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エレノアの王宮訪問2

ともかく、と王子の付き人やアイリーンの侍女らの協力で何とか全員が席に着くと、アイリーンが口を開いた。

「まずはごめんなさいね。ええと、私から弁解させていただけるかしら」

王女の手にはまだスリッパが握られている。しかしそれを差し引いても、王子より彼女から聞いた方が良いと思えたため、エレノア達にも異議はなかった。

「私たちが、双子なのはご存じよね。初等部への入学が一年遅れたのは?」

と王女。入学に待ったをかけられたので知っていたエレノアは、頷いた。

「あのね、私達はエレノアやカーラと同じ年よ。本当は8歳の春に入学するつもりが、1年遅れたわ。・・・ファレルの奇行のせいで」

「お前だけ先に行っても私は気にしなかったぞ」

ファレルが良くても周りが良くなかったのよ、とため息をつくアイリーンの声は、普段より若干低い。学校では見たことのない素早いスリッパさばきや話し方に、兄弟に相当苦労をかけられているのだな、とエレノアは思った。

「ファレルはね、幼い頃から魔力が見えるのよ」

魔力が、とエレノアは口の中で繰り返した。魔力を目で見ることができる者の話など、聞いたことがない。一般的に自分の魔力は自分で感じ取ることができるが、他人のそれを感知するには、魔法使いとしての適性と修練が必要だ。ホールデンなどは生徒の魔力の乱れを感覚として見抜くことができるが、それは修練の結果だ。

「他人の魔力が色をもって見えるんですって。基本、身体のどこかにつぼのようなものがあって、そこから口へと流れだしているらしいわ」

驚いた表情のエレノアに、ファレルは頷いて見せた。

「お前の魔力のつぼは珍しい。蓋がないのは初めて見た」

そしてまたじっと胸元に目を注ぐので、アイリーンがすかさずスリッパで叩く。

「だから女性の胸元を見るのはやめなさい!」

エレノアは慌ててアイリーンを止める。確かに恥ずかしいが、つまり、王子が見ているのは胸元にある魔力なのだと言われれば、そうですかと言うべきだと思ったのだ。

「もう・・・これでも子どもの頃よりはまともになったの。昔はところ構わず人を指さしては『腹が真っ黒だ』だとか『小さいな!』だとか叫んで笑っていたんですもの。外へ出せたものではなかったわ」

人によって魔力のつぼのある場所も大きさも色も、違っているらしい。エレノアは心臓の辺りにこぶし大の大きさで見えるが、ハロルドだと腹部一杯に広がっているという。

「茶色・・・」

エレノアは自分の魔力の色を聞いて、何となく切なくなった。ハロルドの方は腹が真っ黒だと言われたが、王女の前だからか平然としている。

ちなみに王子は、魔力の色や光がだぶって見えるために、人の顔かたちを覚えるのが難しいという。

「でも、お前はもう覚えたぞ」

尊大な王子は、得意げにエレノアに言った。

「エレノア。土色の髪にアザミの目だな!」

「ファレル!」

エレノアはガン、と頭を殴られたような気がした。

すかさずアイリーンがファレルをスリッパで殴った。

確かにエレノアは自分でも地味だと自覚しているが、言うに事欠いて土色とは。そして人を例えるのにアザミとは。ショックで涙が浮かんでくる。やはりせめて服だけでも華やかな色にしてくれば良かっただろうかと後悔した。

「何故泣く。土に親和性が高そうな魔力だし、髪も同じで覚えやすいぞ」

まるで良いことを言ったのにというように王子は首を傾げた。

淑女としての振るまいも忘れて黙り込むエレノアに、さすがのハロルドも心配したのか、ファレル、と友人を咎める声を出した。しかし王子は、

「ついでに言うなら魔力のつぼも小さく、胸も小さい」

「「ファレル!!」」

アイリーンのスリッパが唸り、ハロルドの腕がエレノアを庇う。私のお友達になんてことを、とアイリーンは半泣きでファレルを叩き続けている。

エレノアは、怒りと羞恥にぷるぷると震え、すぐには話すこともできなかった。

アイリーンの双子の兄だから、ハロルドの友達だから、第二王子だからと良く思おうとしたが限界だった。

エレノアは思い切り息を吸って叫んだ。

「やっぱり、やっぱり、変態じゃない!あんたなんて、大っ嫌い!!」


その後平謝りの王女に見送られ、二人は王宮を後にした。家に着いてから王子に暴言を吐いたことに青ざめたエレノアだったが、珍しくハロルドが「あれくらい言って当然だ」とエレノアを養護してくれた。

さらにアイリーンから書かされたと見える謝罪の手紙と花が届いたので、安堵するが・・・

「でも、あんな人大嫌いよ」

アイリーンの指導が入ったであろう愛らしい紫のアネモネの花輪飾りは、残念ながらエレノアの部屋には置いてもらえなかった。


せっかくの王子様なのに残念です。

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