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〈21〉

※ベルネリッタ・アーチボルグ視点

ベルネリッタは物心がつく前に両親に売られた

別にベルネリッタの両親は貧しく金に困っていたわけではなかった

寧ろ比較的に裕福で使用人を雇えないまでもベルネリッタ一人育てる程度の余裕は充分にあった

ただ子供を育てるのを煩わしいと思ったから売ったのだ

捨てたのだ

なかったことにしたのだ

ベルネリッタは買われた先で暗殺者として育てられた

己の境遇に絶望などしなかった

正直、両親の顔を覚えていなかった

ベルネリッタの心は冷たく冷えていた

ベルネリッタは優秀だった

ベルネリッタは訓練でミスを犯し命を落とす他の子供と違い完璧だった

生きるため完璧でなければならなかったから

ベルネリッタは情け容赦なく心を折りに来る教官などなんてことはなかった

いつか絶対に殺してやると命知らずなことを思える子供だったから

ベルネリッタは人を殺すために自我を殺さなければならない軟弱な同期と違い自分という個を持って人を殺してきた

生きるために必要な家畜を屠殺するような些細なことと捉えていたから

ベルネリッタは心が壊れ訓練の的にされる同じ釜の飯を食ってきた知り合いを刺し殺す程度で心は壊れなかった

心が死んでいる時点でソレは友達ではなくモノでしかないから

ベルネリッタは試験で親殺しを強いられたとき逡巡なく「誰だお前は!?」と叫ぶ標的(ちちおや)の喉を掻っ切った

標的(ははおや)は「復讐にきたの!?」と叫ぶ

血が繋がっているだけの他人に復讐もなにもないだろうに

少女からしてみても喚くソレは記憶に少しあるかないかの他人でしかなく「親殺しは死罪なんだけどこれも親殺しになるの?」ととりとめのないことを思った程度だった

ベルネリッタは教本通りにしか動けず想定外の事態に滅法弱い同僚と違い臨機応変に対処し目標の首を上げた

感情を捨てた同僚と違いどんな手を使ったも生きようと意思があるから

ベルネリッタは暗殺者としてうまくやれていた

特に目標の懐に従者として忍び込み信頼を勝ち取る人格を評価されていた

だから難易度の高いヴォルキアの王女の暗殺に適任と白羽の矢が立った

ヴォルキアが難易度が高いのは三つの噂が存在するからだ

曰く、ヴォルキアの国王は一人で亜龍を屠ったという

曰く、ヴォルキアの騎士団長はたったの千の兵でグランツの二万の兵を退けたという

曰く、ヴォルキアの神父は魔族と相対して無傷で生還したという

そんな化け物の巣窟に単身で乗り込めとは無茶を言ってくれる

当然、使われるだけの道具に選択権など存在しない

ベルネリッタは内通者を通じアーチボルグ家の娘としてヴォルキアの王城に潜り込んだ

仕事は思いの外簡単に進んだ

侍女になる条件がマナーや礼儀作法ではなく戦闘力とわけのわからないものだったおかげなのだろうか

優秀な数週間で王女に仕える場所に漕ぎ付くことができた

そうとなれば長居は無用

迅速に標的を殺し帰還する

そしてベルネリッタは初めての失敗をした

ヴォルキアの第一王女ソニア・フォン・カインベルクの暗殺

たかが四歳児と侮ったつもりはない

ただ、目標の力量を見誤った

目標の寝室を守っていた脆い騎士など目標の足下にも及ばなかった

ベルネリッタは氷の檻に閉じ込められた

目標は魔力を発現したばかりと聞いていたが堅牢な氷を操った

祖国で最も完璧で優秀な暗殺者(自分)がこの様だ

小さな国で天狗になったから失敗したのだ

後悔に意味がないのは暗殺者として育てられた自分がよくわかっている

だから、せめて自分を殺す相手を覚えて逝こう、あわよくば逃げ延びようとベッドの上に腰をかけ、足をブラブラと遊ばせている小さな勝者の顔を凝視した

その目は


「なんて透明な目……」


死んでいった仲間達のような空虚な目でも殺してきたどの標的にもない全てを映し全てを映していない矛盾した透明色だった


「ゆいごんはそれだけかい?」


自分に見向きもしない少女は機械的に問う

その声音は多少舌足らずだが平淡でわずか四歳にして言い慣れた様子だった

少女は自分のような有象無象に何の感情も得ていない

どうせ最期なら無機物のような相手であったとしても望みを告げていいだろう


「生きていたかったな……」


あぁ、同僚なら潔く殺せと言えたのだろう

生憎、ベルネリッタは生きるために足掻いていたのだ

命乞いとも取れる無様を晒しても生きていたかったのだ

叶うならば死が隣り合わせな職場から逃げ出して平穏な暮らしを謳歌してみたかった

いつか殺した標的のように

嗚呼、良い人生だった

と満足して死んでいけるような生き方をしたかった

失意のままベルネリッタは目を閉じようとするが


「……きみ、しかくらしくないことをいうね。どうだい?ボクのじじょにならないか?あれ?もうじじょだったかな?」


そこで初めて王女は有象無象を視界に収めた

泣きながら生を希望した暗殺者は初めてだった

いままで潰してきた暗殺者は死ぬ覚悟が出来た者か意地汚く傲慢に媚びる者だった

氷を操る王女は気紛れなことを言う

生きていたいならボクのものになれと道具に意思を問う

自分を映す透明な美しい瞳にベルネリッタは頷くことしか出来なかった


※ ※ ※


その後、婚期を逃してヤる気に満ち溢れた侍女長に一か月で完璧な侍女に仕立て上げられた

あれは大変だった

暗殺の訓練より厳しいのだから洒落にならない

だが、今の暮らしは良い人生と言える

主には本当に感謝している

ベルネリッタはふと湧いた疑問を主にぶつける


「そういえば姫様は私の何がお気に召したんですか?」


自分が仕えてからも主への刺客は止むことなく続いていた

ベルネリッタは主を守る刃としてそれらの対処にあたっていたが時折、自分では手に負えない類の刺客もいた

勝てないと思ったなら勝ち向かわず素通りさせていいと主は逃げ道を用意してくれていた

強さで選んだのであれば自分とは比べ物にならない実力を備えていた命乞いする猛者(はいしゃ)を飼っていたことだろう

主は強さで自分を選んだわけではない

外見でもないだろう

主は子供で女

妹に向ける愛情は過度であるが親愛の域を出ていない

それに自分の外見はいいところ中の上

主は上の上、同性をも唸らせる芸術ともいえる美を兼ね備えた男の刺客を躊躇うことなく処分していた

ならば自分は一体何を持って主の眼鏡にかなったのかベルネリッタは不思議でならない


「理由?そういえば何でだろうね?」


幼い主は愛らしい顔をきょとんとさせて首をかしげて誤魔化すように笑う

ベルネリッタは主が《血濡れ王女》と恐れられる化け物には見えない

主は意識しているのか無意識なのかはわからないが年相応の仕草を心を許している者の前でだけ見せる

ベルネリッタは妹がいれば主のようなものなのかもしれないと思う


「そうだ。本能的に君に惚れたというのでどうだい?」


いたずらっぽくニヒリと笑う主を見て小さく噴き出す

将来有望な主がもう十年もすればこれで口説き落とされる者も出ることだろう

だが妹のように見ているベルネリッタには無邪気な子供の冗談にしか捉えることはできない

笑われたことで露骨に機嫌を悪くしている主を宥めるべきかからかうべきか

そんなことは考えていると主は自分をいないものとして早足で歩を進める

第一王女とあって彼女をからかう者は少なく、もしいたとしても返り討ちにしてしまうことから主が拗ねることはない

そんな主を拗ねらせることが出来るのが自分だけであることに優越感を感じながらもベルネリッタ・アーチボルグは今日も今日とて根はどこまでもお人好しな敬愛する小さな主についていく


※ ※ ※


蛇足だが、前世の記憶を取り戻して間もないソニアがベルネリッタを侍女に据えた理由は原作に登場せず、かつ信用を置ける駒が欲しかったからだ

誰でも良かった

裏切るならば殺すだけ

気が向いたから侍女にした

今となっては駒ではなく家臣としてベルネリッタを信用している

ベルネリッタに殺されるなら悪くないかなと思うくらいに

お久しぶりです☆

天の邪鬼お兄さんですよー!

エタったなと思った諸兄等!

本当にごめんね!

亀の歩みより遅いけど暇だったら投稿するからね!

期待しないで待ってろよ!

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