【外界】
魔王ディフェルの世界征服
第5話:【外界】
「ダンジョンが地表に現れるまで後3ヶ月あるし、前々から言われていた人間の国を視察するのと金稼ぎをしよう」
あの鬼畜ダンジョンの1階層を整備し終えた時、あの後どうなったのか知りたくなり、出かけることにしたのだ。近くに村があるのであればゴブリンを作り出して襲わさせようといった目的もある。
「世界を構成するのは空間、ここに起点を定めよ【座標決定】」
転移魔法の一種でいつでもどこでもすぐここに戻れるようにマークし、外へ出る準備をする。
「よし、じゃあ移動するとしよう。
何時迄も歩み続けるのは風。誰にも邪魔されることはない、自由の象徴、羽ばたけ見えない翼よ、導け【天空飛翔】」
ダンジョンに出てすぐに風属性魔法を発動させ、空に浮かぶ。
こうして魔獣や盗賊に襲われることなく町にいく作戦だ。
「にしても空を飛ぶのってこんなに心地良いものだったんだな」
暫く飛び続けていると、先ほどまで眼下に広がっていた森林地帯が草原地帯へと移り変わり、大きい町が出現した。
「カロンか」
ウルヌクス領、主要都市カロン。
人口約45万人。日本でいう都道府県庁所在地と言ったところだ。
この国の中で5番目に人口が多い都市で、今もなお、人口は伸び続けて4番目を抜かすだろうと言われている。
「そういえばこの町で動くには少量の金が必要だったな。仕方ない。創るか。
有とは創造、この無の空間に黄金の輝きを作り出せ【鉱物生成】」
ウィルの目の前に金色に輝く硬貨が2,3枚出現した。
「じゃあ、降りるか。
無効にせよ、【解除】」
【天空飛翔】が解除され、町の門目掛けて落下する。
「到着!!」
足元の地面を砕きながらそう言った。
「うん?何で逃げるんだ?」
ウィルが門番に賄賂(金貨1枚)を渡そうとすると、門の周辺にいた商人たちは逃げ出し、門番さえも逃げていった。
「これでいいのか?門番」
誰もいなくなった門を見てそう呟いた。
門をくぐっても誰もいない。
「おいおい………これじゃギルドが何処にあるのかわからないだろうが。……仕方ない。火柱でも立てて騒ぎを起こしてやろうか」
「その必要はない。私の名前はユリナ・ウルヌクス。ウルヌクス領嵐海騎士団副団長だ!!」
「いつ此処に来た」
「何時っていつも此処にいるが?そんなことより、お前……何処かで見たことが」
「気のせいじゃないか?それよりギルドの場所は何処だ?案内してくれると嬉しいのだが」
ウルヌクス領はヒューラン領と隣接しているため、交流が多くあった。
ウィルも幼少の頃、髪を染めて交流会に参加したことがある。
その時に交流会に出ていた貴族の中にユリナがいたかもしれない。
「ところで、俺の髪は黒だけど気にしないのか?」
「髪の色など関係ないだろう。あの海を越えた先にある島国は人口の8割以上が黒髪、黒眼らしいからな。
黒であることが原因で嫌っていたらその人達に失礼だ。幾ら周りが黒が悪だといったとしても私の考えは揺るがない」
「そうか。安心したよ。また、攻撃されるかもしれないと思っていたからさ」
「私は騎士だ。そんなことはしない。
ここがギルドだ」
目の前に大きい煉瓦造りの建物が建っている。
そこからは酒や食物の匂いが漂ってくる。
「中には荒くれ者がいるが、適当に倒してやっても構わない」
「わかりました。案内ありがとうございました」
「気にすることはない」
ユリナに別れを告げ、ギルドの中へ入った。
朝から酒を飲んでいる人がいるためか、酒場がある1階はとても酒臭い。
鼻をつまんで受付があるであろう2階へと向かった。
「登録お願いします」
「わかりました。銀貨1枚です」
金貨1枚を取り出し、手渡す。
「お釣りの銀貨9枚です。では、ここに手をかざしてください」
10秒ほど手をかざし続けると、ピッと言った音がなってカードが出てきた。
「ウィル様ですね……登録は完了しました。
次に、試験を受けてもらいます。
この試験ではF〜EXランクまである内、Sランクまで試験結果が良ければなることができます。
しかし、Sランク以上の人は緊急時には招集されるのでご了承ください。
試験場はそこの扉の向こうです」
扉を開くと、漆黒のコートを身に纏い、黒い剣を持った青年が立っていた。
「やあ、僕の名前はユウリ。序列13位SSSランカーだ。
これから試験を始めるけど、君の戦闘方法は何かな?」
「俺は魔法も剣術も体術も出来る。全て使っていいか?」
「うーん。まあ、いいよ。じゃあ、誰に審判をしてもらおうか……」
ユウリは辺りを見回す。
それに対し、ウィルは口を開いて
「隣にいる少女でいいんじゃないか?
暇そうにしているしな」
「へぇ、何時から気付いていたの?」
「この部屋に入った頃からだ」
「レミーナの存在に気付く冒険者が来たのは久しぶりだね。せっかくだし、レミーナ。審判をやってくれないか?」
レミーナと呼ばれた少女は頷いて安全圏まで移動して言った。
「これより、ランク判定試験を行う。両者、定位置につきなさい。
それでは、始め!!」
試験が始まった瞬間、ユウリは肉体強化と武装強化を同時に行い、ウィルの目の前までやって来た。
「残念だけど君は──」
「世界を支えるのは時。世界を構成する力よ、我が身に宿れ【加速】
反転せよ、引き合う力よ【反発】
」
ユウリの攻撃を何の苦労もせず避け、加速を続けてユウリの体に触れ、力の向きが反転した。
それによってユウリの体は反対方向に吹き飛んで行った。
「え?」
「何を間抜けな顔をしている。えーっと、何だっけ?ああ、『残念だけど君は──』その言葉をそのままお前に返そう」
「僕にそんなことを言う人は初めてだよ」
ユウリは楽しそうな顔をする。
「じゃあ、本気を出そうかな。
久しぶりに楽しませて貰ったんだ。
行くよ。──魔剣起動」
あの黒い剣に魔力を流し始めた。
すると、黒かったはずの剣が紫色に光り始め、周辺の魔力を吸収し始めた。
「魔法は使わせないと?」
「君はこの試練を如何なる手で乗り越えるのか、楽しみだよ」
(この人ならあれを使ってもいいかもな)
少し考え、ウィルは心の中で詠唱を始めた。
(始まりは根源。全てを生み出す溢れ出した力よ、闇を、破壊を生み出せ。魔の力は破壊の象徴。破壊の力よ、ここに顕現せよ【魔神格化】)
先ほどから魔剣が吸い出していた力はウィルの方へ向かい、黒い霧のようなものを生成し始めた。
そして、黒い霧はウィルを中心に球を作り出し、稲光と共に消失した。
「それは……?」
「詳しくは言えないけど、貴方をここから退場させるための力だということは確かだ」
「言ってくれるね。こっちには魔剣があるんだ。魔法は通用しない」
「それはどうかな?」
ウィルは敢えて魔力を外に放出する。
その魔力を魔剣が吸収していくが、次第に魔力がユウリの力に変換されなくなっていった。
「まさか……容量オーバー!?そんなことが起きるわけ……」
「ないとでも言うのか?
今、そのお前が否定した出来事が起きているというのに否定するのか?
いい加減現実を受け入れろ」
でも、ユウリが否定するのは仕方がないことだ。
今までこの魔剣が吸収できなくなるといったことがなかったのだ。
魔力濃度の高いところに行っても、竜を斬り殺してもこうなることはなかった。
隙を生み出さないため、ユウリは警戒を怠らずじっと魔力の流れを観察していた。
その時、魔力の流れが急変する。
「【炎獄烈火】」
無詠唱で魔法を行使した。魔力の流れを見ていなかったら負けていたかもしれない。
ユウリは冷や汗を流しつつ、負けないために斬りかかった。
「一体、君は何者なんだ……?」
「ただの魔法使いだが?そんなことより、戦闘中に余所見とは随分と余裕だな」
ユウリを転かし、魔力で強化した足で後方に吹き飛ばした。
「本当に何者──」
「そこまでだ。これ以上お前が魔法を行使すると、この部屋が壊れてしまう」
「まだ試験は終わって──」
「黙れ。二度は言わん。お前にSランクになる資格を与える。それと、こいつを医務室に連れて行け」
「いや、回復魔法が使えるからここで治療する。彼の者の傷を癒せ、【回復】」
ユウリが立ち上がれるくらいまで回復させると、ウィルは立ち上がって部屋を出て行った。
「試験終わりました」
「そうですか。見せてください。ってS!?」
受付嬢の口からSという言葉が出た瞬間、周りの空気が変わった。
誰も話すことが許されない空間となっていたが、別の部屋からやってきた人が言った。
「お前のような奴がSな筈がない」
「誰だ?お前……まあいい。Aとして登録して欲しい」
「わかりま「無視すんじゃねぇ!!」」
相手にされなかったことにキレたその冒険者は剣を抜いて斬りかかった。
「煩い」
他の冒険者がその言葉を聞いた直後には壁に減り込んだ男の姿があった。
「迷惑料(戦利品)としてこれは貰っとくからな」
壁に減り込んだままの男の財布からお金や近くに落ちていた剣を取る。
獲得できた戦利品は金貨2枚目と銀貨7枚だった。剣に関しては使い物にならないほどだったので元に戻しておいた。
「あ、すいません。これ、壁壊しちゃったんでこれで直してください」
ギルドカードの更新を済ませ、受付嬢に金貨1枚を握らせてギルドから去った。
男をさらに減り込ませてから。