〈37〉
ボクがグランツを滅ぼし『絶氷の魔女』と恐れられるようになり、ヴォルキアが魔獣の群れを撃退してから三年の月日が流れた
シャルロットは侍女見習いということで侍女長などが面倒を見てくれている
侍女長の教育は厳しく、度々ボクのところへ逃げてきた
ボクは心を鬼にして半泣きになっているシャルロットを侍女長に引き渡した
これもシャルロットのためを思ってのことだ
決して、涙目で縋ってくる女の子の期待を裏切るのが愉しいからではない
本当だよ?
群れの頭である亜龍を失った魔獣の残党がヴォルキアに流れてくることが数度あったが、ジェイエス達自警団の頑張りにより貧民層への魔獣による被害は最小限に抑えられた
どうでもいいことだがジェイエスが結婚した
相手の方は気が強い人らしく早々に尻に敷かれているとか、娘も出来たようでおめでたい
クリスはボクに内緒でクラリナ嬢含む友人達とお茶会を開くようになった
ずっとボクについて回っていた可愛いクリスがボクに隠し事をするようになるなんて…
姉離れする妹に哀愁を覚えた
思春期の娘を持つ父の気分が少し理解できた気がする
だからといって父になにかするわけではないけどね
父は少し落ち着きを覚えるべきだ
「ぜーったい秘密ですからね!」っていうクリス可愛すぎてなんでも許してしまうね
昔はクラリナ嬢と険悪な雰囲気があった気がするけど、いつの間にか秘密のお茶会に呼ばれるだけクリスにとって良い友人になっていた
昔、彼女を捨ておかず拾っておいて正解だった
こっそりお茶会で何を話しているか聞き出そうとしたけれど、クリスがしっかりクラリナ嬢に口封じをしていた
ボクがどう行動するかクリスはよくわかっていれていてボクは嬉しいよ
セリカは女でありながら、実力を伸ばし、騎士団から慕われる存在になっていた
リハビリを兼ねた彼女との手合わせは心が躍る
勝率は半々といったところだ
これだけの実力があればボクがいなくてもクリスを護り抜けるだろう
対して、レオナルドは翳りを見せていて、騎士団の中での評価は芳しくない
副団長とは気が合うようで騎士団での地位は確率していた
屑が屑に媚びを売って取り入る姿は滑稽
ゲームではヒロインと協力してボクに打ち勝っていたが、あのレオナルドではボクには勝てまい
例え、ボクがほとんどの魔力を失っていたとしてもだ
火傷と凍傷の後で、お嫁にいけない体になったのは死ぬ程どうでもいいことなのだが別の問題が残った
ボクはグランツを滅ぼした日を境に殆どの魔力を失っていたのだ
放っておけば回復するだろうと思っていたが一向に回復する様子がない
魔力を使い尽くすことがなかったのでその反動かもしれないが、原因がはっきりしていない以上、どうしようもない
魔法は以前と変わらないものが使えるが魔力量が著しく減っており、長時間の魔法行使、大規模の魔法などはもう出来ないのだけは確かだ
公式チートの看板は下ろさないといけないね
魔法を使わなくてもそこいらの三下に負けるボクではないけど
アルルカンという男
グランツで死んでいるならいいけれど、ボクの勘が生きていると告げている
あれがまたボクの前に立ち塞がらないとも限らないし、薬物への対処なども心掛けないといけない
「ソニア、ソニア。お話があります」
「嫌な予感がするのでいいです」
ああ、拒否権はない感じのお話ですか
わかりました母よ
ソニアは母には基本あんまり滅多に逆らいませんから、笑顔で詰め寄ってこないでください
退路にはギルダーツ
奴だけなら簡単に抜けられるだろうが母のことだ
侍女長も控えているかもしれないし、闘争は絶望的
いや、逃げる理由はないんだけどね
癖になっているんだ
反射的に逃走経路確認するの
※ ※ ※
グランツを滅ぼしたツケに、ボクはマーキュリーの学園に編入することになった
グランツを滅ぼしたことが周辺諸国に知れ渡ったとき、母は交渉に尽力し、色々と穏便に済ませていたらしい
ボクと父は政治はよく分からない
国を一つ滅ぼしたのだから揉め事になるとは思っていたが、母が裏から手を回しボクの安全を確保していたんだとか
父は最悪、戦争をすればいいとくらいにしか考えていなかったそうだ
脳筋がすぎる
亜龍との戦いで疲弊しているところ国同士でやり合うなんて無謀でしかない
ボクも若干脳筋の気はあるのだけれど
結果、母はボクやヴォルキアが不利益を被ることを極力回避した
見事な手腕だと老貴族達も母を手放しに賞賛していた
しかし、全く何も失うものはなかったとはいかず、ある程度の譲歩があったそうだ
その一つがボクがマーキュリーの学園に編入すること
何の目的があってボクを学園に通わせるかはまだ分からないが、多くの国に影響力を持つマーキュリーの後ろ楯を得られるのは大きい
母には迷惑をかけたのだからこれくらいはなんてことはない
クリスも付いてくるのだから
クリスも付いてくるのだから
クリスの制服姿を拝めるというのだから
寧ろ感謝する
ありがとうマーキュリー
父も付いてくると言うが王が国を空けるのは如何なものか
父は母の笑顔の圧で沈黙した
ボクがそのまま編入するのも問題があるそうで、マーキュリーと共同で偽名を使って入学するらしい
何故か、中等部三年から
どうして一年のときに入学させなかったのか心底不思議である
高等部一年からでは駄目なのか
それは置いておくとして、偽装した履歴なんてすぐ足がつくと思うのだけど、調べられたら一発でバレる
母がなんとかすると言っているが、母ならなんとかする気がする
母は偉大だ
実はゲームから現実になって生じた一番のイレギュラーは母なんじゃないだろうか
「それで、いつマーキュリーに発てばいいんですか?」
「今からです」
「今から」
「はい、今から」
聞き間違いかな……
でも、二回言ったからないかな
今から……
そんな急に伝えなくてもいいんじゃないかなぁ……
クリスや、同行する者はすでに準備を済ませていた
もう、母上ったらお茶目さんなんだから……
悪戯大成功って飛び立ねて喜ぶクリス可愛すぎて全て許した
「うぅ~っ、やたやったぁ!」
これを聞いたら殺人すら許されるんじゃないかなって思うね
世界はこんなにも平和で美しんだ
ハレルヤ
※ ※ ※
マーキュリーへの向かう旅路は、いつかのグランツより距離を空いていて、急ぎではないので寄り道をしながらののんびりとした旅だった
久々の長旅の筈なのにグランツへの旅がついこないだのことのようだ
「ようこそルークシュアーツ学園へ!マーキュリー第四王女カサンドラ・ヴァン・ルークシュアーツが歓迎するかな!」
「長旅でお疲れでしょうが、もうしばらくの辛抱です。僕達が学園を案内致します」
いつか助けた兄妹がボク達を迎えた
母は偉大
ソニアの母がただものの筈はなかった
【速報】 公式チート弱体化
唐突に始まる学園モノ
新キャラ増えるよやったね
この学園でクリス、セリカ、シャルロットとの関係が深まるかもしれない……