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エレノアの選択

今日は見合いのはずだ。

部屋には見合い相手のイングラム家子息がいるはずだ。

それが、なぜ。

どうかしたかなどとふざけたことを聞いた男と、優雅に足を組み替えた男。

それはいるはずのない二人だった。

エレノアはもう一度叫んだ。

「なんで、あんた達が、ここにいるのよ!」

なぜ、ガーラント家とイングラム家の見合いの席にハロルドとファレルがいるのか。もしや見合い話を聞きつけた二人が見合いの相手を勝手に帰したのか。そんなことは断じて許せないが、それにしてもこの二人が揃っているわけが分からない。

エレノアは滅多に出さない大声のせいでまだ肩で息をしている。

彼女のいつにない剣幕に、さすがにまずいと思ってかハロルドは口調を改めた。

「何でといわれても、見合いだよ。ちゃんとガーラント家宛てに見合いを申し込んだでしょ」

エレノアは意味が分からずに言い返した。

「だって、私はイングラム家の方とお見合いする予定できたのよ」

「だから」

ハロルドが説明を始める。

「ハロルド・イングラムになったんだ。伯爵に愛想を尽かされたヘンリーの代わりに」

もともと伯爵家の存続のためと親戚筋から押しつけられたヘンリーだったが、遊びほおけて就職にも失敗した上、エレノアを手に入れて伯爵の気持ちを変えようと犯罪まがいのことをしたと知ると、伯爵は彼を放逐した。それで代わりに、才気ある部下のハロルドを養子に求めたのだという。もちろんハロルドがその際、イングラム伯爵に「将来エレノアを娶りたい」と宣言したことは言うまでもないが、彼はそれをこの場で口にしなかった。

「父さんに話したらすぐ追い出されたからエレノアには直接話せなかったけど、手紙で説明したでしょ」

エレノアはゆるゆると首を振った。そんな手紙は見ていない。恐らくは父が怒って握りつぶしたのだろう。

怒りの感情は消えないものの意外な返答に勢いをそがれ、エレノアは困惑した。

「それで、殿下は」

半ば現実逃避でハロルドの隣へ目を移せば、久々の王子は相変わらずの輝く笑顔でこう言った。

「もちろん、ハロルド以外の選択肢があることを示すためだ」

エレノアはがんと頭を殴られたようにふらついた。この人を現実逃避に使えるわけがなかった。

「何なの、一体・・・」

礼儀も何もあったものではないが、エレノアはため息混じりに呟いた。

ハロルドもファレルも意味が分からない、とエレノアは思った。

ハロルドは家族の縁を切って出て行ったのではなかったか。今さら何の用があるというのか。

ファレルなどは第二王子だ。ただの子爵家の娘が第二王子の相手になりうるはずがない。エレノアには王子にもてあそばれて捨てられたいという願望はないのだ。

言いたいことは山ほどあり、何から言っていいのか分からないほどだった。

そのためエレノアは目に入った金髪から片付けることにした。

「ファレル殿下。御厚情は感謝いたしますが、私に王子の愛妾は勤まりません」

「誰が愛妾といった?そこは妻だろう」

不思議そうに首を傾げたファレルに、エレノアは何を言っているのかとまた声を荒げそうになる。

「お立場をお忘れですか?殿下は第二王子でいらっしゃいます。ただの子爵家の娘が第二王子の妻になりうるわけがありません」

「エレノアこそ、自分がただの子爵家の娘だという気か?お前は王女の腹心だ。今の役職は侍女だが、国の中枢に絡む人間だぞ」

「それでも、王族の婚姻はそのように単純なものではないはずです」

きっぱりと言ったエレノアだったが、ファレルの余裕は崩れなかった。

「先程からお前の言葉は、俺自身を嫌う言葉ではない。つまり、お前の心配さえ解決すれば問題はないということだ」

「そういうことではありません」

きっとエレノアはファレルを睨み付けた。しかしファレルが笑みを崩さないので、仕方なくそのままハロルドへ向き直る。

「縁を切りたいのじゃなかったの?」

思いの外冷たい声が出た。それはこの冬中の喪失感が出させた声だった。

ハロルドは驚いたように目を見開いた。

「まさか。こうして申し込みたいから、申し込める立場を手に入れただけ」

「じゃあ、どうして何も言わずに家を出たのよ」

「父さんには説明したよ、エレノアに結婚を申し込みたいから養子に行くって」

「け!?」

エレノアはするりと言われた言葉に目を見開いた。衝撃が大きすぎて、聞き返したくても『け』から先を口に出すこともできなかった。それではまるで、自分たち家族を捨てたのではなくて、自分のことが好きだというようではないか。

「最初なんて、大嫌いって」

「昔ね。それからお互いに変わったし、その間結構好意を示したつもりだけど」

まさかの事態に、エレノアはあわあわと唇を動かした。

「だって、姉弟だったじゃない」

「俺は姉さんて呼んだことないでしょ」

エレノアは駄々をこねるように叫んだ。

「理想の姉になろうって、ずっと努力してきたのに!」

ハロルドが自分を姉だと思っていなかったことは分かっていた。けれど、家族ではなくなって、また家族になろうと言われて、でも姉ではないと言われて、頭が混乱していた。

冷静に考えればエレノアにも分かっただろう。ハロルドが言うのが、結婚したいから姉では駄目なのだという意味だと。しかし、この時のエレノアには無理だった。突然突き放しておいて寄ってきたと思ったら、また突き放されたような酷い混乱と、それから理解を拒否する気持ちと。

涙目になる彼女に、ハロルドは宥めるように声をかける。

「理想の姉は絶対無理だけど、エレノアは理想の人だよ」

そんな恋愛小説のような甘い言葉がこの人の口から出るとはと、エレノアは驚いて動きを止めた。

すかさず二人の求婚者が片膝をついて手を伸ばす。

エレノアの目の前で紫の薔薇とアザミが揺れた。

それは古くからの求婚の形だ。

求婚者はハロルドとファレル。

理解したくないが、目の前の現実がエレノアにそう告げている。

しかし、「さあ、どちらを選ぶ」とばかり差し出された花をエレノアは掴みかねた。

ニコラスとの関係を駄目にした後悔が、エレノアを慎重にしていた。

新たな恋に臆病になったのではない。

そうではないが、慎重に考えなくてはならないと思っていた。寂しさや焦りで婚約を決めて、また相手を大事に出来ないようなことにはしたくない。自分勝手に恋に恋するのではなく、次こそ相手を大事にしたい。だから、ここで差し出されたからといって花を選んで良いのかとエレノアは悩んだ。

確かに嫌いな二人ではない、この花を拒否してまた疎遠になるのは嫌だ、けれど。

エレノアは目眩を振り払おうと大きく息を吸った。

そこへばん、と扉が開く音がした。逆光の中堂々と姿を現したのは、

「そろそろ決まったかしら?」

時期女王と名高い王女アイリーンだった。

「アイリーン様!」

エレノアはぱっと顔を明るくした。この見合いを王女が知っていることへの驚きよりも、ここが王宮に隣接していた幸運への喜びが勝った。

そんな彼女へにこやかに近づき、アイリーンはエレノアがどちらの花も手にしていないことを見て取ったようだった。あらというように頬に手を当て、エレノアの瞳を覗く。

「・・・決まらない?」

エレノアは眉を下げた。アイリーンに話しをしたい、と思った。婚約解消の話から、ここまでの様々なことを聞いてもらいたい。けれど、今この状況をどうしたらいいのか分からない。

すると王女はエレノアをぎゅっと抱きしめた。そしてそのまま二人の求婚者に顔を向けると、こう言い放った。

「私との約束が先よ」

「何?」

ファレルが声をあげ、ハロルドも顔をしかめた。しかしアイリーンは悠然と微笑んだ。

「まだ、女王の侍女になってもらっていないもの」

そして少しだけ身体を離し、

「どうかしら?私の侍女になってもらえる?」

と囁いた。

エレノアはアイリーンの意図を悟り、目を丸くした。エレノアは今でも王宮の侍女として名を置いているし、ハロルドもファレルもエレノアに直ちに侍女をやめろなどと言わないだろう。ただ、アイリーンは、エレノアのために時間をつくろうとしてくれている。

エレノアはこの部屋に入って初めて微笑んだ。

「はい、アイリーン様の侍女になります」

それから彼女は二人の求婚者を振り返った。

「花をいただくことは出来ません。私はその花にふさわしいとは言えないので」

ハロルドは酷く苦しそうな顔をした。

「それは、他の誰とも結婚しないということ?」

彼がエレノアを心配するように言ったので、混乱が少し収まる。彼の中身は実は変わっていないのだと、そう思えて少しだけ笑みが出せた。

「責任をもって人を愛せるような、花にふさわしい淑女になったら、そのときはどなたかの花を頂くこともあるかもしれないわ」

ファレルがふんと鼻を鳴らす。

「一応待つが、求婚した以上今までのように手加減はしない・・・痛!」

アイリーンのスカートのひだからスリッパが飛び出したので、エレノアはこの日何度目かの驚きに目を見開き、それから心の底から笑った。

せっかく自分に求婚してくれた二人に対する申し訳なさは消えない。けれど、申し訳ないからと結論を急ぐ気遣いよりも、誰が一番大事で、共に人生を歩みたいのかしっかり考える誠実さをとりたいと思った。たとえそれで、彼らが去ってしまったとしても。


こうしてエレノアはアイリーン王女改めアイリーン女王の侍女になることとなった。

エレノア・ガーラントの二度目の見合いは見事に失敗に終わった。しかしそれを彼女が挫折と捉えるのかどうかは、また別の話である。


挫折をメインとしたエレノアの『大いなる挫折』は、この話で終わります。この後恋愛をすすめるにあたってR指定等の保険をかけていないことに気付いたためと、挫折というタイトルと内容がそれていく気がしたからです。


そのため、続きは別タイトル『侍女と王女の華麗なルール』で更新しようと思います。こちらの『挫折』には16才までの時間軸で、別視点の話を細々更新していきたいと思います。

ここまでお付き合いいただき、本当にありがとうございました。

タイトルが変わってもエレノアの今後にお付き合いいただければうれしいです。

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