エレノアと天使
1/18、最後のセリフを改訂しました。
エレノアが目覚めたことを伝えに行くと言って、ハロルドは部屋を出て行った。
「ここ、どこなのかしら」
うっかり聞き忘れたことに気付き、エレノアは首を傾げた。
ともかく広い部屋だ。上等なベットに、壁の柱も置かれた家具も一級品に見える。アンがいないということは、子爵家の侍女がおいそれと入ることのできない場所なのだろう。エレノアが室内を見回していると、そこで扉が開いた。
「あれ。寝ているって聞いたのに」
見知らぬ少年が立っていた。
その少年を見たとき、エレノアは、ほうとため息をついて見惚れた。美しい金の髪はさらさらと金糸のようで、顔だちもすらりと伸びた手足も、この世のものとは思えぬ完璧な造形だった。天使だ、とエレノアは思った。
この天使はしかし、この世の言葉で、まあいいやと呟いた。
そして羽で飛ばずに、二本の足でつかつかと、エレノアのいるベットへと近づいてきた。
エレノアは、あまりのことに反応できずにいた。エレノアも一応貴族の令嬢である。寝室に、しかもベットに入っているところに、家族でもない人間が入ってくるなどありえないことだ。そんな所業があまりに自然に行われたことに頭がついていかず、彼女は、ぽかんと口を開けて固まってしまった。
その間に、少年はエレノアの真横までたどり着いた。
そして顎に片手を当てて吟味するようにじっくりとエレノアを見下ろした。
「へえ。本当に、まだちょっとしかないな」
彼は驚いたように言うと、それからさらに顔を近づけて笑った。
「うん、それにしても珍しい・・・」
何がちょっとなのだろう、何が珍しいのだろう、とエレノアはぼやけた頭で考えながら、少年の視線を辿った。
彼の目は今やごく間近にあり、視線は間違いようもなく真っ直ぐにエレノアに向いている。
そう、エレノアに。
正確に言うならば、寝間着のエレノアの、存在感のない胸元に。
「へ、へ、へ、へんたい~!!!」
エレノアはあらん限りの声で叫んだ。アンに教えられて以来使うことのなかった言葉が、迷いなく口から出てきた。
少年は全く意に介さないといった様子で、形の良い唇に人さし指をあてて言う。
「静かに。人が来るだろう」
「誰か来て!!変態が!変態が!!」
廊下から人の足音が近づく。叫び続けるエレノアに当の変態はというと、ただしかたないなと呟いて、窓から飛び出した。
「エレノア!?」
飛び込んできたのはハロルドとホールデンだった。
ほっとしたエレノアは何があったか話そうとしたが、そこでふいに、顔を赤らめた。今起きたことを男性に説明すると思うと、急に恥ずかしくなったのだ。
結局彼女はしどろもどろになりながら、窓から金髪の若い男がのぞいていたという、当たり障りのない話を作り上げた。終始俯いていたエレノアは、話を聞いた二人が「王宮の金髪・・・」と言って顔を見合わせたことには気付かなかった。
・・・エレノアが試験を寝過ごしたことに気付いたのは、翌日のことだった。
エレノアは金髪に弱いと思います。




