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〈29〉

時間は今に戻る


アルルカンに敗北し、目覚めればボクはシャルロットと共に拐われている最中であったわけだ

揺れから馬車で移動していることは窺える

案の定、縛られているし、剣は取り上げられているし、『魔力封じ』の手錠で魔力は封じられていた

外から喧騒が聞こえないところ、既にヴォルキアの外に出ている可能性がある

慢心せずして何が公式チート悪役王女か

結果がこの様だよ

シャルロットと離されなかっただけマシとしよう


「これこれは、お目覚めですか人形姫。数年ぶりに顔を拝見しますが随分な醜態ではないですか」


見張り役の小物がやたらとウザったい顔で馴れ馴れしく話しかけてきた

どうやらボクと面識があるようだが

はて、記憶にない


「……誰かな?」


「おまッ!忘れたとは言わせねぇぞ!ドラゴだ!ドラゴ・エルリュートだ!」


丁寧な口調を数秒で殴り捨てるところ本当に小物のようだ

忘れられたくらいでキレるなんて若者は怖いね

数瞬、記憶を巡らせるが、該当する名前はない

母に覚えさせられた貴族にエルリュートなんて家名はなかった

毒にも薬にもならない貴族は覚える必要がなかったから


「……知らない名だね?」


「ッ!ッ!」


「人語を喋りなよ」


「ああああああ!クソが!セリカとかいう生意気な餓鬼が来たとき団長に報告に来た騎士がいたろ!それが私だッ!」


「……?……。……ああ、いたね!まさか、あれが間者だったとは。現実は小説より奇なりとはよく言ったものだ」


あのモブが間者だったとは

無能そうだったが間者を勤めているのだから実は有能だったりするのか

それともモブを上手く使っているグランツが有能なのか

後者だよね

侮れないなグランツ

原作では滅んでいたが故に一切触れられなかったからね

ボクに甘く見られていたことが気に食わないようでドラゴは激昂する


うるさい!ぶち殺すぞッ!」


「へぇ……」


君の方が煩いし、話しかけてきたのも君が先だったのによく喚く虫だ

潰してしまおうか


「ヒ……ッ!し、知ってるぞ!その手錠で魔力を使えないんだろ!?睨んだところで何も出来やしない!」


「ああ、その通りだね。だから、そう怒鳴らないでくれよ」


文字通り、手も足も出ない

抵抗の術を持たない今のボクは眼前の臆病者にも容易く殺されてしまう

ここは、大人しくしておこう

何事もなく救出されるのがベストな展開だけれど、望み薄だろう

ドラゴの単独犯なら城を出る前に制圧されている

魔力を使えない子供二人ではどうしようもない


「あのときはギルダーツの前で恥を掻かせてしまって悪かったね。しかし、他国に自国の王女を売るとは大きく出たものだ」


「俺だって国を裏切るようなことはしなくなかったんだがな。だが、成功すればエルリュート家を再建して貰えるんだ。悪い話じゃない」


利用するだけ利用して、用済みとなれば捨てられる可能性を考えられるが、教えてやる義理もない

あくまで可能性の話だし

それにこの男がどうなろうと興味のないことだ


「ふぅん。ところでシャルロットが一言も話さないのだけれど、何故か知らないかい?」


「あ?怖くて声も出ねぇんだろ。王女様こそなんでそんなに余裕なんだよって話だ」


そんなものか

シャルロットが他国に誘拐されるのは知っていたし、相手が魔力持ちを道具として扱う国ならばボクを棚からぼた餅と一緒に連れ帰るのも理解できる

負けたことはそれなりにショックではあるけど、魔力を封じられた上、毒にやられたのだ

実力での敗北ではない

次は勝つ(ころす)

それにボクはボクの死程度を恐れない

ボクはすでに死を一度経験した身なのだから

とはいえ、進んで死にたいわけではない


それから体感、三日ほど

ついぞ助けは来ず、ボクとシャルロットを乗せた馬車は無事グランツへ到着した


※※※


馬車はグランツの門を潜り、王城まで止まることなく進んだ

拘束されている身なので外の様子を窺うことは出来なかったが、飛び交う声は聞こえていた

ヴォルキアよりは活気に溢れているように感じた


「王がお待ちです。ソニア・フォン・カインベルク様」


王城に到着するや否や、それなりに身分のありそうな小太りの男が出迎えに来た

名残惜しくはないが、エルなんとかの坊ちゃんはここでお別れだ


「それは大変だ。待たせてしまっては悪いからすぐに向かうよ」


「ソニ……」


シャルロットが不安そうにボクの服を掴む

見知らぬ土地で知人と離されるのは心細いのだろう

まぁ、ボクとしても離れ離れされると少々、困る

丸焼きされてしまってはたまらない


「友人も一緒したいのだけど、よろしいかな?」


「ええ、勿論ですとも。ただし、お静かにお願いします」


「出来るねシャルロット?」


シャルロットは頷くと一歩離れてボクの後ろに付く

それを確認した小太りの男に先導され、ボク達はグランツの王城へと足を踏み入れた

王城はどこも無駄に大きくて装飾に凝っているものだ

絵はまだ理解出来るが、花を活えているわけでもない壷を置く理由がボクには理解できない

というか、壷一つでどれだけの貧民の生活が賄えることか

斧や剣はいい

ただの観賞用ではなく、実用もできると尚良しだ


「着きました」


無言のまま、王の間に着く

どうでもいいことだけれど、必要以上に扉を大きくするのは何故だろう

尊厳が出るからとかだろうか


「ヴォルキアの姫であれば、心配ないとは思いますが、粗相なきよう」


小太りの男は扉を兵士に開けさせ、進むように促す

彼は同席しないらしい

いよいよ王様に会うと思うと緊張してきたのかシャルロットがおっかなびっくりボクの後に続く

ボクはグランツの王に謁見する


「グランツへようこそ、蛮族の姫。余はお前を歓迎しよう」


その老人は、正しく王だった

正直、父以外の王を肉眼で見たことがなかったが、なるほど、王とはこんなにも目に見えて覇気を持つ者なのか

怒る者も、策謀する者も、死を前にする者も、グランツの配下はこの老人の前では等しくこうべを垂れる

畏怖の象徴、憧憬の対象、グランツそのもの

この老人は、きっと……


「やぁ、始めましてグランツの王。随分な招待だね?」


「はっ、蛮族の姫に従来のエスコートなど無粋であろう、なぁ?」


早速、ご挨拶だ

グランツの王は玉座より立ち、ボクに歩み寄る

ボクの後ろにいるシャルロットなど視界にも映っていないらしい

側近が王を嗜めようとするも、逆に王の眼光に怯む

彼我の距離

敵国の長が目と鼻の先にいる


「どうしたアレクトルの娘?あ奴なら今頃余の首をへし折っておるぞ、おい?」


「父と比べないで欲しいね。精々、腕一本が限界だよ」


勿論、拘束を破って腕を折るなんて芸当、子供のボクには出来やしない

出来たとしてもやらない

今のボクはか弱い乙女なのだからね


「くくっ、ははははは!蛮族の娘もまた蛮族だな、おい!」


ボクのハッタリにグランツの王は気をよくしたように笑う

何が嬉しいのか

老人の考えることは分からない


「なぁ、アレクトルの娘。価値のない人間は存在すると思うか?」


いきなりの問いかけ

この問いは、この王を形作る意味なのだろう

この問いかけの答えが、この王を王たらしめる価値観なのだろう


「君は全ての人間が平等だとでも言うのかい?」


「いやいや、そういう意味じゃない。平等であるなら魔力持ちを道具のように扱っておらんわ」


「道具は人間じゃないだろう?」


「確かに。だが、俺が言いたいことはそういうことじゃないんだよテレサの娘」


グランツの王は水を一口含み、話を続けた


「無能な人間にも、蔑まれる人間にも価値はあると余は思う。無能な人間は半端な人間の自尊心を守ってくれる。蔑まれる人間は蔑まれることで他者の精神の安定を保っている。どうだ、なぁ、おい。如何な人間にも価値はあると思わないか?」


「魔力持ちも同じだと?」


「その通りだ。魔力持ちは余達、非力な人間に代わって命と引き換えに敵を大勢殺してくれる。素晴らしい価値を持つ人間(どうぐ)だ。素晴らしいだろう」


「同意しかねる」


魔力持ちは数が少なく、稀少なのだ

使い捨ての道具にするなんて勿体ない


「テレサも同じことを言ったよ。奴等は道具の価値を正しく理解しておらん。だが、余ならば有効に活用してやれる。故に、この国に招待した訳だ。お前は予定になかった客だが、魔力持ちに変わらない。丁重にもてなそうじゃないか」


「それはどうも」


文字通り、厚待遇か

劣悪な環境に叩き込まれるかどっちだろう

断然、後者だよね

父と因縁あるし


「下がることを許す。連れていけ」


どうでもいいことだけれど、最後までシャルロットについて触れなかったわけだが忘れていたのだろうか


※ ※ ※


「くるくる、回る♪くねくね曲がる♪予定にないことするの柄じゃないんだけどなー。『本来の流れ』から逸れたのは貴女の責任なのよソニアちゃん。だから、罰を与えないといけないわよねー♪」


女の歌声に合わせて、ケタケタと合唱が鳴り響く

女が踊れば、嗤いは一層大きなを増す

けれど、耳障りな合唱を聴く者はいない

女は自分の世界に入り込んでいるのだから


はい、皆様お久しぶりです天の邪鬼であります

『悪役王女』の更新待っていた人には長らくお待たせして申し訳ねぇです

そういや、こんな小説あったな程度に思っていただけているなら幸いっす

あらかじめ謝っておきますね

次の更新はいつになるか分かりません

いや、まぁ、待ってる人いないと思うんですけど

大丈夫ですよね……?

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