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エレノアの弟の豊饒祭

デール侯爵家のパーティーはつつがなく終了した。

さすがは侯爵家、招待客も親しい者だけとはいえかなりの数で、食事は立食形式で行われた。壁際に並ぶ料理は北の地の乳製品から南の海産物まで多岐にわたり、見慣れない食材も多くあった。

大人達がサロンに移動して酒を飲み始めた辺りで、ハロルドはディランと共に会場を後にした。

少年達はディランの私室で、のんびりお茶を飲んでいた。育ち盛りの彼らの恐るべき胃袋は、上品な立食パーティーの料理では足りずに、さらに茶菓子を飲み込んでいく。

「ところで、ハロルド。お前、彼女にアプローチはしているのか?」

「何だよ、それ」

非常に嫌そうな声をだしたハロルドだが、今さらディランは気にすることもない。手にしていた黄金色の菓子の残りを口に突っ込み、のんびりと飲み込んでから続ける。

「お前が祭りでハンカチを買ったという噂を、俺は掴んでいるんだけど」

ハロルドは見たことのない黒い粒状の菓子を眺めていたが、結局食べずにソーサーに置いてしまった。

「・・・誰から」

「さあね。まあ、お前目立つから。で、贈ったのか?」

ハロルドは、迷った末頷いた。

「よし。それで彼女の反応は」

「侍女曰く、お詫びの品だと思われている」

「はあ?お前、詫びなきゃいけない何をしたんだよ」

「・・・苛ついて、髪に挿してあった花を一本とった」

「何で」

「今年も花をくれないのかなんて言われたから。婚約者と出かける前に」

「ガキ」

「ほっといてくれ」

ディランははあ、とため息をついた。

「お前、自覚がなかったとはいえさあ。花くらいさらっと贈っておけばよかったのに」

「仕方ないだろ、バイト前で金がなかったんだから」

「小遣いくらいもらっているだろう」

「・・・ガーラント家の金で、あいつに花を贈れと?」

そのぶっきらぼうな呟きに、ディランはこれで自覚がなかったのが不思議だ、と呆れかえった。ちなみに庭の花という手はハロルドの中で縁起が悪いものとして封印されている。

「まあそれは仕方ない。じゃあ、最近はどうなんだ」

「・・・変わりないよ」

「何もアプローチしてないのか?」

「いや、一応こちらは態度を変えているけど」

「というと、彼女には伝わっていないと。・・・彼女が鈍いのか、お前の行いが悪いのか」

多分どちらもだ、とハロルドは思ったし、その沈黙でディランも察したらしかった。

「俺はお前の味方をすると言ったが、はっきり言って情勢は厳しいぞ。彼女には婚約者がいるし、お前は兄弟だし。こうなると、お前には時間がない」

ハロルドは腕組みする友人を見上げた。

「いいか、ハロルド。お前は彼女が結婚する前に、何とかして候補者に潜り込まなければならない。婚約は親が決めたといったな」

「ああ。多分、申し込みがあった中からエレノアの趣味に合う相手を」

ああ、金髪碧眼ね、と当然のようにディランが言ったので、ハロルドはむせた。

「なぜお前がそれを」

知っている、まで言う前にディランが人さし指を振って見せた。

「王女様のお気に入り、エレノア・ガーラント嬢の情報だからね。あれ、ハロルドもちゃんと知っているんだ」

ハロルドはため息をついた。エレノアが王女の髪へ向けていた憧れの視線を思い出しながら。

「・・・分かりやすいから。母親の金髪碧眼がエレノアの好みの基準なんだよ」

なるほど、とディランは頷く。どうやら彼の情報には、エレノアの家族関係も含まれているらしい。

「まあ、碧眼は当てはまってて良かったな?それで、話を戻すが」

適当すぎる慰めをもらい、ハロルドは肩をすくめた。

言葉を切ったディランは、それから重々しく宣言した。

「リミットはあと3年だ」

「卒業後すぐに結婚するかもしれないよ」

「悲観的だな。まあ、最短ならそのとおりだけど、そうはならないね」

「根拠は」

「俺の情報によると、アイリーン王女が彼女を側に置きたがっている。エレノア嬢は防御魔法で実績を残しているし、王宮としても歓迎するだろう。そこで問題になるのがマクレーン家だが、こちらも国王寄りの姿勢だから、王女とのつながりは歓迎するはずだ。だから、適齢期に入る17才まで一応のリミット」

「・・・なるほど」

ディランは王女の従兄弟だ。その彼の情報は信憑性が高い。

「それまでに俺が候補者になるのが最低条件なわけだ」

「そう。婚約の方は、当人が気に入っている以上勝手に手を出すべきじゃないけど、家の都合でご破算になる例もままあるから。で、お前の最低条件は何とかなりそう?」

ハロルドはしばらく考えた後、頷いた。

「・・・あてはある」

「了解。そしたら、早めに過去の行いってやつも清算しておいてね」

まるで浮気男のように言われ、ハロルドはふて腐れて先ほど置いた菓子をがばっと口に放り込んだ。

途端、ディランが身を乗り出す。

「あ、食べちゃった?」

何がと問い返そうとした瞬間口に奇妙な味が広がり、ハロルドは沈黙した。

「それね、C嬢から送られてきたからちょっと警戒してたんだけど。何でも、海草を練り込んだ海外の飴だとか」

まずい訳ではない、しかし塩辛さと甘みの混ざったそれは、何ともいえない味だった。

ハロルドは自分のカップを空にし、さらに実験台にされた恨みを込めてディランの茶も奪って飲み干した。


私はハロルドの食べた昆布飴が嫌いではありません。

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