〈3〉
貧民層を後にしたボクは食べ物の匂いに釣られ寄り道をしていた
そして、気付けばあまりボクが顔を出すことなくパレードが終わっていた
「まぁ、いいか」
「姫様、たまに五歳児とは思えないくらい馬鹿になりますね!?」
寧ろ普通の五歳児はボクより自由なんじゃないかな
貴族生まれでなければの話だけれどね
屋台での戦利品を手に城に帰ったら父に抱き締めらた
親馬鹿な父のリアクションは反応するのが面倒だから無視しよう
しかし、父よ
五歳児のボクを全力で抱き締めないでほしい――冗談抜きで死んでしまうから
父の拘束を解いたあとは母に叱られた
そりゃボクの存在をアピールするためのパレードで本人が失踪なんて絶句するしかないだろうね
予想外だったのは母以外、ボクを叱ろうとしなかったことだ
ボクに出し抜かれた騎士団長に聞くと子供の頃、父もパレードを抜け出していたそうだ
皆、血は争えないですなと苦笑していた
脳筋な父と似ていると言われて喜べばいいのか怒ればいいのか複雑な気持ちになった
中身はソニア・フォン・カインベルクとは別人
ボクは彼等の本当の子供ではないのだから
それはさておき、ボクが少し失踪したことでクリスが大泣きしているそうなので宥めに行こう
クリスの好きそうなお菓子をたくさん持ってね
クリスが泣くと知っていたら寄り道なんてしなかったよ
※ ※ ※
原作のクリスティーナ・フォン・カインベルクは姉と違い魔力が発現せず、剣術の才能は皆無、どれだけ努力しようが勉学で姉に追い付けず、どこか天然で王族としての風格が欠片もなく“出来損ない姫”と馬鹿にされて育った
クリスは姉のソニアに劣等感と抱いていたけれど偉大な姉と羨望と敬意も抱いていた
姉のソニアは不出来な妹を毛嫌いし、拒絶していた
その影響でクリスは比べられることを嫌い平等であることを好んだ
何事においても平等であろうとするクリスは大層民衆に受けた
しかし、どう足掻いても越えられない姉との実力の差から目を逸らすクリスの現実逃避でしかない
原作のソニアはそのことに気付いており更にクリスを嫌った
主人公はクリスの弱さに気付き、その弱さを否定せず肯定し共に歩むことでクリスを攻略することが出来る
そして、クリスと他のヒロイン、主人公が協力し悪役であるソニアを倒し魔王を封印する
その後、クリスとレオナルドは結婚する
そんなハッピーエンドが許せる訳がない……!
大体、ソニアとの戦いで全員ボロボロなのに何故、魔王は負けるのか
ゲームだから仕方ないね
でも、現実は甘くないから死ぬよね
もし原作通りに進んでボクが死んだとしてもクリスが死ぬのは阻止してみせる
クリスを守るためヒロインの座から引きずり落とさないと
あんな下衆野郎にクリスはやらない
まぁ、下衆でなかったとしてもあげるつもりなかったけどね
クリスをヒロインとして折る方法は姉であるボクがクリスを拒絶しないこととその弱さを取り除いてやればいいだけだ
ボクはクリスを拒絶するどころか溺愛しているから前者は解決している
後者は比べられても問題ないようにしてやればいい
クリスが魔力持ちになることはない
剣術はいくら手を抜いてもクリスはボクに遠く及ばない
なら、勉学だけでも勝たせてやろう
ボクが才媛の姫でなくなればいい
「ベル、ボクは父のような脳筋になるよ」
ボクが馬鹿になっても誰も疑問に思うことはないはず
なにせ父が脳筋なのだから
「また、トチ狂ったことを……」
ボクの急な不思議発言に目頭を揉むベルリネッタ
「理由を聞いてもよろしいでしょうか?」
「クリスの評判がボクに比べてよろしくないことは君も知っているはずだよね?」
まだクリスは三歳だというのに下衆な大人達はボクと比較しはじめている
愛しのクリスを馬鹿にする奴等は粛正だ
「あぁ、なるほどそういうことですか。国王様にも負けず大した溺愛っぷりですね……」
納得したあと、呆れて肩を竦めるベルリネッタ
「脳筋になるいっても具体的にどうなされるのですか?」
「父が子供の頃とっていた行動を踏襲するんだ」
「姫様は父王様の若い頃をご存知なんですか?」
「知らないよ。だから知っている人に聞きにいこう」
父本人に聞くという選択肢はない
あの筋肉ダルマが昔のことを覚えているとは思えないからね
幼かった父がよく行動を共にした人物、母と騎士団長に
「おねぇたまー」
その前にクリス成分を補充しよう
本当可愛いなクリス
走ったら危ないよ
あ、転んだ
泣くほど痛かったんだね可哀想に
でも、泣き顔のクリスも可愛いね
よろよろと歩いてボクに泣きながら抱き着いてくるクリスがこの上なく可愛いね……!
※ ※ ※
「母上、お話しましょう」
母、テレサ・フォン・カインベルクはボクを見て身構えた
解せない……
「いきなり来てどうしたのソニア?また、悪巧み?」
「ボクが毎度悪巧みしているように言わないでください」
「昨日のパレードを抜け出した悪い子は誰ですか?」
母は笑っているはずなのに後ろに般若が見えた
「ボクです。ごめんなさい」
母には勝てないよ
父はボクのすることなすこと何でも許してくれるけど、母はボクが危険なことをしそうになると全身全霊をもって阻止してくるのだ
大人気ないよね
それくらいしないとボクを止められないから当然だけど
「それで何が聞きたいの?」
「父上と母上の幼い頃のお話を聞きたいです」
「まぁ、私達の馴れ初めを?」
母の怖い笑みが消え、緩んだ笑みが現れた
母は基本油断ならない人だけど父が絡むと馬鹿になる
見てるのが苦痛なくらいラブラブ夫婦でよかったよ
ボクがなんで急にそんな話を所望したか訝しむのも忘れてくれるからね
このとき、ほくそ笑んでいたボクはまだ知らなかった
――母の思い出話が日付を跨ぐほど長くなることを