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〈2〉


ボク、ソニア・フォン・カインベルクはパレードの中――護衛の騎士の目を掻い潜って貧民層に足を運んでいた


護衛の中に騎士団長のオジサンがいるのは驚きだった

脳筋の父でも守ってろと遠回しに伝えたら“あれに護衛がいると思いますか?”と返された

ベルリネッタといい騎士団長といい国王をなんだと思っているんだ

あ、脳筋か

意地でもボクから目を離さない騎士団長だったが、あらかじめ六重七重に仕込んでいた小細工で気を逸らすことに成功した

あのオジサンは騎士団の中で最強だけど女に弱いのが欠点だ

それにしても父は過保護すぎ

騎士団長は五歳児のボクに大人気なさすぎる

まぁ、ちょくちょく城を抜け出して城下町に遊びに出るボクの自業自得だけどね

前世寝たきりだったボクは外の世界が気になってしょうがないのだから許してほしいものだ


「行くよベル」


「御意」


騎士が邪魔だから撒いたけれど流石にボク一人では動かない

ゲームのソニアと違ってボクは弱いのだから

でも、護衛はベルリネッタ一人いれば充分だ


ベルリネッタ・アーチボルグ

彼女は下手な騎士より役に立つ暗殺者だ

元々ベルリネッタはボクを暗殺するためアーチボルグ家の娘として行儀見習いに来た侍女という設定で他国から送られてきた

だが、四歳のボクに油断していたばかりにあっさりとはいわないまでも余裕を持って叩き潰されボクに拘束された

その後、一悶着ありボクはベルリネッタを気に入った

死にたくないなら暗殺者を辞めて本当にボクの侍女にならないかと誘えば簡単に掌を返した

誘いであって脅しではなかったよ?

国を裏切った暗殺者がただで済む訳ないのだがボクという後ろ楯がありベルリネッタの元の飼い主は“物理的”に手出しできなかった

――ベルリネッタを始末しにきた者は皆氷の彫像になってしまうから

ベルリネッタが暗殺者ということを脳筋の父は気付いていないが母は聡く“色々”と裏から手を回してくれた

他国と繋がっていたアーチボルグ家はベルリネッタを除いて悲劇の死を迎えた

母はとんでもなく怖いお方だ

ゲームでは国王の隣で微笑んでいるだけだったというのに一族皆殺しはやり過ぎだと思う

父同様親馬鹿がすぎる


勝手に障害物が取り除かれ、ベルリネッタを従えて一年

彼女は本当に私に尽くしてくれた

彼女はボクの傍を帰る場所と定めてくれた

ボクもベルリネッタを秘密裏に行動するとき必ず同伴されるくらいには信頼している


「それで姫様、貧民層に何か用があるんですか?まさか、王族であることに嫌気がさして――」


人前では侍女らしい態度を取るベルリネッタだがボクと二人きりになると馴れ馴れしい素が出てくる


「馬鹿な妄想は止しなよ。ボクはただ妹の将来にかかわるかもしれない少年の様子を見に来ただけだよ」


ベルリネッタは妄想逞しい

早めに止めておかないと暫く戻ってこなくなる

こんなのが他国、今はなき小さな国だが重用されていたなんて誰が信じようか


「出ましたよ姫様の不思議発言」


君には言われたくない

ベルリネッタには転生のことを話しても構わないと思っているが彼女は抱腹絶倒し信じないと分かりきっていた

信頼関係にあっても現実的ではないことは受け入れられないものである

まだ、ボクは魔王だと言ったほうが信用される

しかし、侍女のくせして主を馬鹿にしすぎなのはよくない


「君は本当に侍女にはむいてないね」


誰かに聞かれていたらどうするんだと溜め息をつくボク――見た目五歳児


「それを侍女にする姫様は酔狂すぎですよ。だからこそ本気でお仕えするのですが」


茶髪のポニーテールを揺らし、ベルリネッタはボクの手の甲を握り口付けをする


「……普通は主の手の甲を自分の口元には持ってこないものだよ」


「えー、面倒じゃないですかー」


ベルリネッタはボクの手を自分の口元まで持ち上げて口付けをしたのだ

普通は跪くものだろう……

これを誰かに見られたらと思うと頭が痛い


「人目があるところでは弁えるように。馴れ馴れしい態度も禁止だ」


そういうとベルリネッタは陽気な雰囲気を消し、出来る従者を演じ始める


「はい、申し訳ありません姫様」


ベルリネッタはなんだかんだいって優秀だ


※ ※ ※


主人公、レオナルド・ギーレンは元々は貧民だったが魔力持ちであることと剣の才能を買われギーレン家のアルゴン子爵の養子になった

それまでは貧民層で暮らしていたらしい


ボクとベルリネッタは彼がよく遊んでいたという原っぱに来ていた


「こちらに姫様の思い人がおられるのですか?」


ベルリネッタは真面目モードになったと思ったがそうでもなかった


「それはいないだろうけど用のある少年は見つけたよ」


ボクの視線の先に幼い子供達を引き連れた黒髪の少年がいた

おそらくあれがレオナルド・ギーレン

クリスにつく悪い虫

ここで始末すれば……


「姫様、珍しく笑っておられますが何か良いことでも?」


ベルリネッタの怪訝そうに声に意識を戻す


「ボクはクリスといる時、いつも笑顔だと思うよ」


「いえ、邪気に満ちた悪い笑顔のほうです」


「ふふ、気のせいだよ。もう少し近付こうか」


「御意」


※ ※ ※


気配を殺してレオナルドの姿が鮮明に見える位置まで近付いた

今のレオナルドの目は黒色

原作で彼の目は赤色だったはず

四歳のときはまだ魔力は発現していないようだ

人間は生まれつき魔力が使えるわけではない

人間は魔力が発現するとき身が裂けるような痛みを味わい悶え苦しみ、そして目の色が変わる

何故、目の色が変わるのかはわかっていない

ボクは二年前に発現した

前世でも味わったことのない苦痛だった

ボクの目は青から金へと変わった――右目だけ

片目だけしか色が変わらなかったというイレギュラーも原作通りだ

ボクと同じ魔力持ちの母やこの国に仕える魔法使い達は事例のない変化に大いに驚いた

ボクは知っていたから驚くことなく、色を誤魔化す魔法をかけたモノクルを着けている

今は無き国からベルリネッタが送られた理由も事例のない化物を野放しには出来ないとかだった気がする

この世界で魔法使いは珍しい存在でボクのような強い魔力を持っている者はそういない

ゲームでも魔力持ちはソニアと主人公、ヒロインの魔法使いの三人だけしか魔力持ちはいなかった

主人公は大した力はないがソニアとヒロインの魔法使いは事実化物だ

一人で国を滅ぶすだけの力を持っているのだから――


「さて、そんな化物を相手にしていた主人公君は何を話しているのかな?」


レオナルドは同い年の少年少女達に何か自慢していた

それを聞きやすくするため風の魔法を使う


「俺が王様になったら毎日美少女とハッスルするぜ!」


風に乗って流れてきた声に耳を疑った

原作のレオナルドと違い品の欠片もない声だったからだ


「……へぇ、王様になる、か」


「姫様にも負けず劣らず妄想逞しい子供ですね……」


品のなさは置いておくとして内容は無視できるものではない

レオナルドはとても四歳児と思えない面白いことを口走っているのだから

王になりたいではなく王になると

希望ではなく確信している


なるほど、レオナルド・ギーレン、君はボクと同じ転生者か


「ソニアも攻略してクリスと姉妹丼も食ってみたいな!」


遠くから少年の下卑た笑い声が耳を叩く


「へぇ……」


ボクの周りの気温が下がる

同郷の人間だろうと今の発言は許されない

ボクは兎も角、可愛い可愛いクリスを弄びたいというのか


「姫様、殺りますか?」


子供の戯言と聞き流せるほどボクが寛大ではないことをベルリネッタは知っている

表情を殺したベルリネッタが短剣をちらつかせている

ベルリネッタはボクの命令があれば躊躇なく幼い子供を殺る


「いや、殺さない」


「しかし、あのクズ……」


「殺すだけじゃ生温いと思わない?」


「出ましたよ腹黒姫」


ボクの歪んだ笑みを見たベルリネッタは苦笑する


ゲーム通りいくと思うなよ下衆野郎

ボクが原作をぶち壊す悪役となってやる

ここはもうギャルゲーの世界ではなく現実

公式チートのソニアの力を以てすれば筋書きを変えることなど造作もない

原作のシナリオが始まるまで時間はたっぷりとある


「12年後、ざまぁみろと笑ってやるよ」


決意を胸に貧民層を後にする


「さぁ、ゲームスタートだ」


ソニア・フォン・カインベルクは主人公に嫌がらせをするためだけの悪役になる





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