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エレノアの人事不省

「・・・これは、なに!?」

「何が起きたの?!」

「何も見えないわ!」

突然暗闇におそわれた少女達は、恐慌状態に陥った。

動いて誰かとぶつかり、それでまた悲鳴が上がる。

「静かに。皆、落ち着きましょう」

アイリーン王女だった。その普段と変わらぬ優しい声に、徐々に少女達の混乱が収まっていく。

「皆無事かしら。ええと、ここに誰がいるのか、確認しましょうか」

アイリーンの言葉に、ぽつりぽつりと少女達が名を名乗る。

「そう、あそこにいたのはあとは・・・エレノアね?」

エレノア、とアイリーン王女が呼んだが、返事はなかった。

「エレノア?・・・いないの?」

焦りが混じったアイリーンの声をかき消すように、暗闇の向こうから音が近づいてきた。

「これは何だ?!」

「王女様!アイリーン王女はどちらにいらっしゃるのだ!?」

「生徒達は無事なのか!?」

どやどやと多くの足音がする。その中で、悲鳴のように王女の名が叫ばれた。

「アイリーン様!」

聞き慣れたお付きの侍女の声に、アイリーンが叫び返す。

「へティ!!ここよ!」

するとその声に反応するように、闇が霧散した。令嬢達は明るさに目を細め事態を把握できずただ立ちつくしたが、アイリーンは別だった。彼女は探して、そしてみつけた。

「エレノア!!」

エレノアは、地面に倒れていた。王女の鬼気迫る声に他の令嬢達も我に返ったように動き出す。

「エレノア様!?」

アイリーンはエレノアを抱き起こそうとした。すぐに侍女や他の者が駆け寄り変わろうとしたが、アイリーンは聞き入れなかった。

「一体・・・何が起こったの?」

エレノアの真っ青な頬を撫でながら、アイリーンは尋ねた。

「迎えの馬車が途中で襲撃を受けました。そうして我々を足止めし、放課後の警備が手薄になったところをついて校内に刺客を放ったようです。大切なときにおそばを離れ、申し訳ございません。あの・・・」

自分の侍女の手に血のついたナイフが握られているのを見て、アイリーンは静かに頷く。

「とにかく、貴方も私も無事ね。続きはあとで聞くわ。それより、エレノアが気を失っているの。私たち、少しの間暗闇の中に閉じこめられていたのだけど、そのせいかしら・・・」

「そのせいっちゃせいですね、これは」

突然かけられた声に驚いて振り向いたアイリーンは、その姿を見てほっと息を吐いた。

「ホールデン様」

「お久しぶりです、アイリーン王女。暗くなったと仰いましたが、その前にエレノアは何か叫びませんでしたか?」

「そうね・・・確か『買えー』とかなんとか・・・」

ホールデンははいはいと頷くと、アイリーンの手からエレノアを抱き上げた。

「ホールデン様、一体どういうことですか?エレノアは、大丈夫ですの?」

聞くまで決して行かせるまいというように進路を阻んだ王女に、ホールデンは苦笑した。

「大丈夫ですよ。先ほど王女を閉じこめたという暗闇は、彼女の防御魔法ですから。中庭に攻撃魔法の痕跡がありますし、とっさに防衛壁を出そうとして魔力を使いすぎたんでしょう。しばらく私のとこで預かります」

私のとこ、というのが王宮に併設された魔法省だと思い当たり、アイリーンは納得した様子で傍に退いた。

すぐにホールデンが歩き出し、その隙間を埋めるように王女の周りには兵隊や他の教師が集まっていく。

「やれやれ。終わりにするって言ったそばから・・・全く、ねえ?」

ホールデンは、人形のように力の抜けた少女を見下ろし、呟いた。


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