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エレノアの主

アイリーンの罠

刺客騒ぎの後始末は1日2日で終わるものではなかった。

特に今回は、出先ではなく王宮内での事件であり、侵入経路、当日の王宮の警備体制など精査せねばならないことは山ほどある。そうなれば関係者の数も膨大で、証言を確認するだけでも大変な手間だ。

そんな状況で王家の三兄弟が集まっているのは、例に漏れずアイリーンの部屋だった。一箇所にまとまって警備の手を割かせませんという姿勢をとりつつ、今後の対応について相談をまとめるためでもある。

ハロルドが敵を服毒の間なく気絶させたおかげで、王女の間に攻め入った刺客はほぼ全員が生け捕りにできた。

その結果分かったことは、刺客達には皆戸籍がなかったということだ。彼らは刺客として任務を全うできなければ生きる場所がない人間だった。死のうとする彼らを生かすため、また口封じから守るためにファレルはハロルドに命じて彼らを厚い氷の中で眠らせた。

刺客達の素性は、容姿、衣類、武器も全てくまなく調べられた。姿形には一貫性が無く、どうやら一族ではなく各地から集められたと考えた方がよいようだった。衣類や武器は、これまでの刺客同様、他国のもので固められており、どこで作られたのか今のところ特定できていなかった。

ただ、言葉には少し特徴があった。その特徴は国内の南部にある侯爵家ゆかりの地域のものと似ていた。

「カーラが侯爵家にそれらしい人材はいないと言っていた理由が分かったわ。ここから送り込まれていたのね」

アイリーンは広げた地図を扇の先でたん、と叩いた。

「乗り込むか」

直情径行のクインランをアイリーンは首を振って抑える。

「一応、捉えた刺客は瀕死状態で情報を聞けていないことになっているけれど、あちらも今は警戒しているはずよ」

そんなところに目立つクインランが飛び込んで証拠を隠され、何も出ませんでしたではどうにもならない。

王女は扇を広げ、ゆっくりと仰いだ。

それにこちらにも被害が出ている。アイリーンの盾の一人、カトレアは腕を負傷してしばらく復帰できない。騎士も数名が負傷した。無計画に人間を送り込めるほどの余裕はない。

「それにしても、直接刺客を送り込むとは、大胆な手ですね」

クリスが言えば、ファレルもうなずいた。

「毒殺が上手くいかずに焦っているのか」

アイリーンの自室ではなかったものの、謁見の間近くという王宮内での大規模な犯行だった。

行事の準備で出入りの商人が増えていたのは確かだが、王宮に出入りする荷も人間も厳重に調べられるはずであり、そこに刺客を紛れ込ませることができるのは権力を握った侯爵ならではである。侵入経路が特定されないのは、侯爵が特権を使って荷物の検査を逃れていたためだろう。

忌々しい、とアイリーンは眉間に皺を寄せそうになるのを堪えた。これだから、犯罪と腐敗の温床にしかならない高位貴族の特権特例などさっさと廃してしまいたいのだ。

それを魔法結界に穴があったのではないかなどと言いがかりをつけられたものだから、魔法省はたまったものではない。恐らく存在しない穴を探して、国防長以下の面々が徹夜を続けている。

なんにしろ、今までの毒や王宮外での刺客に比べてかなり強硬な手段と言えた。

「・・・焦っているのは、確かでしょうね。もう夏だし、何度盛っても毒は効かないし」

敵が焦っているのなら、アイリーンにとっても、勝負のしどころだ。

アイリーンは冷静にクリス等からの報告を読む。

あの日の公務は謁見であり、アイリーンの公務の詳しい時間を誰でも知り得たこと。それから別の行事の準備で、周辺で勤務している者が普段より少なかったこと。

アイリーンは、そこでふと思い出す。エレノアがこの日、行事準備で忙しいときだからと本来なら休日の予定だったのを返上していたことを。恐らく、もともとの勤務予定は漏れていた。だから手薄のところを狙ったのだろう。

敵は、勝負を決めにきていた。今までの王女が死ぬといいという姿勢から踏み込んで、確実に殺して一気に王座まで狙おうという意図を感じる。一歩間違えば、今度こそ死んでいたのかもしれなかった。

すぐにディランに連絡して、厳重であるはずの勤務予定の管理に関わっている者を調べさせ、誰が侯爵側に通じているのか確認しなくては、とアイリーンは考える。

アイリーンはふう、と一つ息を吐いた。

「お父様は危険なことはするなと言ってくださったけど・・・」

王である父は、娘に王位を継がせることを未だに迷っている。子ども達の中で彼女がもっともふさわしいのは知っているが、王座に座る苦しさも身をもって知っているからだ。

しかし、アイリーンが危険なことをしなくても危険はあちらからぞくぞくとやってくるのだ。

「待ってばかりで後手に回るのはもううんざりだわ」

王女は優雅に扇を閉じると、魅力的な笑顔を見せつけた。

「そろそろ、罠が必要ね」

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