【代償】
もう少しでなくなりそう……。
魔王ディフェルの世界征服
第8話:【代償】
「ふう……やっと着いた。って門閉まってんじゃん!?」
日はもう沈み、月は自身の真上に昇っている。
門はウィルが口に出したように閉まっており、その周りには街に入れなかった商人や冒険者のテントが張られていた。
「仕方ない。魔獣でも狩って食うか」
閉じた門に背を向けて魔獣狩りに向かった。
「ここら辺に竜とかいないかなぁ……ワイバーンでもいいや」
数十分探し回ったが見つからなかった。
山とか森とかを荒らせば守護竜的なものが出てくるかもしれないと期待していたみたいだが、残念ながらそんなものはここには存在しなかった。
「仕方ない。近くの川に行って魚でも釣ろう」
森を抜けて近くに流れている川に向かう。
「風より生まれし大地を貫く剣、光り輝き魔を滅する閃光よ、闇夜を照らし、闇に住まう獣を消し去れ【断絶雷剣】」
ウィルは右手を上げた。すると、その周りで風が吹き始め、白い輝きが剣を形どっていった。
その白い雷の剣を両手で持って川底に突き刺した。
その直後、剣から電気の一部が漏れ出し、川で泳ぐ魚を襲った。
この魔法は元々こういうことをするために作られたわけではないが、今はもう触れないでおこう。
感電死した魚を取り出し、綺麗にしてから砂鉄を溶かして作った串に刺して塩をまぶして焼くことにした。
「後5時間くらいか……飯を食っても後4時間半は残るよな……」
門が開くまで何をすればいいかと考えているうちに魚が焼けたのでそれを食べた。
「よし、悪魔を召喚するか」
この世界で悪魔を召喚する方法は幾つかある。
今回は生贄を使って魔界に干渉して悪魔を召喚する方法でしようとウィルは決めた。
生贄なら近くにある。
門の前にいる商人や冒険者だ。それも冒険者はまだ初心者で戦闘になってもすぐ倒せる。
ウィルは地面に落ちている枝を拾い、魔力を込めて地面に幾何学的な図を書き出した。
「この世に住まう者が抱きし力、根源を鍵として闇の世界を隔てる扉よ、開け【霊魂魔導】」
そう詠唱すると、幾何学的な図、魔法陣は光り出し、門の前で待機する商人達の生命を奪い、陣の中心に開いた空間の裂け目に吸い込まれていった。
「根源の欠片は新たな可能性、光や闇を生む創造者、魔に導かれし可能性は世界を救い、神に導かれし可能性は世界を滅ぼす、世界は望む、魔の繁栄を【冥魔の領域】」
魂を食んだ空間の裂け目を囲うように3つの空間の裂け目が出現し、そこから黒い靄が出てきた。やがてそれは人を形どって動き出した。
『久しぶりの地上か……。地上の民よ要件は如何に?』
『俺に従え』
『聞こえないな。今なっていったか聞こえた奴はいるか?』
1人の悪魔がそう言うと他の悪魔は首を振った。
『俺に従えと言っている。対価は何だ?』
『はっ。誰が天の手下の人族に従わなければならない』
『従う気は無いと?そうか。なら"消えろ"』
ウィルがそう言うとドラガという悪魔の輪郭がボヤけ、外側から体を蝕み始めた。
『っ!?……何をした』
『従う気がない奴に話しても無駄だ。で、お前らは従うか?』
『………』
『従おう』
残りの2人のうち1人がそういった。
そいつを非難するような目をドラガや残りの1人が向けた。
『名は?』
『ノガヤだ。よろしく、地上の民よ』
ノガヤという悪魔は手を伸ばして握手を交わす振りをして影を操ってウィルを縛ろうとした。が、
『こんな攻撃聞くと思った?そう思ったのであれば愚かだね』
『貴様!!』
『まあ、楽しく殺してあげるから』
手を伸ばしてノガヤの額に触れた。
『その体と力は俺が有効活用してあげるから安心するといいよ。邪魔な精神は消して新しい精神を創ればいいしね』
地に伏せたノガヤの顔を踏み、精神を消そうとする魔法に苦しむ姿を見て笑みを浮かべていた。
『残りの1人はどう調理しようか。ゴブリンの餌にして強化するのもいいかもしれないな。いや、皮を剥ぎ取って防具を作って角を加工して武器を作り、血肉で不毛の大地を作るのもいいかもしれないな。どうしようかな〜』
『やめろ!!スノウには手を出すな!!』
『へぇ〜。じゃあ……』
ドラガを魔法から解放し、縛ってスノウと言われた悪魔を苦しめるための魔法をたくさん施した。
『スノウ!!許さない……』
『言っておくけど対価を支払ったというのに従わなかったお前らが悪いんだからな』
『……っ!!わかった!!従うから!!あいつだけは……あいつだけは助けてやってくれ!!』
『その言葉が聞きたかった。じゃあ、汝、【原初の魔神】ウィル・ディフェルに永遠に従うと誓うか?』
『誓う!!』
ドラガの額とノガヤの額に三日月と剣が描かれた刻印が描かれ、2人は倒れた。
『お前はどうする?』
『…………従おう。その代わり、ドラガを痛めつけるのはやめてもらおう』
『わかった。が、罪を犯せば罰を与える。いいな?』
スノウは頷いた。
『日が昇る前にここから去っておく』
『何故だ?不可視の結界は張っていただろう?』
『お前らを呼び出すためにここに居座っている奴らの命を使った。こいつらは死んでるのに俺だけ生きていたら疑われるだろ?』
『なら私はドラガを背負うからそいつを運べ』
『元からそのつもりだ』
ウィルはノガヤの足首を持ち、引きづりながらここを一時的に去ったのだった。