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〈20〉

完成した、よ?(目逸らし

折角の二人っきりのデートを満喫していたというのに邪魔が入った

ジェイエス達が目を光らせているからボクとクリスの時間を邪魔するものはないと思った途端にこれだよ


「大変ですお姉様!人が倒れています!」


「本当だね」


おかしいよね

道端にこれ見よがしに倒れている少女がいるなんて

ジェイエス達、自衛団にデートコースの障害の排除をボクは指示していたはずなんだけどね

これはどういうことか倒れている少女には罪はないので後ろから距離を置いてひっそりと着けてきているジェイエスに避難の眼差しを送る


「テメェ、言い訳を聞こうか」


「きっちり見回ったっつてんだろ?昨日な」


「当日にやんねぇと意味ねぇだろゴミ野郎!」


「見回ったところであのガキが倒れる前だったらそれこそ意味ねぇだろカス野郎!」


醜い言い争いからの掴み合い殴り合いが始まっていた

仲がよろしいようでボクは嬉しいよ

頭が飾りの彼等に仕事を任せたのがそもそもの失敗だった

やはり、「これ以上、仕事を増やすとか姫様は鬼畜ですか?襲いますよ性的に!」とふざけたこと抜かして拒否するベルリネッタを無理矢理にでも行かせるべきだったね

それに女同士なのに性的に襲うとはベルリネッタは何を馬鹿なことを言っていたんだろう

せいぜい、頬擦り程度が限界なのにボクが引くと思ったのかな

そのときは流石に涙目だったからゾクゾク……ではなかった可哀想になったからやめてあげた

だんだん原作のソニアのような性格に染まってきた気がしてならない

ジェイエスは仲間を簀巻きにした後、こちらに腹を撫でるジェスチャーを送ってきた

わかりやすいジェスチャーだねジェイエス

何故、少女が空腹だと知っているとかは気にしないでおくよ

影から現れたベルリネッタからリンゴを受け取りボクは少女に近寄る

少女は接近するリンゴの香りを嗅ぎ付けたのか勢いよく顔を上げると行き倒れとは思えない力で有無も言わせずボクのリンゴを持つ手を引っ張り寄せる

ボクは不意に突かれて不覚にもよろけてしまう

そんなこと気にも止めず少女は一心不乱にリンゴにかぶりつく


「なんだろう捨てられている大型の犬に餌を上げている気分だ……」


「ふふ、お姉様が驚いた顔を見せるのはこれで二度目ですね。ユリウス様が見れば羨ましいと叫んでいたでしょうね」


クリスが笑顔ならそれでいいかと少女に手をなされるがままにしておいた

しかし、クリスの言葉ではユリウスは犬のように扱ってほしい変態みたいだね

もしそうならカミーユが引かないだろうか

……引かないだろうねカミーユは弟狂いだから

むしろ弟の趣味に合わせて駄犬に鞭振るう女王様になりそうだ

そして女王様カミーユは似合いすぎていて違和感がない


「ヒャッ!?」


益体のないことを考えていたボクの指に湿った感触が走る

視線を戻すと少女はリンゴから滴る果汁をボクの手から舐め取っている


「お姉たま!?」


あ、噛んだ

クリス可愛い

緊急事態にあったとしてもボクはクリスの可愛さを脳内ファイルに収め続ける執念がある


「ん……」


それでもくすぐったいことに変わりないんだけどね

しかし、どうしようか

振り払おうにも少女はがっちりとボクの手を固定している

妹の手前で助けた少女に危害を加えるわけにはいかない


「ご馳走さまでした」


あ、やっと終わったか

少女はむくりと立ち上がり両手を組む


「見ず知らずの私に食料をお情けいただいたこと神と貴女方に感謝の意を捧げます」


自分が生き倒れようが助けてくれない神に感謝するか

これだから現実から目を反らすために宗教にすがるりつくやつは救いようがない

まぁ、ボクと生まれながらの女神クリスに会ったことを神の導きとでも思っているんだろうね


「このリンゴの恩義、いつか必ず神に誓い報いますので」


「いえ、私とお姉様が好きでしたことですから」


「期待せずに待つよ」


それに名前も知らない行き倒れ君を助けたのは心優しいクリスが助けようとするだろうからだし、たかがリンゴ一つくらいの恩なんてボクは忘れてもらって構わない


「あ、お名前は?誰か知らなければ助けることができません」


「クリスティーナ・フォン・カインベルクです」


王族が護衛を付けずにお忍びで来ているのに尋ねられたら深く考えずに本名を暴露してしまうクリス可愛い

誘拐されでもしたらどうするのか

寧ろ世界の頂上に君臨する財宝である我が妹が誘拐されない道理の方がない

そうなればボクが不埒者に産まれてきたことをじっくり後悔させる生き地獄を作り出すことになるね


「私の父は有名な司教なんです」


自慢気な少女と対象にボクの血が引いていく

有名な司教とあろうものが娘を飢えさせるなんて……心当たりがある

ゲームでも子供が多すぎて面倒を見きれない司教が登場している


「待って!礼はいいから!礼がしたいなら君の父にボク達のことを教えないでくれたほうが嬉しいよ!」


その司教が世界に二人といない美少女クリスに求婚する場面が容易に思い浮かぶ

少女は無常にも走り去る

ボク達の護衛であるベルリネッタに追わせるわけにはいかないし、ジェイエス達に任せよう

本当に頼んだよ……!

この後、無情にも見失ったと報告を聞き崩れ落ちたのはいうまでもない

大の大人が集団で一人の女の子一人捕まえられないとは情けないと嘆くしかない


※ ※ ※


ボクはクリスをエスコートし、人通りの少ない路地の洒落た雑貨店へと足を進める


「これは……、ようこそ王女殿下」


「やぁ、アルジュナ・アスカルト侯爵」


ボクの訪問を歓迎し老人が首を垂れる

紳士然とした店の店主はクラリナ・アスカルトの祖父であるアルジュナ・アスカルト侯爵

老害共と違い前王の頃から民のために身を粉にしてきた人物らしい

何故貴族であるアルジュナ侯爵が城下町で雑貨店で店主などしているのか

それは彼の愛した女性のためとしか言えない

彼の妻への深い愛はボクも理解できるところがある

身分違いの結婚を成立させるために彼は自分の持てる手段を尽くしたのだから

一言で彼を表すなら、そう、粘着ストーカー

アルジュナ侯爵の名誉のためにいうが両者両想いで同意のもとでの婚約だったといっておく

まぁ、又聞きした話だから真偽は確かではないんだけどね


「最高の素材を用いて我がアスカルト家の全力、いえ、アルジュナ・アスカルト個人の全霊を持って我が人生の粋を詰め込んだ品々を揃えさせていただきました」


情熱を孕んだ声でやうやうしく腰を直角に曲げるアルジュナ侯爵

店に並ぶ品々は今日この日のために彼が丹精を込めて作った最高級のものばかり原作のソニアがクリスになんのつもりでリボンをプレゼントしたのかわからないがなぞって損のないシナリオだ

クリスの誕生日は神の誕生祭より盛大に行われるべきなのだから

でもクリスを民衆の見世物にするだけなんて神が許してもボクが許さない

触れれば壊れそうな儚い存在であるクリスが下衆な視線に晒されるなんて有り得ないしストレスで倒れるなんてことがあればボクは民を殲滅しかねない

クリスがリラックス出来ることが前提

神のような偶像とは違いクリスは儚く繊細な存在

傷つかぬように穢れを知らぬように恋を知らぬように籠の中に閉じ込めることは簡単だ

しかし鳥籠に閉じ込めることなど出来ようか

いや、出来ない

せめて傍らでクリスの羽ばたきを見守ることが人類に許された至高なのだ

おっと、思考が飛んだね


「クリス、好きなものを見てくるといい。ボクはボクでクリスへのプレゼントを見繕ってくるからね」


「はい、お姉様!」


とててて、と可愛らしく愛らしく店の品を選びにいったクリスの様子を録画して何百回も見返したい

この世界にカメラがないのが心底悔やまれる

せめて脳内メモリーに記録する


「さて、アルジュナ侯爵。約束の物は仕上がっているかな」


「滞りなく」


アルジュナ侯爵はそう言い一本の青い布きれを取り出す

ただただ美しい青だ

原作のクリスは青いリボンをソニアから貰った唯一の宝物だと語っていた

嬉しそうにしかし切なく微笑むクリスはそそるものがあった

現実でされたら姉の威厳を投げ捨てて頬ずりしかねないので大変危険である


「このリボンに使われている布は百年の時が過ぎようと今と変わらぬ美しさを保っていると言われます」


「ご苦労。クリスが身に着けるんだ。少しでも美しさを損なわない最高級の物じゃないとね」


内心ホクホク顔だが表情はあくまでも不遜にリボンを受け取る

大金を積んで特注で作らせたリボン

これの価値は馬鹿に出来ない

まぁ、ボクからしたらクリスが身に着けていない布きれなんて塵と一緒だけどね

クリスが天使のような顔で護身用のナイフを持ってきたのには少々驚いたけどクリスの上目遣いからの「駄目ですか?」に抗えるわけもなく購入した

クリスの柔肌が何かの間違いで傷つくようなことがあればボクは一生後悔する気がするけれど妹のおねだりには勝てなかったよ

リボンをクリスの髪に結んで手を繋いで帰るとしよう

こうしてクリス七歳の誕生会は無事に終わった

この後、ギルダーツに大目玉を喰らったのはいうまでもない

どこぞの司教の娘のことといいツいてない

こんなときは主人公に嫌がらせでもして憂さ晴らしするとしよう

有象無象を垂らし込んでいる癖にまだクリスを付け狙う害虫にボクから天罰(やつあたり)


※ ※ ※


二人の王女が店を出た後、アルジュナは店仕舞いにかかった

元々、この店は当の昔に畳む予定だったのだ

しかし、彼は知った

正確には知らされた

世界の真実の一端を

ヴォルキアの守り神に

彼女は真実の代償にアルジュナに役割を与えた

それはアルジュナの破滅が約束されたものだった

消されると分かっていてもアルジュナは彼女に協力せずにはいられなかった

最愛の女は亡くしたが、孫がいる

あれが報われないのはあんまりではないか

だから、未来に可能性を残すために

約束された結末を穿つために

役目を果たした


「未来ある王女達よ。これは私が出来る最期の礼にして抵抗です。どうか邪を祓い輝かしい未来を勝ち取らんことを――――」


アルジュナ・アスカルトは死に際に足掻き何を残したのか

彼は何を知っていたのか

それが語られることは永遠にない


…………


ケタケタ

ケタ

ケタケタケタケタケタ

タケタケタケタケタケタケタケタ


アクヤクオウジョ ノ タマシイ ガ オカシイゾ オカシイゾ

タマシイ ガ フタツ マザッテル マザッテル

ゴシュジン ニ ホウコク ダ

ゴシュジン ニ ホウコク ダ


ケタケタケタケタケタケタケタ

ケタケタケタケタ

ケタケタケタ

ケタ


――――プツッ

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