エレノアの目覚め
エレノアは彷徨っていた。
なぜか見下ろした手が小さく、自分が幼い子供になっていることに気付く。
「ここはどこかしら?」
深い森のようだ。
森の中には、人どころか動物の気配すらない。
エレノアは怖くなった。おかしい、と思うと、背筋を冷たい汗が流れていった。
指先が冷たい。おかしい。
この森は、おかしい。
・・・お前、おいしそうだな・・・
突然脳内に声が響いて、それと同時に身体から何かが引きずり出されていくのを感じた。
危ない、と分かった。
これは、失いすぎては危ないもの。
これは、このままでは死んでしまう。怖い、死にたくない、せり上がった感情のまま悲鳴をあげた。
「きゃあああああああ!」
ぱこ、と何かが額に当たった。
「うるさい」
「・・・ハロルド」
エレノアは、肩で息をしつつもほっとしてその名を呼んだ。
彼は片手に持っていた本を置いて、立ち上がる。そして水差しの水をくむのを、エレノアはぼんやりと眺めた。
まだ、心臓がどくどくいっている。とても怖い夢を見たが、夢で良かったと、家族の姿を見て安堵していた。見覚えのない部屋だった。こんなところに夢から覚めて一人きりだったら、泣いていたかもしれない、とエレノアは思った。
「ありがとう」
無言で差し出された水を飲むと、異常にのどが渇いていることに気付いた。
「私、どうしたんだったかしら・・・」
「丸一日眠っていた。学校で王女が刺客に襲われて、エレノアが防御魔法を使って倒れたって」
エレノアはハロルドの言葉から、記憶を辿った。そして、魔力がどんどん失われていく感覚を思い出し、ぶるりと震えた。先ほどの夢はその恐怖が見せたのだろう。使ったことのない大きさの魔力に歯を食いしばって耐えようとしたが、最後はどうなったのか記憶がない。
はっとしてエレノアはハロルドの腕を掴む。
「アイリーン様は?!無事なの?」
ハロルドは、ぎょっとした顔をしたものの、そのままぎくしゃくと頷いた。
「そう・・・よかった」
「無事じゃなかったのはエレノアだよ。ホールデンに聞いたけど、1人分の防御魔法をいきなり6人も入る大きさに拡大して使ったんだろ。無茶なんだよ。魔力の使いすぎで、血の気もないし脈も弱くなって」
死ぬのかと思った、とぼそりと呟かれ、エレノアは驚いてしまった。
さっき掴んでしまった腕は、まだそのまま振りほどかれていない。エレノアは、それが昨日の朝学校に行ったそのときと同じ服だと気付く。
知らせを聞いてそのまま来たのだろう。そして、一人でついていたのだろうか。
「向こうへは昨日知らせをやった。もうすぐ来ると思うけど」
両親はまだ領地の屋敷だ。そんなときに、目を覚まさない人間を一人で見守ることは、どんなに心細かっただろう。普段大人びたことを言っていても、ハロルドはまだ13にもならないのだ。
エレノアは真っ直ぐにハロルドを見つめ、
「心配かけてごめんね」
と謝った。
「別に。心配したわけじゃない」
ハロルドの素っ気ない返答も、今は気にならなかった。それに、年頃の弟には気をつかうものだと補講の仲間も言っていたしと、エレノアは『反抗期の弟』を寛容に受け入れた。




