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エレノアと妹

あけましておめでとうございます。

お正月で更新が止まってすみませんでした。

「おねえさま!」

飛び込んできた温かい固まりを抱き留めて、エレノアは頬を寄せた。

「ただいまシンシア。会いたかったわ。」

「こらこらシンシア。お姉様とお兄様をまずおうちに入れてあげなさい。」

玄関前で抱き合う姉妹とそれを見ている息子に、父ウィリアムが優しく微笑んだ。

「お帰りなさい二人とも。寒かったでしょう?」

「お父様、お母様!」

「ただいま戻りました。」


冬の休みが来て、エレノアとハロルドは領地の屋敷に帰ってきた。

エレノアと婚約者は手紙をやり取りし順調に関係をふかめていった。夏には学校で「妹さんも婚約したんですって」と言われると少し頬がひきつっていたエレノアだったが、それもじきに止んだ。

そうして秋が過ぎ、冬休みだ。

夏の社交シーズンは父も王都の屋敷で暮らしているし、夏と冬の長い休みには、領地に戻っている。そんな学校生活も5年目となれば慣れたものだが、何度繰り返そうとも家族との久々の再会はエレノアを幸せな気持ちにしてくれる。

特にまだ領地の屋敷で過ごしている妹のシンシアとは、休みにしか会えないので、会う度大きくなっていて、驚いたり喜んだりと忙しい。

シンシアが生まれてから王都の学校に入学して家を離れるまでずっと、エレノアはシンシアにべったりだった。

エレノアは三人兄弟だが、ハロルドは会ったときにはすでに物心ついた、しかもエレノアよりうわ手な子どもだった。だからエレノアにとってシンシアは、初めて心おきなくかわいがることのできる兄弟だったのだ。それはもう、朝から張り付いて離れないほどで、両親には苦笑されハロルドには呆れられた。

ある日ハロルドに「よく赤ん坊のよだれだらけの手でそこまで盛り上がれるね。」と言われ、ふと弟にも平等にすべきかしらと考えてしまったエレノアは、このとき魔が差していたとしか思えない。ハロルドの頭を撫でて「ハロルドもかわいいわ」と言ったのだから。勿論ハロルドは即座に払いのけて本気で機嫌を悪くした。もう一度同じことをするほどエレノアの心臓は強くない。それにもう物理的にも難しい。10で既にハロルドの背はエレノアを越え、今ではその黒髪はエレノアの目よりも上にある。


そんなエレノアの妹に対する感情は、婚約やその後の諸々があっても変わるものではなかった。

「おねえさま、おねえさま。」

と常にまとわりついて天使のような笑顔を見せる妹を、どうやって嫌っていられるのか。エレノアには無理だった。

「なあに、シンシア。」

「まほう、みせてほしいの!まえにおはなししたでしょ。」

今もシンシアは、つやつやの頬をピンクに紅潮させてエレノアの座るソファによじ登る。

そんな妹にエレノアは、「レディは椅子に座るときも上品にね。」と姉ぶってたしなめつつも顔をほころばせる。シンシアが半年前にした約束を大事に覚えていたことがたまらなく愛しかったのだ。

「そうね、学校で習い始めたから、冬には見せるって言ったんだったわね。」

「そう!」

王立女学校では、初等部のうちにダンスやマナー、音楽といった「身につける」類を身体に覚え込ませる。魔法や学問とされるものが本格的に始まったのは中等部になった今年からだった。

「そうね、まず習うのは」

エレノアは壁際の蝋燭を手にとると、右手の人差し指をその先に向けた。そして燃える炎をイメージする。こうして五大要素をイメージすることは魔法の初歩の初歩で、この国では練習さえすれば大体の者ができる。エレノアも王立女学校の魔法の授業では、最初に習った。

早くから自立して生きていく庶民などはむしろ、貴族令嬢のエレノア達の通う学校よりずっと早いうちに習うことだ。暗くなっても自分で灯りをともす必要のない令嬢達にとって、魔法は殿方と会話を合わせるための教養程度の意味合いしかない。ただ、王宮の侍女になるような場合には実技もある程度必要だから、そのために授業があるだけなのだ。アイリーン王女などは最初からお付きのものに危険だからと止められているらしく、エレノアがやるのを手を叩いて見ていた。

エレノアはこの魔法の授業にも真剣に取り組んで、休み前のテストではよい成績を修めることができた。両親もとても喜んでくれて、エレノアは満足した。

「わあっ!すごい。」

イメージ通りに蝋燭の先に小さな火が灯ると、シンシアが跳び跳ねて喜ぶ。

「これは一番簡単な魔法なのよ。」

技の難易度の低さに対してあまりの喜びようだったので、エレノアは苦笑した。

するとシンシアはますます感動したというように青い目をキラキラさせて言った。

「おねえさま、すごい!もっとすごいまほうがつかえるの?」

その期待に輝く笑顔といったら。どうしてエレノアがこの妹の期待を裏切ることができただろう。

「そうねえ。・・・じゃあ、もう少しだけね。」

本当は少し不安もあった。安全対策が施された教室や、魔法に熟練した大人のいない場所ではまだ長い集中を要する魔法は使ったことがなかったのだ。

しかし、エレノアにはよく言えば楽天的、悪く言えば考えなしなところがあった。

彼女は結局このときも、なんとかなるでしょう、という無意味な独り言に後押しされるようにして、呪文を唱えてしまった。

「火よ・・・・・・」


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