昼 訪問者
ヒロインはいつになったら出るかなー。無駄にキャラの感じとか固まってるんだけど。
まあ、そのうち、ぼちぼちと。
十時頃、春は頭上で鳴り響くスマホの音で目を覚ました。
アラームではない、時間に縛られることを嫌う春は、そんな物をかけて眠るお行儀の良さを一切持っていなかった。
『よう、ボス。お目覚めか?』
「なんだ…、トキオミか」
ひどく不機嫌そうな声で電話に出る。
しかし、その表情は、声とは対照的に存外嬉しそうに口元に笑みを浮かべている。
『なんだ、とはご挨拶だな。今日連絡するようにとは、そちらの指示だろう?』
「わかってる、社交辞令だよ。所謂、テンプレってやつだ」
『ふん、小難しい事言いやがって。変な小説の読みすぎじゃないのか?
いわゆるー、なんてモロ、好んで多用されるフレーズだろ?』
憎まれ口の応酬、または軽口の応酬。二人の仲は悪くないようだ。
「それで、首尾はどうだ?」
『……上々だ。今のところ接触してくる連中も傷持ちの連中だけだ、まあ、奴らも精々子供の遊び程度で、本格的に押さえつけようとは考えていないみたいだな』
「ああ、成果の方はどんな感じだ?」
『使えるのは、精々十人に一人といった程度だな。
まあ、まともな奴で喧嘩レベルで使える程度だ、それ以上は、まだ無理だな』
「お前は…、トキオミ?」
『「ふん…。試してみるか?」』
電話と肉声二つの声が重なり、殺風景な部屋に響く。いつの間にか広いベットの端に携帯を耳に当てた若い男が座っていた。
「…上々」
にやりと笑みを浮かべ春は通話を切った。
それに習うように、ベットの端に腰を下ろした少年―――、トキオミも携帯をジャケットの胸ポケットにしまい込む。
「随分、色っぽい格好してるな、ボス」
寝起きの春は、ブカブカのシャツを着崩した状態でベットに女の子座りで座り込んでいる。
写メでも撮って部下にばら蒔けば売れそうだ。トキオミの表情はそう物語っていた。
部屋に光が瞬き、いつの間にかトキオミの手には一枚の写真が握られていた。
「…売るなよ」
「残念だ」
やれやれとため息を付き、軽く手を振ると、握られていた写真にボッと火がつきあっという間に燃え尽きる。
「随分、便利だな」
「…だろ?
まだまだ足りねーが、もっと集めればなかなかの戦力になんだろ」
今度は軽く指を鳴らす。
いつの間にか彼の手には、小さなメモリースティックが握られていた。
「マジシャンでも開業するか?」
「それはできねーな。なんせ、明かす種がねー」
くっくく。と可笑しそうに喉を鳴らすトキオミから、メモリースティックを受け取り、その接続部を春は握りこんだ。
「……ふむ」
「依頼通り、昨日見つかった行方不明のお姫様、その三年前の写真だ、感想は?」
「…上出来」
見開いたい春の目に浮かぶ、0と1の羅列。
その有り得ない光景をトキオミは鼻で笑い、ベットから腰を上げた。
「あんたのほうがよっぽどマジシャン向きだぜ、ボス?」
「残念…、種も仕掛けも無い」
―――ああ、そりゃダメだ―――
悪戯っぽい見たものに蠱惑的な印象を与える笑みを浮かべる春。
その場に残響を残し、溶けるようにトキオミは姿を消す。
いつの間にか春の手に握られていたメモリースティックも消えている。
「さて…、もうひと寝入りするか…」
再び眠そうな声を漏らすと、崩れ落ちるようにその体はベットに消えていった。
暫くして、規則的な寝息が再び部屋を支配する。
その寝息は、再びスマホがけたたましい音をかき鳴らすまで乱れることは無かった。
誤字脱字ツッコミ等ありましたら。