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エレノアの社交界デビュー

少しシリアスです。

美しいドレスは淡いクリーム色。胸元を鎖骨下まで隠した分肩から背中の肌を少し見せ、腰には上品な淡い紫のリボン。飾りは少ないが、とろりと光沢のある生地が要所でドレープを描く。

結い上げた焦げ茶の髪も紫のリボンでまとめられ、その先が襟足でひらひらと遊んでいる。

扇も、靴も、華美にならない程度に身につけた宝飾品も、同色だ。

うすく引いた紅は桃色で、白い肌を健康的に見せていた。

「さあ、できましたよ」

優しくアンに促され、エレノアは鏡の前で立ち上がった。

「なんて可愛らしいんでしょう。本当に、よくお似合いです」

アンの賛辞に、エレノアは上の空で頷いた。

エレノアの、社交界デビューである。


「とても綺麗だ。エレノア、最高に素敵だよ」

ウィリアムにエスコートされ、馬車に乗る。続いてウィリアムとハロルドも乗り込むと、ガーラント家の馬車は滑るように出発した。

この夏がきて、エレノアは14歳になった。そして予定通りにエレノアはハロルドと共に社交界デビューを果たす。

ハロルドの方は淡いグレーの光沢のある上下で、胸ポケットのスカーフや袖口のラインをエレノアと同じく紫で統一している。

「そんな顔をしているとつけ込まれるよ」

ため息混じりのハロルドの言葉に、エレノアはまだぼんやりと頷いた。


馬車はある侯爵家の屋敷の門をくぐった。

ここの侯爵夫人がたいそうな社交好きで、特にこれからデビューだという若者を招いて世話をするのが好きなのだ。たくさんの人間が集まる上、主が堅苦しくない人物とのことで、ウィリアムは子ども達のデビューをこちらに決めた。

「マクレーン家のニコラスも来ているからね」

すでに確認済みのことを、ウィリアムは再度エレノアに伝える。

「はい、お父様」

「まずは侯爵夫妻にご挨拶に伺うけれど、その後でニコラスと踊れるよ。ええと、あと、今日は非公式でやんごとない身分の方がいらっしゃるという噂があるよ」

ウィリアムはなんとかエレノアの表情をほぐそうと饒舌だ。

荷物を預け、案内されるままに広間に入る。ウィリアムの手を借りたエレノアは、ふわふわと人混みを進んだ。家族で夫妻へ挨拶を済ませると、今度はマクレーン家等ガーラント家と付き合いのある人々へ挨拶に回る。


その言葉が聞こえたのは、こうして一通りの挨拶が済んだ辺りだった。

「さすがにミセス・ガーラントも、顔を見せられませんわよね」

エレノアの歩みが止まる。

「実家との関係を壊してまで最初の旦那様を婿入りさせたのに・・・亡くなってほんの数年で再婚なさるなんて、ねえ」

「大人しい顔をして見境のない・・・」

エレノア、とハロルドが声をかけるが、エレノアは無視できなかった。

「娘も大人しそうですけれど、中身はどうだか・・・」

「あら、そんなことを言っては可哀想ですわよ。ただでさえ出てこない母親のせいで継父に連れられているのに」

口さがない貴族の奥方達、そのうわさ話など、聞こえなかったふりをして無視するのに限る。そうして優雅に微笑めば、それで済むはずなのに。

エレノアは、大広間から逃げ出した。


廊下の先に控え室があることは、あれだけ上の空だったというのに、きちんとエレノアの頭に入っていた。どこかでこうして逃げてくることを予想していたように。

「エレノア・・・大丈夫かい?」

追ってきたウィリアムを、エレノアは振り向いた。

早足で来たせいで、エレノアの息は上がっている。けれど、声が震えたのはそのせいだけではなかった。

「お父様。どうしてお母様は来てくれないの?」

ウィリアムは悲しげな顔をした。

「それは」

「あの人たちが言っていたように、お母様は社交界に顔を出せないようなことをしたの?だから、だからお母様は来てくれないの?」

エレノアは父が答える前に、そう言って詰め寄った。

ウィリアムの眉はすっかり下がってしまっている。

「言っただろう?お母様は、風邪を引いてしまったと」

「風邪なんて、数日あれば治るじゃない!」

とうとう叫んだエレノアを見て、ウィリアムは表情を改めた。

珍しく彼の眉が上がり、唇が横に引き結ばれる。

エレノアの震える手を握り、血の気の引いた顔をのぞき込んで、彼は意を決したように言った。

「・・・エレノア、聞いておくれ。お母様は、病気なんだよ」

いつものエレノアならば、ウィリアムの表情に気付いただろう。

しかし父の体温も言葉も、今のエレノアには届かなかった。

エレノアは再び叫んだ。

「そんな言い訳聞きたくない!」

そして入ったばかりの扉から走り出てしまった。

入れ違いに部屋に入ったハロルドを、ウィリアムは悄然と見る。

廊下で待っていたらしい息子は、静かな目をしていた。

彼にも怒る権利はある。親達の醜聞に巻き込むなと、そう叫ばれることをウィリアムは覚悟していた。

しかしハロルドは、静かに父に問うた。

「・・・結構重いんでしょ」

話が廊下に筒抜けだったらしいこと、それを聞いた息子がこう結論づけたことに、ウィリアムは目を見開く。

父が無言で頷くと、彼は分かったと呟いた。

「エレノアはこっちで何とかするから、そっちはさっきの女狐連中をちゃんと御しておいてよ」

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