〈25〉
銀髪紅眼の少女シャルロット
原作でも彼女は幼い見た目でロリ枠である
貴族ではなく、平民のため家名は持っていない
原作でセリカがソニアと並ぶ剣の天才なら、シャルロットはソニアに対抗できる魔力持ちだ
いくら相性がいいとはいえ、公式チートと渡り合える魔力持ち
また魔力が暴走するなんてことがあれば礼拝堂の二の舞だ
城内で暴走されては困る
万が一、億が一、クリスに被害が及ぶようなことは許せない
現在、ヴォルキアには魔力持ちがボク含め少なくとも七人存在しているが、規格外を押さえ込めるのは同じ規格外だけだった
シャルロットの面倒をボクが見るのは合理的な判断だ
母は何も間違ってはいない
ボクも賛成した
「私もご一緒しますお姉様」
見る者悉く魅了する女神の微笑みでクリスが言った
クリスもシャルロットの保護に協力したいという
正直、危険があるうちは大事なクリスをシャルロットと会わせたくない
心苦しいが説得をしなければ
「クリス、聞い……」
「いいですよねお姉様?」
いつもなら上目遣いでお願いしてくるのに、今回は笑みを強くして有無を言わせぬ迫力を出していた
この威圧、イリア叔母様の教育の賜物に違いない
可愛い妹が強くなっていくのは嬉しくあり、同時に寂しくもあるね
父とボクは内心反対していたが、母がヒルダとソニアが付いているのだから問題ないと許可した
ヒルダはクリス付きの侍女だ
問題ないとはいうが、あのドジっ娘メイドに何を期待すればいいのか
というかクリス付きの侍女なのに殆どクリスに付いていない
謎の侍女だ
ここ一週間姿を見ていない
噂だが、凄まじい方向音痴で一人にすると一ヶ月は自室に帰ってこれないほどらしい
クリスの世話は行方不明のヒルダに代わりいつも通りベルリネッタが務めた
※ ※ ※
シャルロットを保護している部屋は何かあってもすぐに対処できるよう、ボクの部屋の近くにある
シャルロットが暴走する要因はほぼ排除しているとはいえ、幼い少女が何を切っ掛けに癇癪を起こすか分からない
あの少女は見た目より内面が幼いのだ
いつ魔力を発現したのか不明だが、恐らくそのときからシャルロットの時間は止まっている
精神な不安定な少女をボクはいつ暴走してもいいようにボクの氷でコーティングした部屋に閉じ込めた
赤子と変わらない幼子を氷漬けにした部屋に押し込めたことに罪悪感はなくもない
ボクは大丈夫だけど、シャルロットは寒いのは苦手のようだ
最後に見たとき毛布にくるまって震えていた
大悪党なボクに罪悪感を抱かせるとは……シャルロット、中々の猛者だ
扉を開けたら丸焦げということがないよう魔力を集中する
ボクが燃えるのは構わないがこの世の全ての財宝であるクリスが後ろにいるので最大限に気を払う
氷は……解けていない
精神状態は安定しているとみてよさそうだ
「ん……ソニ……」
「よく眠れたかなシャルロット?」
シャルロットは精神的外傷からか元からなのか分からないけれど、言葉足らずな喋り方をする
原作通りだ
「私……いじょ……?」
訳、私は異常?
この幼女、朝から随分重い疑問をぶつけてくれる
原作でもこの質問が飛んできた
返答次第でシャルロットのフラグは折れる
【普通】と答えたら心を閉ざされる
だからといって【異常】と答えるだけでもいけない
「普通の人間と少し違うのは事実だ。君がその事実から目を逸らすも受け入れるもボクの知ったことではないけれど、ボクも君と同じで普通と違っているさ」
【異常】であると認め、且つ自分が彼女と同類であると伝えなければならない
原作のレオナルドは質問に答え、自分の魔法を見せていたがボクはその必要はない
今、この部屋を覆っている氷はボクの魔法なのだから
シャルロットはボクと同じく膨大な魔力を持っている
その点でいえば、ボクもシャルロットも異常だ
いや、転生者の時点でシャルロットよりボクは異常で異端で異物だったね
「へぇ、この方がお姉様の御心を盗んでいる子なんですね」
「ボクの心はいつもクリスに奪われているよ?」
「……」
心なしかシャルロットが怯えているような……
はて?ボクは怯えられるようなことを言っただろうか
「もう、お姉様ったら……恥かしいです」
照れるクリス可愛い
すごく可愛い
語彙力が死んでしまうくらい可愛い
可愛いという概念がクリスだったんだ
「……ここはお姉様に免じて許しておきますね」
小声でクリスは呟いた
ボクは耳がいいから聞き取れたが、なにか許せないことがあったのか
聖女クリスの怒らせるなんてとんだ事態だ
原因はなんだ
「シャルロットさん、私はクリスティーナ。クリスと呼んでください」
暴走の危険を孕んだ魔力持ちをクリスは恐れることなく近付き、握手を求める
ボクの妹、ダルク聖教の聖女より聖女
クリスの背中に後光が差して見える
余りの後光にやられたのかシャルロットは一度震え、クリスの手を取った
クリスの尊さに触れてしまえばシャルロットの魔力が暴走することはもうないかもしれない
「よろし……」
訳、よろしく
うんうん、クリスに友達が増えることはいいことだ
でも、ボクに構ってくれる時間が減るのは少し寂しいかな
シャルロットの顔色が悪いのは部屋の寒さのせいだと思う
「うふふふ」
「ピィ……」
ピィ?
鳥の鳴き真似かな
※ ※ ※
考えてみれば魔力の暴走など滅多に起こることではない
シャルロットを部屋に閉じ込めて二日間が過ぎたが、暴走の予兆は一切現れなかった
そういうことでシャルロットの監禁は解除された
シャルロットは客人として王城を歩き回る事を許された
ただし、万一に備えて部屋の外にいる間はボクが同行していることが条件とされた
本当の所、万一というのは建前で希少な魔力持ちを、是非とも自分の陣営に引き入れたいと考える老害貴族が結構な数いるという話でボクが老害避けとしてシャルロットを見ておくようにと母から言付けされた
頭がおめでたい老人達はシャルロットがパンダに見えるらしい
シャルロットがボクに並ぶ強者とも知らずに
ボクとしてはシャルロットの傍にいるのは好都合だ
原作でシャルロットは幼い頃に誘拐されグランツに売り飛ばされたとあった
そこで二度目の取り返しのつかない暴走が起きる
その事件を経て、罪悪感なのか疑心暗鬼なのかシャルロットは他人に関わろうとせず、王城の与えられた一室に引き籠るようになる
既に原作通りの引き籠りの雰囲気が出ている気がするがヒロインになるフラグを叩き割るチャンスだ
誘拐を未然に防ぎ、暴走をなかったことにする
ついでに原作のような人間不信に成長しないよう知り合い達と関わりを持たせてシャルロットを脱引き籠りに
柄ではないけど頑張ろうか