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〈8〉



「君みたいな出来損ないがボクの足元に及ぶとでも思ったのかい?だとしたら笑えるね。君はそんなにも弱いのに」


ボクはゲームのソニアがクリスに言っていたことをユリウスに浴びせる

嘲笑するのではなく無表情で淡々と事実を述べるだけ

プライドの高い人間や努力家にこれをすると簡単に腸が煮え返るような怒りを抱く

ボクは地面に倒れ込み泣いているクリスのCGを思い出す

悔しそうに下唇噛んで泣いてるクリス、いとおかし(非常に可愛らしい)


「……ッ!」


仰向けに転がるユリウスは怒りのあまり言葉が出ない様子だ

クリスと違って可愛くなければ嗜虐心もくすぐられない


「しかし驚いたよ。えらそうな口を叩いておいて剣も握れないだなんてね」


最初、ユリウスは剣を持つことに怯えた

ユリウスは下手をしたらボクを殺すかもしれないと剣を持つことに怯えたのではなく剣を持ったら自分の手が傷付くんじゃないかということに怯えたのだ

呆れて言葉が出なかった

刃を落としていない真剣を持つくらいで尻込むとはなんとチキンな子供だろうか

愛しのクリスなんて見てるこっちが心配するほど簡単に短剣で遊びはじめるのに

三歳児にも劣るナルシストってどうなんだろう?

ボクはユリウスを挑発し冷静さを根こそぎ奪った

それでやっとユリウスはボクに剣を叩き込む気になり“模擬”死合いが始まった

まぁ、ド素人とボクでは話になるわけはなく、ボクはハンデとして木の棒で相手をして圧勝した


「女のくせになんでそんなに強いんだよ!反則だ!」


「男のくせに何故そんなにも弱いんだい?ガッカリだね」


力任せに剣を振り回すユリウスの足を引っかけ転ばせる

立ち上がってまた剣を振り回すユリウスを転ばせる

ボクとユリウスはそれを繰り返しただけ

馬鹿の一つ覚えとはよく言ったものだ


「……!……ッ!」


怒りメーターが振り切ってユリウスの顔は真っ赤になっている

こうもわかりやすいと教育は簡単そうだ


「では、次はワタクシですわね?」


憤死しそうなユリウスを宥めカミーユがボクの前に出てきた

カミーユはユリウスのように楽ではなさそうだ

カミーユはボクと同族

大好きな弟を散々馬鹿にされてご立腹のようで目が据わっている

ブラコンの本気は侮れない

ボクも愛しのクリスが痛い目に合わされていたら相手を躊躇せず凍らせ砕くだろう

ボクは木の棒を凍らせ強度を上げる


「あら?手加減してくださいませんの?」


「ユリウスと違って君は優秀そうだからね」


「それは――光栄!」


カミーユの剣は早く重い

あくまで七歳の女の子にしてはだけど

カミーユの実力ではボクに届かない

しかし、慢心は己を殺す

油断なくカミーユの動きを見定める


「余裕そうですわね……!」


「ふふ、そんなことはないよ。令嬢らしからぬ力強い太刀筋だ」


「片手で受け止めてよく言いますわ……!」


カミーユは両手で剣を振り回しているのに対してボクは凍らせた枝を片手で扱っている

気分的には本気で相手をしているがカミーユからは手を抜いているように見えたようだ

実際、ボクは手加減している

ボクの本気は基本、相手を死に至らしめる手が多い

だから今は相手に傷を負わせない範囲で全力を出している


「受け止める?馬鹿を言ってはいけないね。ボクはただ受け流しているんだ。非力なボクが君の剣を受けたら潰れてしまう」


「いちいち気に障りますわ……可愛らしいユリウスを痛めつけるなんて人の心はありませんの……?」


「ハッ、あれが可愛らしい?可愛らしいとはボクの妹にこそ相応しい言葉で彼には身に過ぎる評価だよ」


「貴女のような脳筋王女にはユリウスの魅力は理解出来ませんのね!あぁ、可哀想!」


「あれに魅力を感じるほうが可哀想だとボクは思うね」


「なんですって……!」


「文句があるならボクを倒してみなよ。無理だとは思うけどね」


※ ※ ※


数刻後


「ボクの勝ちだ……!」


ボクはカミーユを侮っていたようだ

このボクがこんなにも苦戦することになるなんてね


「このワタクシが負けた……?」


絶対の自信を持ってボクと戦っていたカミーユは膝を突いていた


「なんてアホらしい勝負ですか……」


ベルリネッタはボクとカミーユの戦いに呆れてげんなりしているが外野は大盛り上がりだ


「カミーユ・パーシブル、ボクは君に心からの敬意を示そう」


ボクは座り込むカミーユに握手を求める


「いい戦いでしたわ。でも、次は負けませんわよ?」


カミーユは握手に応え悔しそうで、しかし晴れやかな笑みを浮かべた

戦いを見届けた外野の騎士達の拍手喝采が王城を轟かせた


「姫様、いつから剣の試合から妹自慢になったんですか?それでこんなに盛り上がれる騎士達は馬鹿の集まりですか……」


そう、ボクとカミーユが行なった試合はいつの間にか妹自慢に切り替わっていた

カミーユは弟自慢である

どちらの妹、弟が優れているか言い合いになり、交代で自慢し、先にネタ切れになったほうが負けのような空気になったのが原因だ

クリス自慢で負ける訳がないと思って軽く捻ってやるつもだったんだけどボクはネタ切れ間近まで追い詰められていた

初めて会った好敵手、認めるほかにない


「このボクがクリス自慢その2158まで引き出されるなんて誰が思うだろう」


「そんなに美点挙げられる両者に恐怖しますよ……。姫様、以降は気を付けてください。妹様が恥ずかしさで悶えてしまいますからね」


クリスはまだ三歳だから大丈夫だと思うしユリウスなんて終止得意気な顔をしていたから問題ないかなって思ったりする


「さて、カミーユは教育する必要がないことがわかったし……」


ユリウスを徹底的に叩きのめして負け犬根性を植え付けるとしよう


「おねぇたまー!」


「今日はここまでだ。ベル、行くよ」


「姫様!妹様が来たからといって速攻で投げ出すのはどうかと思いますよ!?」


ボクは凍らせた枝を放り投げ今にも走り出しそうなクリスの元へ急いだ

ユリウスの教育?時間はいくらでもあるんだ

なら、クリスとの時間を優先するのが世界の選択だと思うね





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