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エレノアの知らない攻防1

ハロルドの部署は、人事、研究、国土、国防と分かれたうちの国防だ。もともと国防に興味の強い者は騎士団に入る上、他の部署に比べて勤務が不規則なこと、長であるイングラム伯爵の取っつきにくさなどもあり、魔法省の花形は研究に奪われている。ちなみに万能なホールデンは教育も兼ねる人事部の所属である。

「なぜうちに入ったんだ?」

ノアという名の先輩に聞かれ、ハロルドはすらすらと答える。

「私は魔力量を生かした仕事がしたいと思っていましたし、学生時代にファレル殿下とお近づきになる機会に恵まれて気さくな人柄に触れ、自分の力でお守りしたいと思ったからです」

これはかなりの部分が虚飾だが、否定すれば王族に対して不敬になりかねないため、言われた相手は納得せざるをえない。

今もノアは、そう、と引きつり気味の笑いを浮かべた。しかし彼はここで引き下がらなかった。

「まあ、それでもさあ。イングラムとガーラントっていえば、因縁の・・・」

「ノア。北の結界の調査は終わったのか」

「は、はい。今すぐに・・・」

噂の張本人が現れ、ノアは逃げるように部屋を出て行った。

ハロルドは手を止めずに自分に与えられた仕事を続ける。

国防の要となる結界の魔力を維持する、魔力をためる装置の整備だ。今のところ、ホールデンの手伝いでしていたことと大差はない。

入省したての新入りはこうした雑用を任される。しかしたかが雑用と侮るものは上には行けない。このような雑用を通じても結界の機能など学び取るべきことは多いのだ。

視線を感じ、ハロルドは顔を上げた。

「何かご用でしょうか」

イングラムが彼をじっと見ていた。

「お前は、知らないのか」

「何のことでしょう」

ハロルドは聞き返した。うかつなことを口にする気はなかった。

「イングラムとガーラントの因縁だ」

「多少存じております」

冬にヘンリーの件でディランと話をしていたとき、この部署に彼がいることも当然教えられていた。

イングラムは苛立ちを露わにした。

「ならばなぜそう平然としている」

「そう仰られましても。私には貴方を恐れなければならない理由が見あたりませんでしたので」

「なぜそう思う」

「貴方はガーラント子爵家を潰さなかった。それに私がここに来ることも拒否しなかった。貴方の権力をもってすれば可能だったはずです。そうしなかったのは貴方が、私怨で権力を行使しない、職務に私怨を持ち込まない人物だということでしょう」

それに、と続ける。

「忘れ形見であるエレノア・ガーラントを無理矢理引き取ろうともなさらない」

「・・・これからする気かもしれんだろう」

「そうですね。しかし、それならば邪魔な私を身近においたりなさらないのでは」

冬に現れたヘンリー・イングラムの行動が、彼単独の考えだったのか、あのときは結局分からなかった。

イングラム家は伯爵家だ。跡取りがいないことを考えれば、養子に娶らせるにしろエレノアを跡取りとして婿をとらせるにしろ、子爵家のニコラス・マクレーンとの結婚は宜しくない。ヘンリーの行動が伯爵の意思であったなら、その辺りが関係しているのかと思われた。

しかしヘンリーがカーラによって駆除された後、伯爵は何の行動も起こさなかった。

そのためディランには近寄らない方がいいと忠告されたが、ハロルドはこちらから動いて様子を見ることにしたのだ。

もちろんハロルドとて勝算のない賭けはしたくないので、自分の有能さと人事のホールデンの権限を吟味して入省自体を白紙に戻されることはないと考えてのことである。

そして結果、伯爵はハロルドが自分の部署に入ることを拒否しなかった。多忙につき職場の住人と言われる国防長がエレノアに手を出す策を弄するなら、ハロルドの存在は邪魔で仕方ないはずなのにだ。

「ですから、私は貴方をただ上司として尊敬しております」

淡々と話したハロルドを、イングラム伯爵はやはり険しい顔で睨み付けていた。

「・・・この部署を希望した理由は」

「先ほど申しましたが・・・」

「それだけで危険を冒すほどお前は愚かではないだろう」

王族への敬意という名目をばっさりと切り捨てられ、ハロルドは今度こそ少しだけ迷った。しかし、伯爵からすれば自分の目的が分からなければ怪しむのは当然だと考え、正直にこれだけ口にした。

「家族の危険を減らしたかったからです」

「エレノア・ガーラントか」

伯爵はハロルドが濁した部分を明言した。彼は素直に頷くことにする。

「はい」

ハロルドはもともと魔法使いとして国防に関わり、王女の侍女であるエレノアの危険を減らしたかった。それも事実、そしてイングラム伯爵の反応を見ようとしたことも事実というわけだ。

真っ直ぐに見つめ返せば、イングラム伯爵は興味を失ったように、ふんと鼻を鳴らして顔を逸らした。

ハロルドは表情を綺麗に消したまま、再び作業に戻った。

しかし内心では、得られた情報の大きさに興奮していた。

先程伯爵は、「知らないのか」と言わなかったか。それはハロルドがヘンリーと対峙していたという情報が彼に届いていないことを表している。つまり、ヘンリーの行動と伯爵にはやはりつながりがなかったのだ。

ハロルドは自分の賭けの結果に確信をもった。伯爵は今のところ、エレノアやガーラント家に手を出してはいない。その上、諸々の私情を殺してハロルドを手元に受け入れるだけの度量と高潔さを持ち合わせた人物らしい。

安心させられる。これで、エレノアを少し安心させてやれる。

彼は点検済みの装置を積み上げながら、微笑みたくなる衝動と必死に戦った。

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