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ファレルのお仕事

久々に更新しました。また細々と更新していきたいと思います。

王国の第二王子の部屋には、部屋の調度に不釣り合いな大きな机がある。

ただし、その机を部屋の主が使っている姿を見たことのある者は少ない。そのためまるで無用の長物のように見られがちだ。それを言えば、執務用の机の方も、書類置き場と呼んだ方がいいのではないかというくらい、使用頻度は少ないのだが。

それではこの部屋の主、ファレル王子は普段何をしているのかといえば、大抵双子の妹であるアイリーン王女の部屋でぐうたらと茶を飲んでいるか、自室の長椅子でごろごろと転がっているかなのだ。

しかし一応本人にも言い分があって、妹の部屋に居座るのは彼女の警備のためだし、自室で寝転がっているのは夜に作業をした分の休息なのだという。


「だから、昼になさったらどうなのですかと申し上げたのに」

ぐったりと長椅子に座り込んでいれば、侍従であるクリスが呆れたように言うのも毎度のこと。

こいつも飽きないな、とファレルは思う。

「夜の方がひと目がなくて集中できる」

ファレルの表向きの役職は魔法研究者だが、実際のところは魔力の流れが見える特殊な能力を生かした王宮の守護者である。そして彼がその役割を果たすために力を注いでいるのが、魔法具の制作だ。

小さな装身具や、剣などに呪文を彫り込み、発動条件を設定していく。

言葉にすれば簡単だが、実際にこれができる魔法使いは滅多にいない。それは、物質それぞれがもつ魔力の流れる道筋のようなものが、普通の人間には見えないからだ。ファレルは個人的にこれを回路と呼んでいるが、その回路に持ち主の魔力がどう流れたときに呪文を発動させるか、といった設定、力加減などを行わねばならず、非常に繊細な魔力の感受性が必要となるのだ。さらには当然ながら、それを思った通りに彫り込み形にするだけの器用さも必須だ。

いずれも集中力が不可欠であるため、ファレルとしては深夜の方が気が乗る。

「殿下がひと目のある場所で全く仕事をなさらないから、新人など本気でファレル殿下をただのぐうたら王子だと思っていますよ」

クリスはそう言いながら、昨夜ファレルが作り上げた魔法具を箱に収めた。

「面白いではないか」

ファレルは、名前も覚えていない人間にどう思われようと一向に気にならない。

「気になるのなら、クリスが俺のすばらしさを話して回って、評判を上げればどうだ」

「それは難しいですね」

本気で考え込んだクリスを、失礼なやつだ、とファレルは軽く睨んだ。名前の分からない人間がどう思おうと構わないが、名前と顔が一致している侍従に本気で良い挿話がないと考え込まれるのは気にくわない。

「ああ、そういえば」

しばらくしてようやく何か思い出した様子のクリスに、再び目を向ければ、彼はこう言った。

「エレノア・ガーラントも、この前、この机はなんのためにあるのかと聞いてきましたよ」

「・・・」

不覚にもファレルは黙らされてしまった。

エレノアには魔法具を渡したはずだ。

だから、ファレルが魔法具を作ることを知っているはずだった。

「もしかしたら、あんまり仕事をしているところを見せないものだから、他の人間が作ったものを渡したと思われているのかもしれませんね」

「・・・」

畳みかけるように言ったクリスが、正確には彼の腹の魔力が、ちらりちらりと期待するように揺れるのが見える。

「クリス」

「はい。なんでしょう」

「お前の魂胆は見え透いている」

「はい。そうでしょうね」

クリスは魔力の揺れを示唆されても、全く動じなかった。

「それで、少しは昼型に戻る気がおきましたか?」

のうのうと聞いてくるクリスに、もう一度軽く睨みをきかせて。

「まったくおきない!」

そう言い放って座っていた長椅子の上にひっくり返れば、そこへ軽やかな足音が近づいてきた。

「失礼いたします。アイリーン様からの、お手紙をお届けに参りました」

「ああ、ありがとうございます」

クリスと言葉を交わしているのはエレノア・ガーラントだ。王女の侍女一年目の彼女は、緊張の残る声にまだ初々しさをのこしている。

寝そべったまま顔を回せば、土色のつややかな髪の少女の胸の中、今日も土の魔力が元気よく渦巻いていた。その動きが本人の声や表情を裏切らないものなので、心地よいなとファレルは思う。表情と腹の中身が全く違う様子などは長く見ていたいものではないが、彼女ならいつまででも見ていられた。

ふいに、魔力が不穏に波だった。

何事かとエレノアの顔を見れば、彼女は不審者を見るような目をこちらに向けていた。

そしてさりげなく胸の前を手で押さえた。

「・・・」

別に彼女に向けた興味は発展途上の脂肪に対するものではなかったのだが、そういう反応をされればファレルも年頃、そちらの方も見たくなる。ついでに、期待をされれば裏切れないだろう、とばかり口を開いた。

「エレノア。牛乳が効くらしいぞ」

そう言ってささやかな胸元を見つめれば、エレノアは真っ赤になって口をあわあわと動かした。

「け、結構です!」

逃げ腰になった彼女に、愉快になってさらに言ってみる。

「そうだ、栄養を胸に集めるような魔法具を考えるか」

「!間に合っています!」

今度こそ彼女は怒って出て行ってしまった。クリスに向けて頭を下げるのは忘れなかったが、この部屋の主への挨拶は残念ながらなかった。

転がったままけらけらと笑うファレルに、クリスは呆れた目を向けた。

「わざわざ怒らせなくてもいいでしょうに」

そう言われても、怒って炎のようにわき上がった魔力が見たくなったのだから仕方ない。それだから誤解されるんですとクリスは重ねて言ったが、ファレルの笑いの発作はまだまだ治まらなかった。

それからしばらく笑い転げて、ようやくファレルは起き上がった。

「ああ、面白かった。気分が乗ってきたから、少し働くか」

そう言って珍しく昼から作業台に向かったファレルだったが、彼の悪評が覆ることはなかった。

騒動を耳にした者から広まった噂のせいで、彼が熱心に作り始めたのは豊胸のための魔法具だと思われたのだ。まさか本気でそのようなことに貴重な時間を割くわけがなかったのだが、そう思われてしまったのは日頃の彼の行動のせいであり、自業自得といったところか。

後日完成した魔法具を差し出された王妃は、ひどく微妙な顔をして、しばらく受け取りを渋ったという。

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