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エレノアの入学

エレノアはその年、淑女の為の王立女学校に入学することを両親に願い出た。

王侯貴族の子女がより高度な淑女教育を受けるために設立されたその学校は、8歳からの入学が可能だった。しかし両親は当初、幼い娘を送り出すことに渋った。大抵の場合は家庭であらかたの教育を受け、社交界デビュー前に交友関係を築こうと13歳前後で入学するものだったからだ。

それでもエレノアの決意は固かった。

何度も頼み込み、泣き落としもハンストも使った彼女だったが、最終的に両親を落としたのは「生まれてくる子の自慢の姉になりたい。」というエレノアの真剣な主張だった。


晴れて両親の許可をもぎ取ったエレノアだったが、実際に入学できたのは9歳になる春からだった。

その年に同年代の生徒が集まらず、初等部の授業が開設されなかったのだ。

そのため一つ下のハロルドが王立学校に入学するのと同じ年になってしまった。

両親は「ハロルドも行くのなら少しは安心できる」と喜んだが、エレノアはかなり不服だった。

「ハロルドが一緒に入学だなんて、ひどいわ。ハロルドも一年我慢して。」

とふくれて訴えたものの、こちらは初等部から人気の高い男児のエリート校の為、この主張は誰にも受け入れられなかった。

年下のハロルドに一歩先んじることが出来なかったばかりか、両親が姉のエレノアよりもハロルドを頼りにしているのだから、エレノアのふくれた頬は元に戻りようがない。

ハロルドはといえば、あの爆発以来、またもとの淡泊な少年に戻っている。特に両親の前では、あれは夢だったのか、と思いそうになるほどにそれはもう完璧に、落ち着いた弟を演じている。

エレノアが「一年我慢して」と駄々をこねている間も、

「嫌ならエレノアがもう一年待つという手もあるけど。」

とさらりと流していた。

最終的には

「自慢の姉になりたいからと言って入学するのに、こんな様子じゃ本末転倒だね。」

とため息混じりに言われ、黙らされた。エレノアは弟の言う「ホンマツテントウ」というのが何だか分からなかったものの、自慢の姉像からほど遠い駄々っ子の姿を非難されていることはハロルドのため息で理解させられたのだ。

両親に心配をかけたくないので、今まで通りを演じるハロルドにエレノアも合わせているが、大嫌いと言われたことを忘れたわけではない。根に持っている訳ではなかったが、あれ以来、そういう距離を保たなくてはいけないのだ、と肝に銘じている。

エレノアの方が、二年一緒に過ごしたハロルドを弟としてそれなりに近しく思っていようとも、相手はそうではないのだ。この美しく賢い才気溢れる少年には、親の都合で姉になっただけの地味で平凡なエレノアなど、目障りな存在でしかないのだと。だから、ハロルドのため息はエレノアを黙らせる。


「二人とも、休暇には必ずすぐに帰ってくるのよ。」

「はい、お母様。」

「はい、母様。」

王都にある王立学校に入れば、母にはしばらく会えない。産後の母は子爵家の領地の屋敷からしばらく動けない。

自分で決めたこととはいえ寂しさが込み上げ、エレノアは母に抱きつきたいと思った。けれど実際には、生まれたばかりの赤子を抱いた母に抱きつくことはしなかった。代わりに自分の腕をぎゅっと胸に抱き込んで堪える。

赤子は、エレノアの希望通り可愛らしい妹だった。

「シンシア、いいこでね。お姉様を忘れないでね。お手紙を書くからね。お姉様、頑張ってくるからね。」

妹の、母によく似たつややかな金髪をなで、別れを告げる。別れの言葉が長くなって、ハロルドの側から漂ってくる呆れの気配が濃厚になったのに気付き、名残惜しいが妹から手を離した。

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