〈4〉
ボクは寝不足のせいで勉学に手が付かずベッドに倒れ伏していた
ボク、母のノロケ話はもう二度と聞かない
ノロケ話でわかったことは父の行動の踏襲は無理だということだ
金を持たず母と騎士団長を連れて城を抜け出し世界中を旅したとか何を考えてるんだ
まぁ、父の真似事が出来ずともさして問題はない
「姫様、しっかりしてください。このあとは姫様が大好きな剣の稽古ですよ」
ベルリネッタは寝込んでいるボクに容赦なく鞭打つ
「ベル、今のボク調子がすぐれないのわかるよね?」
それにボクは剣の稽古が好きな訳ではない
剣術が比較的に得意で少し達人の域へ足を踏み入れているだけだ
「たかが一日寝なかっただけで情けないですよ姫様。動けば目も覚めます」
「ボク、実は体弱いんだよ。一日八時間寝ないと調子が出ないのに一睡もしなかっただなんて……死んでしまうね」
ソニア・フォン・カインベルクは公式チートで魔法も剣術も最強クラス
だが、元々ソニアがそういう設定なのか、前世のボクの特徴を引き継いだのかわからないけれど体が弱いのだ
よく風邪を引いたり熱を出して寝込むことが多い
「姫様、いくら体が弱かろうが人間一日徹夜したくらいで死にはしません」
ボクの体の弱さを知らないのかい?
一年でボクのことを充分に理解してくれたと思っていたのに残念だよ
確かに一日徹夜したくらいで死にはしないけどね
「無理。今日の稽古は全て断ってよ」
「いけません姫様。一日サボると癖になりますよ」
「むぅ、ベルの馬鹿、阿呆、あとオタンコナス……?」
なんでオタンコナスって言うのか知らないや
「可愛っ!?……こほん。姫様は弱っていると年相応のお姿になられるのですね」
ボクの乏しい罵倒のレパートリーにベルリネッタは驚愕の表情を浮かべる
「子供だって言いたいの?」
馬鹿にするなよ
見た目は五歳児でも精神年齢は二十歳越えてるんだぞ
「普段の印象との食い違いが非常に可愛……よろしいと思われますよ」
「ボクを可愛いなんて無礼だよ」
氷漬けにしてやろうか?と睨み付ける
「普通は誉められたらお喜びになるものですよ?」
最近、ベルリネッタの呆れて肩を竦める動作は堂に入ってきた
慣れていなければそのウザさに怒り出す人もだるレベルだね
「おねぇたまー!」
「あれ?天使の声が聞こえるよ。ふふ、迎えが来たのかな……?」
最後にクリスの声を聞けたんだ悔いは無いよ……
「姫様、姫様、ちょっと具合悪くしただけで深刻すぎです!貴女の妹様がお見舞いにきたんですよ!」
ほぅ?クリスがボクの見舞いに来た、ね?
そんな嘘に騙されないよ
だってクリスは今、激甘な父が選んだ激甘な教師の激甘すぎて意味ないよねってレベルの勉強をしているはずだからね
「ベル、お茶の用意を。茶請けは……今日のクリスはワッフルがよさそうだね」
でも、万が一本当だったら嬉しいな
前世ではボクを心配してくれる人いなかったから
素早くボクはベッドから飛び降りて服装を整える
「姫様、姫様、凄く元気になられましたよね?予定を断る必要なくなりましたね?」
ベルリネッタの後ろにいるのは我が妹クリスじゃないか
キョトンとした顔で指くわえてる姿が愛らしい!
写真を撮って永久保存しておきたいよ
カメラがないのが辛いと思う日がくるなんて夢にも思わなかったよ
「そんなことはどうだっていいんだ。クリスを喜ばせるのが最善だと知れ」
ベルリネッタ、ボクの侍女よ
君はボクのスケジュールの確認なんかよりやるべきことがあるはずだよね?
「色々言いたいことがありますが御意に」
ベルリネッタは苦笑を残し下がった
「おねぇたま、元気でたの?」
ベルリネッタに代わりクリスが抱き着いてきた
会うたび抱き着いてくるクリス可愛いな
ゲーム通り感情が表情に出にくいといわれているボクの頬が緩みまくりだよ
「うん、クリスのおかげね。クリスがボクの病気を治してくれたんだよ。ありがとう」
クリスの頭を撫でる
抱き着いたりペロペロしたりは流石に自重する
そんなことしたら頼れる姉から変態にジョブチェンジしてしまう
「エヘヘヘ、どういたちましてー」
相変わらずの舌足らず可愛いな
明るく笑うクリスは例えるなら一輪の向日葵
この国の至宝といえるだろう
少しシスコン補正が入っている気がするけど仕様がないじゃないかクリスのような妹がいれば誰だってシスコンになるというもの
原作ソニアは知らないよ
ほのぼのした雰囲気が流れる
「ソニアが体を壊したというのは本当か!?」
バンッと乱暴に扉が開かれた
ほのぼのした雰囲気を一瞬で壊されたよ……
娘の部屋とはいえノックくらいしてほしいものだ
「父上、ボクはクリスのおかげで治りましたからさっさと仕事してください」
身長2mはあり筋骨隆々で鬣のような青い髪をしており野生の獣を思わせる出で立ちの大男
父、アレクトル・フォン・カインベルクがボクとクリスの邪魔をして部屋に踏み込んできた
「冷たくないか我が愛娘よ……。まさか、反抗期というやつか!?」
捨てられた子犬のような目をしても父の外見のせいでボクには効果はない
これがクリスなら狂喜乱舞するのにね……
「父上、反抗期ではありませんよ。ボクを見舞う暇があれば母上を手伝ってやれと言っているんですこの筋肉ダルマが」
この国、ヴォルキアは脳筋の父の代わりに書類仕事を母が受け持っている
それに対し父といえば働きもせず騎士団に混ざって剣を振っているか、何かあるごとにボクとクリスに会いに来るか
行動パターンが二つしかない
こんなのが国王だなんて世も末だ
「ソニア、今、俺のこと筋肉ダルマって言わなかったか?」
「言ってません。きっと空耳ですね」
「そうかそうだよな我が愛しのソニアが俺を馬鹿にするはずないもんな!」
「馬鹿にはしてますよ」
「え……?」
「それより用はなんです。ボクは早くクリスと二人で楽しい楽しいティータイムに入りたいのですが」
「お、俺も参加したいなー」
「父上は最低限の作法を会得するまで許可できませんね」
「そうだ!俺が作法を会得できたか試験してみないか?」
「ふむ、それはいい考えですね」
父の顔が目に見てわかるくらい明るくなった
「しかし、ボクのような未熟な五歳児では試験官は務まりませんし先生を呼ぶので別室でどうぞ頑張ってください」
ニコリと営業スマイルで父の希望をへし折る
ボクの無慈悲の宣告に父は膝から崩れ落ちる
「く……!ソニアはテレサに似て頭がいいな」
「父上はもう少し頭を鍛えたほうがよろしいかと」
「そうする……」
とぼとぼと退室していく父の後ろ姿は哀愁を漂わせていた
しかし、脳までぎっしり筋肉が詰まっている父は五分もあれば立ち直るのをボクは知っている
「クリスー、邪魔な父はいなくなったしオヤツを食べようね」
「うん!」
クリス可愛いわー
でも、甘やかしすぎるのはよくないな
クリスは食べ方が汚い
ワッフルのように汚しようのないものなら問題ないけどスープのようなものなら溢しまくる
三歳児だから仕方ないとは言えない
父も大人でありながら食べ方が汚いがあれは手遅れであり、正直どうでもいい
汚い食べ方もまた愛らしいけれど将来立派な大人になるために矯正しなければならない
クリスが父のような駄目な大人にならないよう手を打たねばいけないね