〈22〉
数か月ぶりの更新デース!
プロットが大変なことになってます
最終章の構成が先に完成しそう……
アルジュナ・アスカルトが行方を眩ませてから三年ほどの月日が流れた
アルジュナ侯爵がどこに消えたのか
手掛かりは見つかっていない
救いは爵位の引継ぎを済ませており、隠居の身であったことくらいか
しばらくの間、祖父を失ったクラリナ嬢を慰め、クリスが妬くなどあったがおおよそ平和だ
嫉妬して頬膨らませて、不満です、構ってお姉様アピールには不覚にも鼻血が出てしまった
ボクの妹が可愛い過ぎる件
レオナルドは相変わらず隙を見てクリスに近付こうと躍起になっている
隙など作るはずがないというのに
レオナルドは未だクリスに対面すること叶わず追い返されては取り巻きの女の子に慰めて貰っている
騎士見習いの有望株にはもれなく貴族の子女が群がるようでツートップであるレオナルド派とセリカ派の派閥が出来上がっていた
レオナルドは来る美少女拒まずで鼻の下を伸ばしていた
まだ子供だから手までは出していないと思うけど
こんな不誠実な男にクリスを会わせるなど目が腐ってしまうとボクはゴミを見る目をクズに向けていた
もう一方のセリカも舞い上がっていた
女子達に騒がれるのが嬉しいらしい
憧れの騎士像に近付いているとのことだ
ボクならあの煩さに付き合いきれない
キャーキャー叫んでよく喉が潰れないものだ
そして、得意気な顔をボクに向けるセリカの意図が分からない
自慢?自慢なのかい?
どうでもいいけど、対人戦で負けなしのボクは【無双の剣姫】なんて通り名が増えていた
初戦のあれ以降遅れを取っていないとはいえ、セリカに一度だけ負けたことがあるのにおかしなものだ
それをいうとセリカは複雑そうな顔をする
ふ、ボクに自慢なんてするからだ
せいぜいに頑張ってボクに追いつくんだね
ボクの大事なクリスを守らせていいかなと思うくらいに信頼しているんだから
※ ※ ※
今の生活の日課は寝起きに、現神人クリスに祈りを捧げることから始まり
剣の鍛錬
最低限の勉学
クリスのお茶する
稽古など、頑張るクリスを観賞
クリスとお風呂
クリスとお昼寝
脳内クリスフォルダの整理
暇潰しに森の探索などがある
殆どがクリスなのは当然と言えよう
今は、国の外にある森で狩りという名の鍛錬をしている
動きやすいようにドレスではなく、軍服だ
やはり、ズボンは動きやすくて良い
これを知ったらヒラヒラで邪魔なドレスには戻れなくなりそうだ
「姫様、自然破壊はここまでにしてそろそろ帰りましょう。日が暮れます」
「人聞きが悪いね」
ボクの鍛錬を自然破壊と評する侍女からタオルを受け取る
いや、ボク汗かかないから必要ないんだけど
木々とか、生き物を含めた周囲一帯を氷漬けにしてるから涼しいくらいだ
凍った森は幻想的だとは思わないだろうか
ボクを捕食しようと不用意に近付いた魔獣など今に動きだしそうなくらい綺麗に凍り付いている
魔獣
まぁ、この世界における熊やライオンのような野生動物だ
多少ばかり元の世界の猛獣より危険だが、一般人でも数がいれば狩りも難しくない
ファンタジー世界で定番のゴブリンやオークといった人型の魔獣が存在するのかは分からない
これもよくある設定だが魔獣の上位互換である魔族が存在する
魔族を討伐するには国家を滅ぼすほどの戦力が必要になると言われているので、ゴブリンやオークは魔族に分類されないと思う
弱そうだからという偏見だけどね
魔獣と魔族の強さの間に、亜龍というモンスターが入るが、純血の龍は魔族を凌ぐらしい
出逢うことがあればボクでも殺されるかもしれない
それはそれで殺し甲斐がありそうだ
……いつの間にか、脳筋に染まっている気がする
強さの三角ピラミッドを作れば、頂点から龍、魔族、亜龍、魔獣、人間となる
最底辺に位置する人間だが、ボクは一番恐ろしい生き物であると理解している
教会の司教は魔族と一対一の殴り合いを経て生還しているし、父など亜龍を殺している
人間にとって格上殺しは珍しいことではない
ボクだって格下に負けることがあるだろう
原作での戦い然り、セリカとの決闘然りだ
ボクはチート級だが不死身じゃない
毒を煽れば簡単に死ねることだろう
そのことを肝に銘じておく
「……れか」
「ん」
「どうなさいました?」
狩りの時は常時、張り巡らせているボクの風魔法が何か音をを拾った
この狩りの目的である【森の主】ではない
そう、人の声のような
「静かに」
ベルリネッタは何も聞かず、口を閉じた
風魔法を広げる
氷の魔法が【停止】するイメージなら、風の魔法は【拡散】するイメージだ
魔力を広げて伸ばす
広く散らばった魔力に乗って情報が流れてくる
足音
走っている
荒い呼吸
無駄な動きが多い
玄人ではなく、森などに慣れていない素人
足音の間隔から幼い少女ということまで分かった
「誰か助けて……!」
面倒事の気配がする
足音は確実にこちらに逃げてきている
どうするか
原作に森で女の子助けるなんてシーンはあっただろうか
いや、原作はまだ始まっていないし、全く無関係の出来事だ
気付かなかったことにして去ることも出来る
少女の足音は拾えているのに追跡者の音が聞こえない
少女が何者から逃げているのかは直接聞いてみないと分からない
聞いたからには流石に見捨てることは出来ない
ボクの目的は【森の主】だ
もしもだ、少女が【森の主】から逃げてきたのであれば是非とも案内してもらいたい
【森の主】ではないかもしれないが聞いて損はないはずだ
ここで時間を潰して、日が暮れたとしてもボクとベルリネッタが危険などということはない
人を見捨てて後味悪くクリスにおかえりなさいと言ってもらうか
人を助けて胸を張ってクリスにおかえりなさい、遅かったですねクリスは心配でしたと上目遣いで言われるか
断然、後者を選ぶね
ボクは速やかに少女に合流した
「ヒッ……!?新手か、な……?」
突如現れたボクを前に少女は尻もちを着く
追跡者の影はない
助けるまでもなく、少女は危機から脱していた
「あ、あ!良かった!そこの人、助けてください!馬車が魔獣に襲われて危機なんです!」
ボクと年齢が同じくらいの見た目の少女だった
見たことのない顔だが、服装から良い所のお嬢様であることが窺える
もっとも、高級なその服はボロボロになっていて価値は襤褸布と変わらないものとなっていた
少女は、ボクが魔獣ではないと分かると捲し立てるように助けを求めてきた
自分と同じくらいの子供に助けを求めるくらい切羽つまっているのだと分かる
有無を言わせない迫力がある
「分かった。案内してくれるかい?」
「ありがとうございます!こちらです!」
返事を聞くや否や、少女はボクの手を引き来た道を引き返す
事情を説明する時間も惜しいらしい
名も名乗らなかった少女に手を引かれ、ベルリネッタと共に、その場を後にする
※ ※ ※
息絶え絶えの少女だったが、休むことなく目的地まで走りきって見せた
普段、運動などしてなくて辛いだろうに大したガッツだ
喋る気力も残していない少女は指を差す
それだけで、やりきったのように倒れようとした
「ベル」
「御意に」
ボクの侍女は少女を抱きとめる
言わなくてもボクの求めることが分かる
流石はボクの侍女だ
さて、少女が指差した方には転倒した馬車、それを引いてきたであろう頭部を落とされた馬の亡骸
「うおおおおおおおおお!!」
『Grrrrrrrrrrr!!』
人間の怒声
獣の咆哮
薙ぎ倒された木々
黒い表皮
猫科を思わせる動き
3m以上ある体高
四足歩行
鋭い爪、牙、そして頭部から突き出る二本の角
不自然に揺れる影
間違いないこの森で一番強い生き物だ
【森の主】と呼称される魔獣だ
対する人間の奮闘は賛美するべきか
予断を許されない状態の者もいるが、まだ一人も死んでいない
いや、違う
魔獣が、獲物の体力が尽きるまで弄んでいるだけだ
餌もそんなこと承知している
だから、まだやれるぞと声を張り上げている
魔獣はそれを嘲笑い、姿を消す
対する一人の少年と護衛と思われる兵士は身を固める
動揺が少ないところ【影潜り】は数度目か
【森の主】、特徴は分かり易いものだ
影に潜り、影から獲物を取る狩人
その魔獣の持つ特殊な技を【影潜り】と呼び、それが【森の主】の別名ともなっている
はたして【影潜り】は少年と兵士達の後ろの影より立ち上がる
狂爪はそれに気付いた彼等より速く絶望を与えるため、振り下ろされて
氷の柱に阻まれる
ボクのエントリーだ
狩る側が狩られる側に回るなんてよくある話だよね
狩りの邪魔をされた魔獣はボクに敵意を向ける
『Guooooooooooo!』
吠えている暇があれば動けば良かったのに、影に潜れば良かったのに
愚かな畜生だ
命の取り合いに待ったはないというのに
いざ、増えた獲物を狩ろうとした魔獣が気付いたときには、その四肢は凍り付いていた
足掻いて、もがく、影に潜ろうとして、不発に終わる魔獣
足を凍らされてしまえば、影には潜れない
別に確証があったわけではないけれど、様子を見る限り上手くいったらしい
もっとも、影に潜られてもボクの敗北はなかった
獣の殺気ほどわかりやすいものはない
『Gaaaaaaaaaa……』
氷は徐々に魔獣を侵食し、断末魔を残して【森の主】は氷の彫像となった
呆気ない
ヴォルキアの騎士団は、こんなものに手を焼いていたのか
ヴォルキアの貧民層は城壁の外にある
故に、森から魔獣が出てくれば民達は危険に晒される
滅多にないとはいえ、民を守るのが騎士の務め
魔獣を撃退するために騎士団が貧民層に駐屯していたのだが、【ユートピア】撃滅の際、彼等が仕事をしていないのが判明し、駐屯している騎士を変えたのだ
そうしたら、今度は普通の魔獣ならば問題なく対処できるが【森の主】に手を焼いていると泣き付かれた
騎士団長であるギルダーツが出向くはずだったが、暇だったので鍛錬も兼ねてボクが出向いた
反対されたが、父を使うことで押し切った
父は、俺の娘が魔獣如きに遅れを取るわけがないだろ、と送りだしてくれた
ボクは理解ある良い脳筋を持った
問題は今のいままで【森の主】と遭遇出来なかったこと
森は広いんだよ
そりゃ、簡単には見つからないよね
「どなたか存じ上げませんが助かりました。感謝を」
突然、苦戦を強いられていた魔獣が動くなったことで惚けていた少年達だったが、無事な兵士を負傷した兵士の手当にあて、残った少年はボクに礼を言う
「ボクはただの通りすがりの魔力持ちさ。礼なんていらないよ」
暇潰しを兼ねたお仕事だからね
じゃあ、これで
クリスニウムが切れそうなボクは早々にその場、去ろうとする
クリスニウムはクリスから摂取できるもので、それが切れると禁断症状を起こす
ボク以外の人間は摂取できない
というかさせない
さぁ、加急即速やかに帰宅してクリスを愛でないと
「待ってください!」
ベルリネッタに預けていた少女が通せんぼしてボクを遮る
良かったすっかり元気になったようだ
しかし、何故引き留めるのか
「何か?」
「お願いがあります」
食い気味に少女は答える
少女はボクの手を取り、言う
「結婚して……間違えたかな!近くの国まで送ってほしいのです!」
この子、少し図々しくないかな
というかおかしな妄言が聞こえた気がするよ
「お、おいドラ!」
少年が嗜めようとするが、聞く耳持たず、
「勿論、ただでとは言いません!謝礼は必ず!マーキュリーの第四王女カサンドラ・ヴァン・ルークシュアーツが約束致します!」
名乗りと共に爆弾を放り込んできた
助けた少女が隣国の王女様だった件
知ってしまっては捨て置けないじゃないか
ボクは遠い目で少女と、その兄という少年を待たせている馬車まで案内した
少年も王子ということに驚いた
護衛はいいのかと聞くと大勢で押しかけると迷惑でしょうと返された
それでいいのか王族
ボクも護衛はつけてないけどね
意趣返しというわけではないけど、ボクの馬車がヴォルキア王家御用達のものであると教えたら二人は驚いた
そして、ボクが王女であることを知るとカサンドラは倒れそうになるほどショックを受けていた
お互い様だよね
だよね?