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エレノアの告白

エレノアはその日、やっと屋敷に戻ることができた。

すぐに見舞いにきたカーラは、エレノアを抱きしめた。

そんなカーラに、エレノアはもう一度ホールデンの特別補講を受けることになったと話した。

「私、カーラに言われたでしょう。どうして補講をやめるのって。あのときは分からなかったけど・・・ハロルドと競うことから逃げたの」

エレノアの言葉を、カーラはじっと聞いてくれた。

エレノアは、目をつぶった。自分のベットは、アンが置いてくれた薔薇の匂い袋の香りがする。その香りに励まされて、エレノアは続けた。

「本当はずっと逃げてきたの。小さい頃は、母が新しい父とハロルドについて話そうとするたび、庭に逃げ出したわ。二人が会いに来てくれても逃げて、納屋や薔薇園に隠れていたの」

貴族の令嬢がそんなふうに一人出歩くことを、屋敷の大人達は、仕方がないと見守ってくれた。

「それからも、ずっと。大事な話を母がしようとするたびに、私は逃げたの。聞かないでいる間は嫌なことが本当にならないかもって思っていたの」

再婚のときも、シンシアが生まれるときも、真面目な顔の母がそっと近くにくるたびに、エレノアは逃げ出した。その顔をしたときの母が、受け入れがたい話をすると彼女は知っていたのだ。エレノアの実の父がもう帰ってこないことを告げたときの顔だから。もちろん、そうして逃げても現実はエレノアの思い通りにはならなかったが。

「甘ったれなのよ、私。ハロルドにそう言われて、妹も生まれて、変わらなきゃって思ったわ。学校で頑張って、淑女らしく振る舞って・・・でもそれだって、負けそうなことからは最初から逃げていた。両親に、ハロルドや妹よりも褒められて、安心していたかっただけだから。それだけで、本当は目標もないし、頑張れてもいなかったのよ」

エレノアは、そっと目を開いてカーラを見つめた。

本当は、カーラにこの話をすることが不安だった。カーラは、なんでも頑張るエレノアが好きだと言っていたからだ。本当の自分の姿を話したらカーラが失望して離れていくのではないかと、エレノアは思っていた。

しかしカーラはにっこり微笑んで、エレノアをもう一度抱きしめた。

「私は、ちゃんとエレノアが頑張っていたと知っているわ」

「カーラ・・・」

「大好きよ、エレノア。話してくれて、ありがとう」

エレノアは涙ぐんで、これからは何ごとも逃げずに頑張るとカーラに誓った。


「さあ、お嬢様方。昼食の準備ができましたよ」

朗らかに言ったアンに、すがすがしい気持ちで振り返ったエレノアだったが・・・

「さあ、エレノア様!」

「あら、エレノアったらどうしたの?」

二人分用意されたテーブル上の料理が、エレノアを固まらせた。

漂ってくるのはたいそうおいしそうな匂いだ。ただ・・・

何か、見たことのないものが、大きな皿から顔を出している。

それは比喩でも何でもなく、顔だった。おまけに、小さな爪のある脚も見えている。

「・・・あの、アン?今日のお料理、何か変じゃない?」

「いいえ!カーラ様が、エレノア様のために特別に精のつくものを持ってきてくださったんですよ」

「うふふ、エレノアは初めてかしら?これはね」

亀なのよ、という言葉に、エレノアは耳を塞いだが間に合わなかった。

「いや!見れば分かるのよ、でも!聞きたくなかったわ!」

とってもおいしいのに、とカーラは不思議そうな顔をする。

「さあ、エレノア・・・『何ごとも逃げずに頑張る』のでしょう?まずはしっかり食べて元気にならないとね」

その日エレノアは、早速自分の宣言を撤回したいと思い、そんな自分と、結局おいしく食べてしまった自分に、少しばかり落ち込んだ。

カーラはこれでもエレノアが大好きです。

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