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〈36〉

ヴォルキアに帰り着くまでに何度か魔獣に馬車を襲われた

業腹だけど、戦える状態ではないボクと命を奪うことに忌避感を持つシャルロットでは足手まといでしかなく、ヴェイグがその拳で魔獣を粉砕する様を眺めていることしか出来なかった

シャルロットは青褪めて、ドン引きしていた

素手で魔獣を殺す人間は恐ろしい様子

ボクは父もそれくらいやってみせるから不思議に思わなかったが、大概イカれた男だ

普段見かけない種類の魔獣がヴォルキアの周辺をうろついているということはヴォルキアは無事、魔獣の群れを率いていた亜龍の討伐を成したと見ていいだろう

群れの頭である亜龍を失うと魔獣達はたちまち烏合の衆と化し、群れ同士で食らい合いを始める

ヴォルキアに入ってくる魔獣のみ駆除していればそのうち問題にならないだけの数になる

そんなこんなでのんびりと馬車に揺られること数日


「ソニ……!」


「ああ、帰ってきたねヴォルキアに」


実はヴェルグのことを信用していなかったのだけど、ボクとシャルロットは無事ヴォルキアに帰り着いた

ときおり、セクハラ発言を飛ばしてくる女装司教ともようやくおさらばできる

前世を含めると三十路(みそじ)近いボクだけれど、今は十歳の子供だ

子供に今晩どうですと誘いかけてくる変態は正直堪えた

シャルロットなど勢いで押し切られそうだからボクが盾になって苦労二倍

しばらく変態の顔は見たくない


※ ※ ※


ボクとシャルロットを城門の前で放り出して、ヴェルグは教皇に報告に行くとウィンクを残して去っていた

今回は助かったけれど、二度とボクの前に現れないでほしい

ボクを見た門番は大慌てで城に駆け込んでいった

元気でなによりだ

でも、大分マシになったとはいえ怪我人なので、先に介抱してほしかったところだ

少しして城にいた者は我先にと飛び出してきた

元気が有り余っているようで、珍獣に遭遇したかのような目をした老害貴族共に取り囲まれた

何がしたいんだ君達

嫌がらせか

母には策謀で勝てないから娘のボクに嫌がらせか

母も珍しく息を切らせて走っていた

普段は落ち着いていて、余裕を纏う母が呼吸を乱すところを見るのはこれが初めてだ

ただし、父の惚気話をしているとき早口で喋り過ぎて息を切らせているのはノーカウントとする

母はよく帰ったと泣きながら抱き締めてくれた

戦装束を着ていた父に抱き締められると流石に圧死するのでギルダーツが死力を尽くして止めていた

滝のような涙を流し、猪のように突進してきたときは死を覚悟した

せっかく生きて帰ってきた娘を殺す気なのかな

クリスは遠慮せずに全力で抱き付いてほしい

傷口が開くくらいがなんだというのか

クリスニウムを補充できればボクは不死身だ

痛みなど、クリスへの愛おしさの前では無力と知れ

ああ、久々のクリスニウム

染みるね

それと傷も割りと沁みる

そのあと、怪我をしていることを伝えると医療室に叩き込まれた

矢継ぎ早に繰り出される質問に丁寧に答えていると日が暮れた

父は今すぐにでもグランツを滅ぼしてやらんと鬼神の如き怒りを見せたがボクが既に滅ぼした旨を伝えると流石は我が娘と笑いだした

母や老貴族達は真顔だった

クリスは凄いって言ってくれてボク嬉しい

全然覚えてないけど氷漬けだったしボクが滅ぼしたんだろうな

鼻が高いよ

不謹慎?それは妹の評価より大事なことかな

医師は暫く絶対安静、治療に専念するようボクに言った

ボク、割りと元気なんだけどな



魔獣の群れ撃退に騎士団は獅子奮迅の活躍をしてみせたそうだ

ヴォルキアに魔獣の群れが辿り着いてから迎撃しては手遅れになると、軍を率いてヴォルキアを発った父と騎士団

作戦は側面からの攻撃で魔獣を削り、撤退、突撃を繰り返し、群れの頭である亜龍の守りを薄くしていくというものだった

しかし、一刻も早くボクの救出に向かいたい父は、一秒でも惜しいと先陣切って魔獣を無視して亜龍に殴りかかった

王を死なせる訳にはいかないと騎士団も後に続いた

猪突猛進の父に振り回され、それなりの負傷を得たギルダーツは嘆息混じりに語ってくれた

乱戦になり、騎士団は負傷者多数

父は包帯でぐるぐる巻きになった

老害貴族も(バカ)に任せていては我が身が危ないと察し、想い腰を上げて私的な戦力を挙兵し、戦線に加わったとか

数日に及ぶ交戦が二桁を越し、騎士見習いも補給ではなく戦力として矢面に立たされ更に数日

群れの頭である亜龍を父が討ち取った

ヴォルキアに到達する前に亜龍を討伐できたおかげで、ヴォルキアに損害は及ばなかったが死傷者は決して少なくはない

負傷者多数でしばらくヴォルキアは戦えない

父もそれを理解しているので単身でグランツに乗り込もうとしていたらしい

それを阻止しようと騎士団と父は無為な争いを続けていた最中、ボクが帰ってきた

それはもう皆が喜んだ

余力のないというのに大国グランツに喧嘩を吹っ掛けにいこうとする馬鹿(ちち)がやっと大人しくなるのだから

貴族達も母と色々とあったらしく、ボクの帰還に心からの涙を流していたんだとか

両親が苦労をかけたね


騎士団はヴォルキアを護って死んだ名誉ある英雄に酒と勝利の歌と笑顔を捧げた

泣き笑いしながら酒を飲んで亡くした戦友を思い歌っていた

感傷に浸っている場合ではないが、人には心がある

心は当人にしか理解できるものではなく、他人の感情を完全に理解することは不可能といってもいい

ボクには彼等の悲哀に共感することはできないし、同情もしない

それはそうとしてクリスの笑顔と歌声、尊すぎて百回死ねる

え、なにクリスの歌声すごすぎないか

お金取れるとこれ

え、生きて聞いてもいいの

はー、クリス最高

語彙力が溶けて消える


「お姉様もご一緒に」


クリスが手を伸ばし、ボクを歌に誘う

クリスのいるヴォルキアを見事守ってみせた優秀な騎士達に歌くらい送ってもいいだろう

ボクはクリスの手を取る

とてもすべすべで柔らかかった


うん

クリスにリードされるのも悪くないけど、かっこがつかないからダンスの練習くらいしようと思った

騎士達みたいに馬鹿みたいな踊りならアドリブで出来そうだけどしっかりしたダンスも覚えないとね


※ ※ ※


魔獣の群れとの戦いに貢献した騎士見習いセリカとレオナルドは褒美として正式に最年少で騎士に任命された

あのレオナルドが自ら危険に飛び込むような性分だろうか

しかし、話を聞くところ活躍を見せたそうだし、確実な勝算があったのか

あの三下が武勲を上げているのが気に障る

祝いと称して騎士団のむさくるしい集団と裸で相撲でも取らせることにしよう


「姫さん!無事……ではなさそうだな」


「君こそ無茶したみたいだね。せっかく可愛いのに傷なんて付けて勿体無い」


やはり無傷とはいかなかったようで、頭に包帯、顔には擦り傷、服の下にも見えないが傷が刻まれている

対して、レオナルドは傷を負ってないのだとか

流石、主人公汚い

上手く立ち回りおる


「え、姫さんが言う……?」


ボクはいいんだよ

自分の顔なんて見えないし、顔には傷は残ってない


「よくぞ、クリスのいるヴォルキアを魔獣の脅威から護ってくれた。礼を言う騎士セリカ・ハーネスト」


レオナルドと違って魔力持ちではないセリカはその身一つと剣で大人より体格の大きな魔獣に怯まず立ち向かったのだ

その勇気に称賛を贈ろう


「勿体無きお言葉」


良い顔で笑うじゃないか


パーシバル姉弟は煩いのでしばらく放置した

クラリナ嬢はやつれていたので少し相手をしていたら、シャルロットがボクの背後を陣取り、クリスがむくれてボクの腕を取った

騒がしいくらいに元気だね

我関せずみたいな顔してないで主を助けないかベルリネッタ

違う肩車じゃない

不敬

不敬だよこの侍女

あ、お手々伸ばすクリス可愛い

ユリウスはいい加減に口を閉じろ

カミーユもお腹抱えて笑うのやめろ

品格が疑われるよ

クリス可愛い



少し刺激的なピクニックを終えて、ボクの平穏に戻った




ちょっと今忙しいので来週はお休みです

……境界線上のホライゾン最終巻とかFGOボックスガチャとか、ね

境界線上のホライゾンが終わったら死んでもいいやって思うくらい天の邪鬼にとってのソウルブックなんですけど、スピンオフ書くらしいのでまだ生きます


『主人公』に『嫌がらせ』するのを早く書きたいんですが、辿り着くまで長そうなんで次から『別の誰か』に『嫌がらせ』にいきます


魔獣の群れ、亜龍討伐戦は気が向いたら書きます

たぶん、書かない

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