先生という名の。
ぼーっとしていた。テレビの前で見ているのは芸能人のことでもなく、天気予報でもなく、昨日の…事故のことだった。「まーたテレビ見て…もう。」母親の言葉など耳に入らなかった。昨日あの後普通に帰っていたなら…私は、死んでいた?まさかそんな偶然あるわけない。「…あ、あはは…ご飯食べよっと。」そうだよ、偶然だよ。誰にでもあるよ。「急に笑い出して…変な子ね。」
「おはよー!奈々ー!」「あ…おはよ…昨日大丈夫だった?!事故に巻き込まれたりしてない?」「大丈夫だよーこの通りピンピンしてるって!」「…良かった…本当に…」半泣きで抱きつかれて少し戸惑う。奈々だけではなく、他の人からも事故に関してのことを聞かれたが大丈夫だと答えておいた。ただ一人を除いて。
「…先生、昨日私にあまり帰らせたくない様子でしたよね。何か知ってるんですか?まさか…未来でも見えるとか言い出すんですか?」私の無事を確認しに来た川村先生にだけは、質問攻めにした。昨日のことが頭から離れない。先生なら知ってるんじゃないかと淡い期待を持って。「…知ってますよ。でも…信じてもらえないので今は言いません。ただ…」そこで一旦話を止めた先生に何か言おうとしたが…ふと、先生が少し涙ぐんでいるのに気付いた。「…僕は、雲母さんを…雲母さんの未来を変えたいだけです。」




