〈32〉
ロキ視点
少し、時系列戻ります
ロキ、ロキ・エー・グランツはグランツの第七王子である
ロキは父のことを尊敬していた
魔力持ちへの政策は好きではなかったが、それ以外は厳格で王としての気風を持つ父は幼いロキの目標だった
ロキは将来、父のように王様になりたいと言ったことがある
そのとき父は笑いながら言った
「余のように、だと?お前のような甘すぎる男には無理であろう。なぁ、おい?」
そのときの父が子供のように笑うものだから、家臣が苛烈な父に忠誠を誓っているのが分かったような気がした
父は、良くも悪くも平等主義で貴族も平民も実力次第で重役に採用するし、人がそれぞれ一際輝くと出来ると思った仕事を斡旋する
魔力持ちや他国の人から見てみれば父は残虐な王だった
だが、グランツでは父は民草に好かれ、導く賢王であった
父が王位にいる間、グランツは安泰だと誰もが笑っていた
※ ※ ※
「ロキ」
父に呼ばれた
それはいつものように子に向ける柔らかい声音ではなく、王のして責務に向き合っているときの厳かな声音であった
「なんだよ父上!遊んでくれるのか!?」
「茶化すな。賢しいお前なら分かっているだろう。なぁ、おい」
「皆は俺を馬鹿って言うぜ!?」
「馬鹿者。そんなもの目の無い馬鹿か、分かって言っておるかのどちらかに決まっておるだろう」
話が逸れて言っていることに気付き、父は咳払いした
これ以上、話題を先送りすると本当に怒られてしまう
ロキは観念する
彼は決して愚か者ではない
自分の行く末を理解している
その上で受け入れるしかないのだと
父の、平等主義は身内にだろうと牙を剥く
「先日、お前は魔力持ちになった」
父の言う通り、数日前にロキは魔力持ちになった
体調を崩し、少し寝込んだら目の色が変わっていた、らしい
ロキは魔力を得る代わりに視力を失った
初めは暗闇の中に一人取り残られたようで不安だったが、ロキの魔法は暗闇に色を付けた
感動したのも一時、気たる未来に足元が覚束なかった
今も気を抜けば膝から崩れ落ちそうだ
世話役の爺は言いふらしたりしないと思うが、話題に飢えた好奇心旺盛な侍女達の口は塞がらないだろう
箝口令など引いたところで意味はない
ロキの目の色が変わっている以上、隠し通すことは難しい
「魔力持ちはどうなるか分かっているな?なぁ、おい」
「俺も、爆弾にするのか?」
否定してほしかった
無理だと頭で理解していながら父の恩情に縋った
「そうだ」
その浅ましく卑しい内心を見透かしたのか包み隠すことのない肯定が来た
「我が愛しい息子よ。お前は、魔力持ちだ。魔力持ちには魔力持ちの役割があり、責務がある。例外は許されないのだ」
逃げることは許されない
縋ることは許されない
父は理念を曲げることを許さない
それだけ父の『色』は気高く、美しかった
そして、なにやら覚悟があった
ロキに選択肢は存在しない
ロキの地下送りに友人や世話役が強く反発してくれたようだが、無駄だ
友人の少女は無謀でも諦めないと思う
会えたらロキから説得したいが、彼女は絶対に会いに来ない
ロキが死ぬそのときまで
こうして、ロキは王子という身分であるにも関わらず地下に送られることになった
※ ※ ※
地下での暮らしは大変だった
見張りの衛士は一応、王子なので直接罵るようなことはなかったが内心で見下していることは『色』を見れば分かった
同じ魔力持ちからも蔑まれた
王子でありながら底辺まで突き落とされ、へらへら笑う馬鹿王子
終ってるのが分からないのか
お前の父のせいで地獄へ送られたんだ
彼等の『色』は濁りに濁っていた
濁らせたのは父だ
だから、父の代わりに彼等に誠実であろうとした
嫌われようと親しくなれるように努力した
結果、視力を失うことになったが『色』を見る事で世界を知覚出来たのでロキは犯人を許す
それにロキの世界は——
※ ※ ※
隔離されてから、地下に来てから初めて友人が出来た
隣国の王女とその従者と思う女の子
王女の『色』は何故か二色あるように見えたが、『色』から父の事を恨んでいる様子はなかった
死ぬのが怖くないようで、なんというか肝が据わっている
女の子の方は『色』に恐怖が滲み出ていた
父、グランツ、ロキ、終いには自分すら恐れていた
ソニアが傍にいるときだけ『色』が安らいでいた
ソニアを強く信頼しているのだろう
ソニアの次くらいに信頼される人間になってやろうと思った
余計、警戒された
何故だ
※ ※ ※
ソニアが連れていかれてしばらく経った頃
代わりによく知る足音が近づいてきていた
「坊ちゃま」
「ダートン」
それはロキのお目付け役の爺だった
歓談に来たわけではなさそうだ
ダートンは重々しく口を開く
それは懺悔のように聞こえた
「もうじき、ヴォルキアとの戦争になります。そうなれば多くの魔力持ちが消費されます。坊ちゃまとて例外ではありません」
「俺は逃げねぇよ」
「しかし!王は坊ちゃまであろうと……」
「分かってる」
「ならば、尚更逃げるべきです!手筈は整えております!マーキュリーに逃げれば王とて手出しは出来ません!」
「父上に失望されることだけはしたくないんだ。分かってくれよダートン」
「坊ちゃま……」
逃がしたいなら無理矢理にでも連れて行けばいいのに、ダートンはそうしない
俺の意思を尊重してくれて嬉しいな
罪悪感から来るものだとしても
俺は従者に恵まれていた
だから、俺は不幸なんかじゃなかった
「あ、そうだ。その子、シャルロットちゃんは逃がしてやってくれ。友達なんだ」
贅沢を言えば、他の魔力持ち全員を逃がしてほしいが、逃がせるのはよくて二人くらいだ
ダートンに無理は言えない
いや、無理は言ってるか
でも、無理は承知でここに来たんだろうから少しくらいは許してほしい
「……かしこまりました我が主」
やがて、何を言っても無駄と悟ったダートンはシャルロットを牢の外に招く
シャルロットはかなり躊躇ってくれていたが、最後には行ってくれた
ダートンに怯えているようだが、安心していいんだ
お前は必要以上に怯えている
世界はそんなに弱くない
この一週間、俺の言葉はシャルロットに少しでも届いたろうか
届いているなら俺が生きていた意味はあると思える
「…………」
シャルロットは何も言わない
何を言えばいいのか分からないんだ
申し訳なさそうに俺を見ては目を逸らすを繰り返している
良い子だ
将来、いい女になると思うぜ
ソニアは悪女になるな
賭けてもいい
「そろそろ、行ったほうがいいんじゃねぇか?」
「ええ、そろそろお暇します」
「長生きしろよダートン」
「……坊ちゃまの未来が、明るいものであることをお祈りいたします」
ダートンの『色』には俺への後ろめたさがずっと付き纏っていた
今、それが強くなった
このままだとダートンは後悔を死ぬまで抱えて生きることになる
だから、言おう
わざわざ口するのはかっこよくないけど、言わなきゃ駄目だよな
「ダートン、俺はお前を恨んじゃいねぇよ」
「……!坊ちゃまは優しい方だ。私が、王に報告したせいで牢に繋がれても、ついぞ責めてくれませんでした」
「ダートンが言い出さなくてもバレてたんだ気にすんなって」
「坊ちゃまが付いてきてくださるなら考えますが」
「なら、平行線だ。俺じゃ、駄目だってことだな」
「全く、その潔さ。誰に似られたのか」
※ ※ ※
泣き笑いの表情を残し、老人は幼き少女を誘導し、ロキの前から去っていった
最後まで言わなかったがロキはダートンの事を、父の次に尊敬していた
彼は不敬にもロキを守ろうと父に意見したのだ
父は自身の築いた規律を乱す者に容赦しないことを知りながら、死を恐れず、他人である子供を守ろうと抗議したのだ
結局、は地下に送られた
ダートンは己の間違いと無力を嘆き、苦しんでいたが、彼の行動は全く無意味ではなかったのだ
ダートンの懇願が父に届いたのか
それとも父といえど肉親の情を捨てきれなかったのか
ロキは魔力を封じられていなかった
父は何も言わなかった
ロキの魔法はなんの脅威にもならないから捨て置いたと捉えるべきだろうか
魔法を封じられなかったロキは『色』を通して、グランツを見ていた
暗く淀んだ地下だけがロキの世界の全てではなかった
色のピントを『地下』から『グランツ』に広げるだけで世界の『色』は拡張した
暗闇の中で、鮮やかな色に取り囲まれていた
無限の色がロキの見ている世界だった
暗い色も世界を彩る大切な一色だ
彼等もいつか分かり合えると信じていた
「行ったか?」
普段なら足音が聞こえるまでダートンに気付かないなんてことはない
地下に足を踏み入れれば『色』の明るさで気付く
今、ロキの世界は黒一色に塗り潰されていた
ダートンの来た事にも足音が聞こえるまで気付かなかった
あれだけ騒がしく騒々しかった『色』がもう見えない
理由はおおよそ検討がついている
寝ている間に何者かがロキの枷をただの枷から『魔力封じ』にすり替えたのだ
最初は驚いた
驚いている間にソニアが連れていかれていて、ダートンが来た
誰が何のために何の意味があってそうしたのかは分からないが、分からないことは考えないようにした
考えるだけ無駄なのだ
それなら楽しいことを考えた方が建設的だ
父は馬鹿者と笑うだろうか
世界はどこまでも黒一色で、静寂で、心が落ち着いているのを感じる
少し寒い気がするが、大の字に寝転がって今を噛み締める
「静かなのもまたには悪くねぇな……」
いつもみたいにヘラリと笑って、ロキ・エー・グランツの生涯は閉じた
地下から生命の灯は残らず、氷の中へと消え去った
タイトル「主人公に嫌がらせを」って詐欺ではってレベルで出番のないレオナルド君
寧ろ、出番がないのが最大の嫌がらせでは?そう思うとタイトル詐欺ではなくなったぜ!
死ぬほどどうでもいい小話
ソニアとレオナルドはなに食わぬ顔で攻略サイトを見ながらクリアしていくスタイル
レオナルドはまずバッドエンドを回収してからトゥルーエンドに
ソニアはバッドエンド無視ってトゥルー直行します
バッドエンド回収しないとトゥルーいけないゲームではなかったのでソニアはバッドエンド√を実は知りません
というか、転生してからそれなりに時が経っているのでソニアもレオナルドとうろ覚えな所が多々あります
これが後々、響いてくるかは神のみぞ知るところ




