈夫か?」


 野口さんには厳しかった佐藤君が私たちに対して心配げな表情を向けるのはなにか微笑ましいような、ちぐはぐなような印象を受けました。


「大丈夫だよ。佐藤君」

「佐藤君、ありがとう」


 私と新村君は汗だくになりながらも元気そうな声を出しましたが、無理しているのは簡単に分かったと思います。特に新村君はカメラを持っての移動でしたので、かなり負担になっていました。そろそろどこかで休憩したいという気持ちになっていたのですが、このぬかるんだ道ではそれも難しく、私たちはさらに歩みをすすめるしかありませんでした


 そんな時、先頭で「おお!」と叫ぶ声が聞こえました。


 私たちがのそのそとぬかるんだ足場を超えて、進んでいくと急に足元が岩場に変わりました。岩場の先には朱というか赤というか何とも表現しにくい暖色の岩壁が谷間に立っていました。


「これが朱壁か!」

「こんな色の石あるんだな」

「しゃ、写真撮らなきゃ」


 私はこの岩はどうしてこんな鮮やかな色なのだろうと首をひねりましたが、答えは出ませんでした。疲れて頭が回らなかったのです。いまなら分かるのですが、あの岩は鉄分を多く含んでいたのだと思います。その鉄分が参加してあのような色になったのでしょう。その証拠に私たちが岩壁に触れると、ボロボロと剥がれ落ちました。


「あとは、水屑みくずれだけだな!」

水屑みくずれなんて変な名前だけどどういういわれがあるんだ?」


 岡崎君が尋ねると、佐藤君が「あそこは俺が調べた」と、手を挙げた。


「水屑は元々、身崩みくずれと言われていた。由来はこの道で倒れた者や谷から落ちた者がの死体が腐り落ちて身が崩れていくことかららしい」


 随分と怖い由来で、私たちは息を飲んでしまった。確かにこの道が、悪路で昔は行き倒れが出たことは知っていたが、そこまで悲惨な結果が起こるような道とは思っていなかった。


「まぁ、クライマックスにはいいかもな」

「心霊写真が撮れるかもしれないね」


 あえて明るいトーンで岡崎君と新村君が言った。私も出来るだけ呑気なことを言った気がするが思えていない。ただ、このとき何とも言えない晴れなさが私の心を満たしていたことだけは確かであった。その晴れなさに比例するように空は雲が濃くなった。


「雨が降るかもしれないね」


 新村君がカメラを胸に抱えながら言った。きっとカメラが濡れるのを嫌がったのでしょう。


「嫌なことを言うなよ。帰りにはまたあのぬかるみを歩くんだぞ」

「あそこで雨に降られたらたまらないな」


 嫌なことというのは重なるもので、それから直ぐに空は真っ黒な雲に覆われ横殴りの雨が私たちを襲いました。


「野口たちは大丈夫だろうか?」


 私たちがいる朱壁は、野口さんたちのいる来之谷と洲砂のあいだよりも谷間を登ったところにあるので、雨が降っても水は谷に向かって流れていくため溜まることはありません。ですが、彼女たちがいるのは谷底とでも言うべき場所だったので、この雨でもし、水が一気に流れ込めば危険だと思われたのです。


「戻ろう。あいつらが心配だ」


 焦った口調で佐藤君が言いました。彼は雨具を持っていなかったのですでにずぶ濡れの状態でした。私も折りたたみ傘しか持っていなかったので、ずぶ濡れと似たような状態でした。かろうじて大丈夫だったのは岡崎君と新村君でした。彼らは合羽を持ってきていたので私たちよりも状態はよかったと言えます。


「佐藤と不来坂は、その格好だと危ない。俺と新村が急いでもどるからお前たちは焦らずに向かってきてくれ」

「おい、俺も行く!」


 佐藤君が岡崎君に詰め寄りました。岡崎君は首を左右に降ると「それじゃ不来坂さんだけになってしまう。佐藤君ならいざという時でも不来坂さんを抱えて下山できるだろ」、と佐藤君の目を見つめて言いました。


 佐藤君は私と岡崎君を交互にみたあと「仕方ない」と小さく言いました。


「ごめん、不来坂さん。悪いけどカメラを頼めるかな」


 申し訳なさそうな顔で新村君は私にカメラを渡すと岡崎君と岩場を転げるようにかけていきました。私は預かったカメラを上着のなかに入れて出来るだけ濡れないようにしました。となりでは佐藤君が不安そうな表情で二人の後ろ姿を眺めていました。


 雨足は弱まることなく。私達の足元には山から流れ落ちてきた水が幾重にも白い筋を作っていました。


「不来坂。少し上に登るぞ」


 佐藤君は急に道を外れて、斜面を上がるように言いました。私が驚いて彼を見ると、彼は無言で私の手を引いて斜面を登り始めました。彼は斜面に生える木々や蔦を足場に斜面を登っていきました。私もそれに送れまいと必死に斜面を登りました。私がもたもたしていると佐藤君が手を掴んで引き上げてくれました。


 ですが佐藤君は、妙に暗い顔をしていて私はどうしたのだろうと不安になりました。彼はしばらく押し黙った後に独り言のように口を開いた。


「すまん。俺は水屑の由来について嘘をついた。みんなを脅かそうと思ってあんなことを言った。本当は身崩れじゃなくて、水崩れが正しい由来なんだ。つまり、この下は雨が降るととても崩れやすい場所なんだ」


 私は登ってきた斜面を見下ろすと、私達が歩いてきた道はすでに川へと変わっていました。四乃山に降った雨が全てここの集まってきている。そんな風にさえ見えました。


「皆、大丈夫かな」


 私のつぶやきは佐藤君に聞こえたのか聞こえなかったのかは分かりません。ただ、彼は押し黙ったままでした。雨音だけが響く気まづい沈黙を破るように、谷のほうから轟音がしました。見れば、斜面の一部が崩れ落ち始めていました。


「ここも危ないかもしれない。登るぞ」


 私は佐藤君に手を引かれるまま斜面をさらに登りました。もう全身がずぶ濡れの泥だらけでしたがそんなことを気にかけている余裕はありませんでした。いつ自分がたっている場所が崩れるか不安でたまらなかったからです。


 小一時間くらい方向も考えぬまま斜面を登った頃、ようやく雨が止みました。


 私たちは無言で、野口さんたちが残った洲砂の方へ向かいました。すでに道を大きく外れていたので、佐藤君が持つ鉈で小さな木々をかき分けての下山でした。何度も濡れた山肌に足を取られ転けましたが、それでも日が沈むまでには、洲砂のあたりまで向かうことができました。


 そして、そこで私たちは岡崎君が先ほどの土砂崩れに巻き込まれたことを知りました。

 野口さんたち三人は私と佐藤君のように斜面をよじ登り無事だったのですが、谷を下っていた岡崎君と新村君は崩れた斜面に巻き込まれたのです。新村君はなんとか自力で這い出すことができたのですが、そこに岡崎くんの姿はありませんでした。

 



 不来坂先輩はここでふぅ、と一息を付いた。


「それで岡崎さんは見つかったんですか?」


 僕はそう聞いたものの岡崎さんがなくなっていることを知っていた。つい二年前の出来事だ。四乃山高校に入学していなかった僕でも地域で起こった事故のことくらいは聞き及んでいる。


「はい、それから二日後。消防と警察が見つけてくれました。その時の岡崎くんの親御さんの嘆きは今でも耳に残っています」

「それは……」


 僕は言うことが見つからず沈黙した。ただそれとは別にあることが気になった。彼女は不思議な話を死にここに来たのではなかっただろうか。この話は確かに痛ましいものではあるが、不思議さはない。


「岡崎君の葬儀のとき、私は思ったんです。六人・・だけでも助かってよかった、と。人が一人死んでいるのにそんなことを思うのは不謹慎かもしれませんが、葬儀という場面でようやく私は生き残ったことを確信したんです」


 本当の危難に対して人は感覚が麻痺することがあるという。彼女もまともな感覚が帰ってくるのに時間がかかったに違いない。


「亡くなった岡崎さんには悪いですが、六人が助かっただけでも不幸中の幸いですよ」

「……そう、六人が助かった。でも、よくよく考えてみると私たちの班は六人しかいなかったんです。三十人のクラスを五で割れば六人一組になるはずですから……。でも、私たちは七人で山に入っている。一体誰が多かったのでしょうか?」

「……よけいなものがいる」

「ええ、でも私はその全員がどういう人か知っている。なのに一人多い。だから、もしかしたら私が余計なものかもしれない。そう思うと、誰にもこのことを聞けないんです。私は余計なものですかって」

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