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〈24〉

ヴォルキアはかつて他国に放っておいても滅びる【愚者の国】と言われていた

貴族は民の血である税を使い込み、放蕩の限りを尽くしてドブに捨てる

他国に借金をしてまでパーティーを開き、国債は貯まる一方だというのに見せ掛けのドレスに身を包む

国の金庫を預かる者は国の現状に絶望して首を吊る

自分こそはヴォルキアを正道に返さんと志した若者は皆、権力だけ持った愚者共に踏みにじられてきた

王は何もしてくれない貴族の傀儡(いいなり)

さぁ、そろそろ滅びるぞ侵略して蹂躙してやろうとヴォルキアの周りの大国は腰を上げようとしていた

そのとき前王は死に、新しい王が玉座に着いた

新しい王は暴君だった

権力を盾にピーチクパーチク喚くだけの貴族を力で捩じ伏せた

王は武力こそあれ政治の手腕は皆無

隣国は焼け石に水だと嘲笑った

しかし、王の妃は膿を掃き出し、国を纏め上げ、隣国と対等なテーブルに着いて見せた

これには隣国も舌を巻き、ヴォルキアを交渉する価値ありと認めた

ヴォルキアは首の皮一枚で生き延びたのだ

これをよく思わなかったのが【グランツ】という大国だ

彼等が求めていたのは対等な交渉相手ではなく使い潰せる奴隷だった

立て直し始めたばかりのヴォルキアの国力は低い

勝手に潰れるの待つつもりだったが是非もなし

グランツはヴォルキアに宣戦布告を告げた

建前は宗教上の価値観の相違

ヴォルキアの宗教は魔力持ちは神の与えし奇蹟の御子として扱うが、グランツの宗教は魔力持ちは人に非ず、魔族同様に人の敵であるとしていた

こんなつまらない建前で戦争を申し立てられた方は堪ったものではない

しかし、ヴォルキアの王アレクトルはこれ幸いと開戦する

ヴォルキアには金も食糧もない

逆にグランツから略奪してやろうと考えた

妻が頑張っているのに自分は何も出来ないのは情けないと思った国王は自ら戦場の最戦前に赴いた

兵に激励をするためとかそういうことではなく、王自ら敵兵を討ち取るのだ

これに驚いたのはヴォルキアの騎士達だ

護るべき王が前にいる

胃に穴が空きそうだ、と騎士団長ギルダーツは頭を抱える

国王は強かった

無傷で戦場を蹂躙するほどに

然れどグランツとヴォルキアでは兵の質も数も圧倒的に開いていた

グランツは思いの外粘るヴォルキアに苛立ちを覚え、総攻撃を命じたヴォルキアの兵を囲んで潰せとヴォルキアの軍勢を掻い潜り直接ヴォルキアを制圧せよと


そして、ヴォルキアはグランツを叩き潰した


何を言っているかサッパリだろう

だが、勝ったのだ

裏を掻き、ヴォルキアに侵攻したグランツの精鋭部隊は何故か神父に全滅させられ

ヴォルキアを借金地獄に貶めた老害貴族達も「貧乏人(グランツ)に下げる頭など持たぬわ」と見当違いな事を言って、協力的だったり

少数のヴォルキアの騎士は策を弄し、正面から戦わず、卑怯で生き汚く足掻いて勝利を掴み取った

どこからか亜龍やら魔族を巻き込んでグランツを見事に撃退してみせた

それだけではなく当初の予定通りグランツから見事に金や食糧を略奪した

その戦争からヴォルキアは【蛮族の国】と呼ばれ恐れられるようになった

ヴォルキアがグランツにどう勝ったのかは当事者すら理解していない謎だ

当時の事を聞いても、【千里眼】を持つ母は軽く笑うだけだ

笑うというより嗤うだろうか

ふと、蛙の子は蛙という諺が浮かんだ

他意はない

こんな話を長々としたのには理由がある

ヴォルキアとグランツの仲は険悪

グランツはヴォルキアに報復する機会をずっと窺っていた

そして、ヴォルキアの第一王女ことボク、ソニア・フォン・カインベルクを見事に拉致してみせたのだ

……ボクはどこでヘマをしたのだろう


少し前に時を遡ろう


※ ※ ※


原作のヒロインの一人

無口な魔法使い、シャルロットとの出合いは刺激的だった

情熱的と言い換えてもいい

ヴォルキアは魔力持ちを許容しているし、教会も魔力持ちを隣人として扱っている

王妃、テレサ・フォン・カインベルクは魔力持ちであるが危険性の低さとヴォルキアへの貢献から国民に受け入れられている

しかし、火を出したり氷を出せれる攻撃的な魔力持ちを本質的に恐れるのが普通の人間なのだ

ボクだって【血濡れ王女】や【人形姫】として多くの国民から畏怖を集めている

魔力持ちは人々の恐怖を煽り、魔力持ちを排斥しようし、魔力持ちが反撃し、火種が大きくなっていく危険性が高い

隣国のグランツが良い例だ

グランツでは魔力持ちに人権はない

魔力持ちが暴走するトリガーは激情の発露と生命の危機であるとされている

魔力が暴走すると周囲への被害は尋常ではない

例えばの話だ

ボクの魔力が暴走すると冗談抜きで国が滅ぶ

故に、教会もとい正式名称【ダルク聖教】に保護されている魔力持ちを王城で引き取ると持ち掛けるとダルク聖教は二つ返事で了承を出した

なんでも、手を焼いているんだとか

引き取りに来てほしいとお願いされたので出向くと、やっと厄介払いが出来ると顔に書いた担当の神父に出迎えられ、全焼した礼拝堂に案内された

基本、白い建物である礼拝堂が黒く啜れている

担当の神父はボクに問う


「王女殿下は魔力持ちでありましたな?」


「うん。大体、察した」


シャルロットはまだ自分の魔力を御せていない

故に、暴走してシャルロットの意思に関係なく周囲を燃やす

そういうことだろう

原作で読んだ彼女の過去からして有り得る話だ

【氷】の魔力は繊細なもので扱いにくいが使い方さえ心得ていれば暴発することはない

対して【火】の魔力は大雑把に使えるが、荒々しく制御が難しいと聞く

必然と身の丈に合わない膨大な魔力に幼い少女は振り回される

少なくともシャルロットは二度、取り返しのつかない事故を起こしたと語っていた


「……っ」


焼け焦げた礼拝堂に追い討ちをかけるよう火の手が上がる

私の礼拝堂が、と嘆く神父を尻目にボクは燃える礼拝堂に近付く


「姫様」


「大丈夫だよベル」


ベルリネッタが同行しようとするが丁重に断らせてもらおう

ベルリネッタは有能だが、ボクと違って広範囲への無差別魔法には耐えれない

【火】は壊すことに特化していて、【氷】は停めることに特化している

自身すら食い殺そうと狂い猛る紅蓮を停めるのは難しい

相性的に【氷】のほうが不利ではあるが、経験の差でボクが勝る……筈だ

炭となった扉を氷柱で破壊(ノック)して、燃える礼拝堂に足を踏み入れる

踏み入れたが、燃え落ちた天井で道が塞がれていたり、未だ火が燃え盛っていたりして足の踏み場がなかった

炎は意志を持っているかのようにボクに殺到する

魔法の厄介のところは魔法でしか相殺できないことだ

例えば、ボクの氷はただ炙ったところで解けはしない

シャルロットの火もまた只の水では掻き消せない


「凍って停まれ」


炎にボクの魔力を通し、猛りを抑えて凍らせる

炎を凍らせるという変態の所業が結構、疲れる

停止の魔力と猛りの魔力がぶつかり、炎と共に氷解して砕け散る

普段より、大量に、且つ繊細に魔力を使わなければシャルロットに辿り着けそうにない

骨が折れるね

炎が氷に包まれたそばから砕けて欠片が宙に舞う

赤と青の欠片が廃墟と化す礼拝堂に彩りを与える

それは幻想的な光景を醸し出していた

けれど、光景を楽しむほど余裕はなかった

熱い

ただひたすらに熱い

しかも臭い

ボクは熱いのは好きじゃないし、臭いのも嫌いだ

一気に凍らせてしまいたいけど、シャルロットを見つけるまでは我慢しなければならない

加減せず魔法を開放すれば、炎もろともシャルロットを殺してしまうおそれがある

地道に炎を消していく

少し大きい礼拝堂で、祈りを捧げる場所以外にも部屋があった

一つずつ虱潰しに調べるかと面倒に思っていたところ、燃え盛る炎の中、微かに声が聞こえてきた

すすり泣く声だ

声のする部屋に歩を進めると、焼け落ちた扉の前で銀髪の少女が蹲って泣いていた


「……」


少女はボクに気付き、顔を上げる

泣き腫らした目は炎より深い紅だった

年端もいかない幼い少女だ

美しいであろう銀髪が炭で啜れて台無しになっている


「……」


シャルロットは泣き止み、徐々に魔力の暴走も止まっていった

シャルロットは何も言わず、ボクをジッと見ている


「……」


つられたわけではないけれど、ボクも何も言わない

良く当たるボクの勘が告げている

下手に口を開けば敵認定される


「……」


互いに言葉はなかった

無言の睨み合い

やがて、可愛らしい腹の音が鳴る

するとシャルロットは俯いた

なるほど、お腹が減っているようだ


「お嬢さん、ボクとご一緒にディナーでも如何ですか?」


食事の誘いなら人に懐かない子猫も乗ってくれるだろうさ

これがボクとシャルロットの出逢いだった


三人目のヒロイン

無口な魔法使い登場

ロリ枠って必要でしょう?

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