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〈13〉




レオナルドが幼馴染みを失うイベントと一時期騎士団が弱体化したことは原作でも語られている

ただその裏で何が起きていたかが語られていなかった

レオナルドが幼馴染みを失ったのは中毒者に拐われたから

騎士団が弱体化したのは騎士団の中にいた中毒者を追い出したから

麻薬事件は原作の流れに必要なプレイヤーの知らないファクターだった

売人を捕らえるのはボクが作らせた自警団が予想外に役に立ち、然程難航しなかった

だが、肝心な薬の出所が掴めなかった

売人は全員捨て駒

彼等は誰一人、薬を誰がなんのために自分達に渡したのか知らなかった

記憶を覗けばわかることがあるかもしれないがそういう類いの魔法を使える者がいない

一つ疑問点があるとしたらボクが助けた後もフィナンシェが執拗に狙われたことだ

彼女の周りに自警団を張らすことで中毒者を捕縛できたとジェイエスが得意気に語っていた

結局、裏にいた黒幕の足を掴むことが出来ずに薬と中毒者を一掃することで今回の案件は終わりを迎えた

不気味なほどに足跡がなかったことから“世界の強制力”か何かが本来あるべき世界に戻すため手引きしていたのではないかとボクは可能性の一つに考えている

そんなオカルトじみたことを信じるつもりはないが何せボクは転生者

充分オカルトだ

まぁ、“強制力”より原作通りの流れを作りたい“第三の転生者”が黒幕という線のほうが濃厚だろう

今回はこちらに見つかる前に諦めて引いたようだけれど次は見つけ出して捕獲する


蛇足なのだけれどジェイエス達が捕らえた中毒者は人体実験などで色々した結果死亡

《ユートピア》は使いすぎると死ぬようで個人差はあるが服用回数20以上がデッドラインだ

それより下は牢獄に監禁

それより上ならボクの楽しい実験に付き合ってもらうことになった

実験体のおかげでボクの魔法の技術も上達したものだ


※ ※ ※


物理的に目に入れても痛くないくらい可愛いクリスに教師として叔母のイリアさんを付けて、従兄弟のユリウスを叩きのめし、同じく従姉妹カミーユと妹弟の可愛さを語る友となり、中毒者を撲滅している間に二年の時間が流れた

今ではクリスが出来損ないと呼ばれることなく、貴族連中の間でボクは完全に脳筋扱いとなっていたが、一握りの貴族の間では《血濡れ王女》という呼び名もあった

差し向けられる暗殺者や貧民層の中毒者を容赦なく殺したからだろうけど返り血を一滴も浴びていないボクには不本意な呼び名だ

殺しは印象を悪くするようだしなるべく控えるように心が得よう

リンリカン?知らない子だね

ソニア・フォン・カインベルクに生まれ変わってからボクは人の命を軽く見ている

前世のボクならどうだったかな

人を殺すことに抵抗を覚えていたんじゃないだろうか

――彼女の魂に引きずられているのかもしれない

自らを律せよとは教会の害虫共はいいことを言う

聖職者である彼等は自らの欲に忠実だけどね


「師匠!今日も御鞭撻よろしくお願いします!」


ユリウスはボクの犬……間違えたボクの優秀な生徒になった

ゲームの傲慢な馬鹿の面影は欠片も残ってない

今の彼は噛ませ犬ではなく忠犬という呼び名が相応しい


「すまないユリウス。今日はクリスとお茶をする予定でね」


「ハッ!」


ゲームのユリウスならウザいくらい食い下がってくるところだが調教済……教育が行き届いた今ではボクにとって妹が何をおいても優先される事項であることを心得ている


「では、俺は騎士団で訓練を行います!」


七歳から城では騎士見習いとして騎士になるための訓練を受けることができるのだ


「そうかい頑張りたまえ」


ただ騎士になりたいのなら副団長に金を貢げばいいだけだが彼は真っ当な騎士になりたいそうだ

ボクは原作のユリウスとの違いにほくそ笑む


※ ※ ※


この二年、クリス以外のヒロインにアクションを取っていないが、そろそろセリカ・ハーネストが騎士になりたいと王城を尋ねてくるはずだ

原作で女では騎士になれないと笑い者にされて追い返される

それでショックを受けたセリカは女であることを隠し男を演じて今から十年後に主人公と共に騎士団に入る

彼女をヒロインから降ろすのは実に簡単なことだ


「また、企み事ですのソニア?」


「またとは人聞きが悪いねカミーユ」


クリスがまだ来ていなかったから次の行動を決めていただけなのに

まぁ、考えるのは茶会が終わってからにしよう

クリスがここに向かってきている気配がするからね

この二年でボクはクリスが城のどこにいても気配を感じて見つけれるようになっていた

この特技を会得したときベルリネッタは畏怖と呆れと羨望の混ざった複雑な表情をしていた


「……ソニア様のなさることに間違いなどあるはずありません」


いつの間にかクラリナ嬢が当たり前のように茶会に参加するようになっていた

彼女は常にボクを肯定して援護してくれるいい子だ

時折、熱っぽい視線を送ってくるけれど心当たりがない

ボクは彼女に何かしたのだろうか

クリスに手を出そうとする貴族の弱みを探らせたりスパイもどきとしてパシりに使ったのが悪かったかな


「企み事は否定しないんですのね……」


もはや見慣れた呆れた表情で溜め息を吐くカミーユ九歳


「企み事というほどのことではないけれど少し余興を用意しようと思ってね」


「お姉様、何かなさるんですか?」


女神が降臨した


「やぁ、クリス。今日も一段と輝いて見えるよ。君の前では太陽も霞むようだ」


「お姉様こそいつもながら場を圧倒なされる月のような美しさですね」


「……ソニア様が至高の美しさを備えているのは当然」


「ワタクシはソニアよりクリスのほうがいいと思いますわ。まぁ、ワタクシのユリウスには及びませんけどね!」


「ハッ!」


ベルリネッタ、鼻で笑ってはいけない

笑うならバレないよう心の中だけにしないか

ほら、カミーユが全力で睨み付けているじゃないか

目を伏せてシラを切るかい

ベルリネッタがそうするとボクが代わりに睨まれるんだよ


「相変わらずの溺愛ぶりですねカミーユ様。出来れば鎖で首を繋いでほしいものですが」


笑顔でユリウスを監禁しろと取れることを漏らすクリス

本当、何を言わせても可愛いなボクだけの妹

イリアさんを教師につけてから腹黒くなった気がするけど可愛いから許せるよ


「ただ閉じ込めてしまえばユリウスはユリウスではなくなってしまいますわ」


すでにこの二年でユリウスは原型を留めていないと思う

そういけば原作で主人公に敗れ失恋したユリウスを慰めていたなカミーユ

失恋するのわかってて弱るのを待ってたんだろうね


「お姉様の魅力は聡明で凛としていて品格があり先を見据えて行動しているけど失敗しても気づかず突っ走るところが可愛いんです」


「……ソニア様は誰より冷静で全てが見えていて王者の笑みで全てを屈伏させるカリスマがありミスを犯さない完璧で美しく素敵な方です」


クリスとクラリナ嬢はカミーユを無視してボクを過大評価していた

クリスの言い分だとボクはどこかで失敗しているのだろうか

心当たりはなくもない

というかカミーユに話題ふっておいて放置なんてわざとなのか天然なのか

どっちにしてもクリスは可愛いね

カミーユにはクリスの可愛さに免じて怒りを収めてほしいものだ


「……私、ソニア様に撫でてもらえる」


「お姉様、本当ですか?」


「ん?彼女は良い仕事をしてくれるからね」


諜報活動とか


「……ッ!私は毎日、お姉様と寝ていますよ」


「……ソニア様、本当?」


「まぁ、クリスが不埒者に近づかないようにね」


寝室に無防備なクリスを襲いにくる変態や暗殺者が手出しできないようにボクが一緒にいるのが得策

という建前でクリスと寝れる役得


「「…………ッ!」」


クリスとクラリナ嬢が火花を散らしている


「ふむ、可愛いね」


「争っているところを愛でるなんて悪趣味ですわよ」


「互いに争い競いあい高めあうのは美しいじゃないか?」


憎しみあい殺しあう仲も素敵だと思うけどね


「貴女、やはり歪んでますわね。けれど周りに純粋無垢な弟に悪影響を与えないのだから不思議ですわ」


まぁ、自分が普通より少し変わっている自覚はあるよ


「影響を与える必要なんてないよ。人は人であるだけでボクの好みに成長する。ボクはボクのように歪む原因を排除するだけさ」


そのおかげでクリスは歪まず真っ直ぐに可憐に成長した

原作のようにボクへの劣等感から差別を嫌い中途半端な平等を謳う偽善者ではなく真っ当で高潔な王女となるはずだ


「貴女に気に入られた人が可哀想ですわ……」


「この上なく嬉しいことです」


嬉しいなど言いつつ少し照れているところ本当に可愛らしいよクリス


「……むしろ気に入られるため頑張ってきた」


「私は姫様に気に入られたおかげで生き長らえています」


「何?可哀想?だっけ?」


本人達は嬉々として受け入れているよ

カミーユの弟であるユリウスも例外ではなくね

まぁ、彼はお気に入りでもなんでもないからどう思われようが気にしないけど


「なんですの?腹ただしい顔はおやめなさいませ」


失笑すると睨まれた


「しかし、クリスもすっかり大人びてしまったな……」


今ではすっかり貴族令嬢という感じになってしまってボクは少し寂しいよ

舌足らずでおねぇさま呼びで、覚束ない足取りでボクについてきていたクリスが懐かしい


「その話何度目か覚えてらっしゃる?」


「君こそユリウスが馬鹿ではなくなったとき同じようなことを何度も言っていたよ」


「それはユリウスが馬鹿で可愛かったのが紳士な可愛さに――」


平和な茶会は続き

ボクは失念していたんだ

レオナルド・ギーレンがボクと同じ転生者なら原作と違う動きをとるのは当然のことだということを


――本当はクリスの可愛さに存在自体忘れていただけで予想はしていたけどね





「ユリウス様はモテなさるのに浮わついた話を聞きませんね姫様」

「モテるも何も犬はまだ七歳だよ」

「モテるようになればワタクシがユリウスに近づく羽虫を叩き落としますわ」

「流石、ブラコン引くね……」

「クリス様に近づく男を威嚇する姫様が言いますか!?」





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