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〈11〉




始末するまでもなく勝手に死んだ男の亡骸は捨て置いた

放置した死体は鼠や虫が食うだろう

この世界では死体遺棄は犯罪ではないため滅多に捜索されないそれ故に死体が見つからないこともざらである

まだ聞いていないことがあったがそれはクラリナ嬢に聞けばいい

ベルリネッタがクラリナ嬢を質問に答えてくれる程度に落ち着かせていることに期待しよう

ボクは貧民層を歩く

一人では鬱陶しいほどゴロツキに迫られるので即席で駒を用意した

薬をやっていない利口なゴロツキ数人にボクの言うことを聞くように“氷の楔”を心臓に打った

それがどういう魔法か理解した彼等はボクに逆らえない

今、死にたくない彼等はボクのことを全身全霊を持って守ってくれるだろう

彼等には薬の件で暫くボクの駒として働いてもらうことにしよう


「クソッ!なんなんだテメェ等は!?」


そして偶然にも当初の目的であったレオナルド・ギーレンが女の子を庇いながら中毒者と思われるゴロツキに囲まれ襲われている場面に遭遇した


「どうしやしたお嬢?」


突然立ち止まったボクに怪訝そうな表情をするゴロツキの代表格、名前はジェイエスだったか


「いや、表で堂々と子供を囲んで拐おうとするなんて度胸があるなと思ってね」


「あぁ、奴等薬で頭がやられちまってますからね。後先のことなんて考えちゃいませんぜ」


レオナルドを囲むゴロツキを見下した目で見るジェイエス

彼曰く、ゴロツキにはゴロツキのポリシーがあるらしい

薬をやっている奴等はそれに反することをやっていて不愉快だそうだ

きっと彼は喜んで薬の排除に協力してくれるだろう


「これだけの事件が起きているのに貧民層に駐屯している騎士は何をしてる?」


一応、貧民層の治安を維持するため騎士が配属されていると聞いているのだけれど


「騎士様ならお薬に夢中ですよ。ろくでもない連中だったってぇのに薬で余計面倒な連中になりやがった……」


「まだ前代の王の怠慢が残っていたか。すまない帰り次第母に報告するよ」


「とんでもない。お嬢の親御さんのおかげで大分マシになってもんでさぁ」


駒達は声を揃えてジェイエスに同意している

彼等からボクに対する畏怖が消え去っている気がするのはどういうことだろう

もう、ボクの手下であることに順応したのか


「ボクのことではないが嬉しいね。少し治安維持のために動くとしよう」


ついでに主人公への嫌がらせを兼ねてね


※ ※ ※


「手間かけさせやがって!」


「グ……ッ」


「いやああああ!助けてレオ!」


「へへ、コイツを売りゃ薬が手に入る」


ボク達が雑談に花を咲かせている間、四歳児に過ぎないレオナルドは中毒者に手も足も出ず転がらされていた

実に滑稽な様じゃないか

レオナルドが庇っていた女の子は中毒者の一人に担がれていて今にも連れ去られそうだ

ボクは原作のレオナルド・ギーレンが騎士になった理由を思い出していた

彼は幼い頃、幼馴染みを守れなかった後悔から力を付け、今度こそ大切なものを守り抜きたいと語っていた

おそらく今のこの場面は幼馴染みを失う場面の再現


「……すまねぇが、俺のハーレムのため死んでくれフィナンシェ」


レオナルドに転生している彼も気付いているようで誰にも聞こえないように小声で下衆なことを口走っていた

ボクの魔法は蚊の鳴くような声も拾える

レオナルドが下衆であることを再確認できた

それはそうとして原作で出ていなかった幼馴染みの名前はフィナンシェというのか


「さて、皆武器は持ったね?子供に手を出す悪い大人にお仕置きをしよう」


ここで下衆への嫌がらせのために原作の流れを壊してあげるとしよう

ボクが幼馴染みの喪失のシナリオを変えよう


「お嬢のご命令だ!やっちまえー!」


ジェイエス達はボクが作った氷の棍棒を手に中毒者に殴りかかる

ボクが中毒者達を残らず氷漬けにしてもよかったのだけれどそれだと担がれているフィナンシェも凍ってしまうからジェイエス達を使った

彼等はとても生き生きとした表情で中毒者を薙ぎ倒す


「皆、子供の前だ。死なない程度に痛めつけて拘束してくれ」


子供に人の死は刺激的すぎる、というのは建前で中毒者で試したいことがあるから生きたまま持ち帰りたいのが本音だ

薬の効果を把握しておきたいからね


※ ※ ※


「あの、助けていただいてありがとうございます!」


ジェイエス達に縛られていく中毒者を尻目にフィナンシェが頭を下げてきた


「礼はいらないよ。子供の悲鳴は耳障りだからね」


礼に対してボクは皮肉を返すが幼いフィナンシェには通じなかったようで好意的な笑みを浮かべている


「こんなシナリオ、聞いてねぇぞ……?」


フィナンシェ共々助けられたレオナルドは呆然と立ち尽くしていた


「やぁ、君。シナリオというのが何なのかは知らないが君の連れを助けてあげたんだ感謝の一つでもしてほしいね」


「ソニア・フォン・カインベルク……!」


嫌味を言うとレオナルドはボクの名前を呟き睨みつけてきた

やはり彼のようなリアクションが好ましい


「よくボクの名前がわかったね。パレードでボクが顔を見せたのは富裕層だけだったのだけれど君は富裕層にいたのかい?」


現実でのボクとは初対面であるはずなのに自ら墓穴を掘ったレオナルドをからかってみる


「え?あ、あぁ、そうなんだよ!あのとき偶然富裕層にいてな!」


嘘だね


「え?レオナルド、パレードの日私達といたよね?」


「あ、馬鹿言うなよ!」


「へぇ、なんでボクの顔を知っているのかな?」


「う……!それはあれだよ勘だ!勘!」


「それ言い訳は苦しすぎないかい。――クリスがこんな馬鹿に惚れることはないか」


「は?……まさか同郷の人間?」


ただの馬鹿と思ったけれど勘がいいようだ

ボクが同じ転生者ではないかと疑いを抱いたようだ


「はて?君が何を言ってるか“私”にはわからないね」


混乱するレオナルドにボクは悪役王女に相応しい冷笑を送る

ここまでヒントをあげたんだボクが誰か馬鹿でも気づくだろう


「ジェイエス、すまないけれど城まで荷物を運んでくれるかな?」


「了解しやした」


しかし、このボクが嫌がらせのためとはいえ人助け、下衆にヒントを与えるなんて似合わないことをしてしまった

クラリナ嬢に至っては完全に気まぐれで助けたのだから明日は雨かな





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― 新着の感想 ―
[一言] 作者様が書いてから5年も経って今頃言われてもと思うかも知れません。。。  以下は主人公の慎重さや考えが足りない表現かと。。。  相手を侮るのはいかがなものかと。。。 「それ言い訳は苦しす…
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