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〈41〉




「始め!」


「ヤアアア!」


合図と共に正面から切り込んでくるクラスメイト

ボクはそれを横に体を逸らし斜め前に一歩、踏み込む

結果、横に構え置いていた剣に相手は突っ込む


「ガ……ッ!」


一本


「そこまでっ!」


模擬戦

最小の動きで的確に刃を落としている剣を叩き込む

基本的に相手の勢いを利用したカウンター

ルールは一本先取なので強く打つ必要がなく、疲労することがないのがいい

防具を付けているので骨を折ることもあるまい

前世では一度も出たことはないのだけれど、体育の授業はいいね

雑魚相手にひたすら無双するのもまたには悪くない

魔力は衰えても今世の身体面では健在だ

素人に毛が生えた程度の相手に後れを取る道理はない

温室育ちのお坊ちゃま達は剣が上品でいけないね

平民の雑な剣のほうが、ひやりとする場面はあった……いや、特になかったね

雑なのは嫌いじゃないけどね

表情筋が死んでいるから負かした相手に「見下されている」と印象を持たれ、勝手にヘイトが溜まっていくが仕方ない

実際、雑魚と思っているし、彼等の憤りは最もだ

クリスレベルではないとボクの表情は動かせないぞ

そんな生徒がこの学園に存在するとは到底思えないけどね

ここは蛮族の国ヴォルキアから来た転入生ことボクとセリカの独壇場だ


「……セリカ?」


「なんだよニア様」


「女子の君がなんで男子の授業に混ざっているのかな」


普通、体育の授業は男女分かれて行うものだというのはボクでも知っている

ボクは今は男子だからいいとして、スカート姿の君が男子と剣の打ち合いに混ざっているのはおかしくないだろうか

他の生徒も当たり前のように受け入れているけど、おかしいよね

一人だけ女子がいるの

セリカが勝つ度に歓声上げてるよね

ボクにはそういうのないのに

男女差別するつもりはないけれど、誰もツッコまないならボクがツッコむしかないじゃないか


「だって、アタシのほうが強いからな」


……そうか

強ければ許される

蛮族ルールはマーキュリーでも適用されるのか


「じゃあ、やろうぜニア様。準備運動は十分だろ?」


死屍累々

セリカに挑んだ男子は全滅していた

男子のプライドボロボロで涙している

強く生きて欲しい

流した涙が君達を強くする

死ぬほど興味ないけど


「いいだろう。遊んであげるよセリカ」


体を動かさないとなまってしまうからね

いつでも万全に動けるようにしておかないと、万が一がある

外野がどっちが勝つか昼のメニューを賭けはじめた

どこの国も賭け事が好きだね


「ちょっと、待てよ」


見世物と化した授業に待ったをかける人物が現れた

野生の犬のような顔をした生徒だ

教師ではない

むしろ教師こそ止めるべきでは

その教師は賭けるのが金銭でなければセーフという顔をしていた

というかボクが勝つに賭けていた

待ってを掛けられて今度は豆鉄砲を食らった顔になっている

本来、君が言うべきことだからね?


「お前、調子乗り過ぎてんじゃねぇか?」


「…………誰?」


見覚えはある

最近あった気がする

たっぷり10秒考えたが思い出せなかったので素直に尋ねた

聞くは一時の恥聞かぬは一生の恥というしね

死ぬほどどうでもいい人物だったことだけは確かだ


「死にてぇのか?」


案の定、ご立腹である

素直に聞いただけなのに酷い


「ボクを殺すのは、そんなに容易じゃないですよ?」


「言ってろ」


その男子生徒は落ちている剣を無造作に拾う

やる気のようだ


「それじゃあ、一本やりますか?」


「後悔するなよ」


合図は必要なかった


※ ※ ※


結果は省略する

強いのは人を射殺せそうな目力だけだったね


「ええ、声をかける前から見ていたんでしょう。無駄に吶喊とっかんしてこなかったことは評価します。ボクの隙をうかがって仕掛ける。そのつもりでしたね?」


「……なにが言いてぇ?」


「痺れを切らすのが早すぎません?30秒も我慢できてませんでしたよ。……まぁ、これもいいでしょう。初撃、馬鹿正直に大振りと見せかけて、ボクの反撃を見越して直前で止まりましたね。でも、あの間合いで無防備に胴体を開けて動作を止めればそのままボクが突けば終わりです。実際、そうなりましたし。一手先を見たらその次も見ましょう。以上です」


想像以上に弱かった

見掛け倒し、いや見た目も噛ませ犬だ

強そうには見えない

それにしたってあれだけ大口を叩いてみせたのだからもっと奮闘するものだと思っていた


「俺を弱いと思うか?」


雨に打たれて震える子犬か

急に弱気になっても可愛くないよ

ああ、思い出したこの人、昨日ツクシとかいう先輩の後についてまわっていた先輩じゃないか

ご主人様が取られるとでも思ったのかな

ついつい、煽ってしまう


「弱い。弱いね。その程度の腕で誰かを護れるつもりかい?誰も彼も睨み付けて敵視する前にさ。適当に利用出来る友達を作っておくべきだと思うな」


「ぐ、ダチは利用するもんじゃねぇだろ……ッ」


ああ、友達ってものは無償で助け合うものなんだっけ?

貴族内ではギブアンドテイクで成り立つ友情のなんて多い事

打算で成り立っていない友達が少なくて忘れてた


「そうだ。先輩、ツクシって子と仲良かったですよね?紹介してくださいよ」


「あ?何が目的だテメェ」


「やだなぁ睨まないでくださいよ。ただ、行方不明者を探してるんですよね?ボクもお手伝いしたいと思っただけです」


期待はしていないが、なにか糸口を掴めれば儲けものだ

この男が素直に紹介してくれるとも思っていない

ボクに無様に負けた今なら或いは……


「ついてこい」


彼はあっさり受け入れた

てっきり断られるものとばかりに思っていたがやけに素直だ

ボクの返事を待たず、校舎へ歩き出す

今は授業中なんだけど

途中で抜け出すなんて悪いことをしてるみたいでワクワクするね


「おい!ひ……、ニア様、授業はどうするんだよ」


「悪いねセリカ。この埋め合わせはまた今度」


賭けがおじゃんになったことで生徒達のブーイングの嵐が起きたが、セリカがなんとかしてくれると信じてボクは行く


※ ※ ※


「『魔法』とは世界の法則を、欺くもの、生み出すもの、上書きするもの。『魔力』はそのための通貨である」

魔法がなくてもタイマンなら負けないソニアちゃん

タイマンならね

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