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エレノアの悩み

今日(2/22)、ポイントが10000にとどいていました。

大変嬉しいです。読んでくださっている皆様、本当にありがとうございます。

この年の建国祭を、エレノアは裏方として眺めた。

今年もコールと出かけられないのは少し残念だったが、建国祭の初日には淡い色合いの可愛らしい花束が彼から届いた。エレノアは王宮の自室で、家族から届いたスミレ、薔薇と共にその花を飾った。

王女の支度、祭事直前までの警備に待機と、体力には自信のあったエレノアも連日くたくたになった。それでも疲れたアイリーンを側で支えることができるのが嬉しかったし、カーラやカトレア、ハロルドもまた任務を得て頑張っていると思えば、ますます力が湧いた。


建国祭が終わり季節が夏にさしかかっても、意地の悪い侍女たちは相変わらず悪口や陰口に忙しいようだった。

しかし大抵はカーラ直伝の「想定される千の悪口」に織り込まれ済みだったし、それ以外のこの言葉には、エレノアは思わず満面の笑みになってしまうのだ。

「亀の子だわ」

「まあ!」

エレノアのいつにない反応に一瞬相手は意地の悪い笑みを深めたが、すぐにその顔は彼女に両手で手を握られたことによって強ばった。

「うれしいです、私の技を知ってくださっているのですね!ところであなたは、亀だと何亀がお好きですか?私はやはり居住性を重視して陸亀派なのですけれど」

「な、何なのよ。なに亀でもいいわよ・・・」

「まあ、素晴らしいですわ。あまねく愛するだなんて、なんて高い志なのでしょう!」

エレノアはカーラの持ち込む亀情報に触れるうちにいつのまにか大の亀好きになっていた。そのため「亀」と言われると誇らしいのだが、同時に高揚感に乗じて少し逆襲してやろうという気持ちになってしまう。

絡んできたはずの令嬢は、追いすがるエレノアを残してそそくさと退散してしまった。

エレノアは話相手に逃げられたことを残念に思ったが、アイリーンのための本を運んでいる最中だったのを思い出して急いで歩き出した。


この日は午後からお休みをもらっていたため、久々に婚約者のコールと会う約束をしていたのだ。

コールと会うのは、あの冬の一件以来だった。あの後エレノアは自分の問題に巻き込んだことと、淑女らしくない無作法な姿を見せたことを詫びる手紙を書いた。コールの方からも自分の非力を詫びる手紙が届いたが、何となくその文面にはいつもの彼らしい柔らかさがない気がした。そのため、エレノアは久々のデートを前に少し緊張していた。

エレノアは自室でお仕着せを脱ぐと、鏡の前で散々悩んだあげく、少しめかしたワンピースに着替えた。そして時計を見ると、時間に遅れるまいと急いで王宮の門を出た。

だから久々にあったコールに指摘されたときには、その存在をすっかり忘れていたのだ。

「それ、どうしたの?」

コールが指さしたのは、エレノアの手首で揺れた腕輪だった。

ファレルから受け取った腕輪は、彼いわく、外部から危機が迫ったときにエレノアにそれを伝え、さらにこの腕輪を目印として味方を送ることができる魔法具だという。王女の警護のために普段から常に身につけているよう言われて、アイリーンのためならと素直に頷いたエレノアだった。

正直に話せる部分は少なく、エレノアは迷いつつ口を開く。

「第二王子から、王女の侍女にと預けられたのです。職務上のものなのだそうです」

コールのそのときの顔は、エレノアが今まで見た中でもっとも辛そうな笑顔だった。

「・・・少し、妬けるね」

エレノアはコールの言葉の意味が分からず困惑した。

そんな彼女に、彼は

「先になにか贈れば良かったな、と思って」

と目を伏せた。

エレノアはこの段になってようやく慌てた。

「これは全く、装飾的な意味合いではないですもの。本当にただの道具ですわ」

そう繰り返し強調しても、コールの表情は今ひとつ冴えず、エレノアは途方に暮れた。

「ごめん、君にそんな顔をさせたいわけじゃないんだ。ただ、君の周りには素敵な人が多いからさ、僕が勝手に妬いただけ」

素敵という言葉にエレノアは大いに異論があったが、今や王宮に勤める内部の人間として、変態だのなんだのと王族の恥を語るべきではない。そのため口がむずむずするのを堪えて黙っていた。

無言のまま俯いたエレノアは、自分の手もとで揺れる小さな石を見つめた。

細かい銀の鎖の先についた青いような紫がかったその石が、日の光を浴びて、今日はやたらと光って見えた。


後日ファレルはアイリーンに苦情を申し立てる。

「最近やけに硬いスリッパが増えていないか」

アイリーンは少し首を傾げ、それからああ、と頷いた。

「いい品を見つけたからと、いくつか入れ替えてくれたのよ。エレノアが」

ちょうどこの日彼女は休暇に当たっていたため、ファレルは苦情の持っていきどころを無くして、ふん、と鼻を鳴らした。

そんな片割れに王女は冷たい視線を送った。

「また何かしたの?」

「失礼だな、最近は何もしていない・・・はずだ」

疑わしげに見られ、少し考え込みながらも王子はそう主張する。

「まあ、なんにせよ私は気に入っていてよ、この使い心地」

アイリーンがにっこり笑って試し打ちの体勢に入ったため、ファレルは大急ぎで部屋から退散した。


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