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エレノアと冬の戦い2

「ヘンリー・イングラムがエレノア嬢に?」

ディランは頓狂な声を出した。

場所は王立図書館の階上にある貴賓室である。学校で話し込みたい内容ではなかったため、ディランがここを提案したのだ。

本棚から遠いため普段はディランもハロルドも利用することはないが、きちんと防音にも気を配られたこの部屋は、内緒話にはうってつけだった。

ハロルドは、聞き返したディランに頷く。

「あいつはたしか就職先もまだ決まっていないし、そんな余裕はないと思うんだけどなあ」

そうは言っても、ハロルドの帰宅後も分厚い手紙が連日届いており、使用人達が気味悪がっているのだ。

「奴とエレノアの接点は、ほぼないに等しいんだ。去年の建国祭の前に一度だけ絡まれたけど、その後は特に何もなかったし」

たしかに少しばかり険悪な雰囲気になった。しかし狐顔と罵ったのはハロルドだから、恨むのならハロルドに何かしてくるだろう。

そう考えていたとき、ディランがああ、と何か思い出したように声を上げた。

「イングラムって言ったら、エレノア嬢の親戚筋じゃないか」

「親戚?」

そこでハロルドはディランから、イングラム家の話を教えられる。

「・・・そうか、実の父親の方」

「うん。まあ、立場上ハロルドが知らないのは頷けるけど。エレノア嬢は知っているのかなあ」

ハロルドはしばらく考えて、首を振った。

「知らないと思う。少なくとも、奴と遭遇したときには何の反応もなかったし」

「なんていうか、お宅は貴族の割に情報に疎いよね」

「・・・母は調子が悪いし、父はそういうことが下手なんだ」

話せば話すほど、自分が何とかするしかないような気がしてハロルドは焦った。

そんな彼に、ディランはまあ落ち着けと手で示す。

「これが落ち着いていられるか」

むっとしたように言うハロルドに、ディランはため息をつく。

「エレノア嬢が絡んで冷静でいられないのは分かるけど。まだ相手の目的も分からないわけだし。予想をたてて防御するのは大事だけど、焦りは禁物だよ」

八つ当たりをした自覚はあったため、ハロルドは深呼吸をして、今度こそ頷いた。

「悪い。・・・借りは必ず返すから、力を貸してほしい」

「了解。俺もそのうちお前を頼る予定だから、気にしなくていいよ」

それから二人は、ヘンリー・イングラムの思惑に対していくつかの対策を考えた。


一つ目の問題は、この動きがこれで収まるのかだ。これは今後エレノアが戻れば否応もなく分かることだが、エレノア本人に直接近づいて害をなすことがないか重々注意が必要になる。

二つ目の問題は、この動きがヘンリー個人の意思なのか、イングラム伯爵の意思なのかだ。それによって、警戒しなくてはならない内容が変わってくる。

ヘンリーが個人的にエレノアに一目惚れしたというならば、エレノアの身の安全と名誉の保証が重要になってくる。一方イングラム伯爵がヘンリーを近づかせているのならば、嫌がらせとともに、エレノアを攫われる可能性も考えねばならないだろう。

「イングラム伯爵の感情までは分からないな。関心があるのかないのか。あるのならエレノア嬢を息子を拐かした女の娘として憎んでいるのか、息子の忘れ形見として執着しているのか」

ディランがそう言って説明するには、イングラム伯爵は常に表情が厳しいため、逆に感情が分からないそうだ。

「ともかくエレノアの安全を第一にしたい」

ハロルドの意見によって、エレノアの帰宅後の警戒態勢が整えられた。

ディランが書き上がった対策をひらりと揺らして言った。

「これが不要になれば一番良いんだけどね」


しかし、残念ながらその願いは叶わなかった。

エレノアが戻ると、ヘンリー・イングラムはエレノア本人につきまとうようになったのだ。

ヘンリーはまず、アイリーンの帰還を聞きつけたのか帰宅直後のエレノアに面会を願い出た。

それは訪問の伺いを事前にたてることすらない、いくら上位の貴族であろうと非常識なものだったので、執事が丁重に断った。

しかし、訪問者の名前を耳にしたエレノアはひどく動揺した。

彼女の戸惑いように、ハロルドが

「イングラム家とうちの関係を知っているの」

と聞いた。

すると、エレノアは目を見開いた。ハロルドがそれを言い出したことに驚いたようだった。

「・・・ええ。春に、偶然イングラム伯爵にお会いしたの。その後カーラからいろいろ聞いたわ。ヘンリーという人は知らないけれど、イングラムということは、イングラム伯爵のお身内なのでしょう?」

青い顔で頷いたエレノアに、ハロルドは手を伸ばしかけて下ろした。

そして、代わりにこう言葉をかける。

「何を考えているのかは分からないけど、とにかく分からないうちは近づかせないのが一番だと思う」

しばらく自分が一緒に行動するからと言えば、エレノアはようやく少し微笑んだ。




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