プロローグ 少女は絶望する
続いて第2話。まあ、のんびりと書きます。多分一話の文章量は精々この程度です。
一年前の自分…五千とか一万とか、頭おかしくなってたのでしょうか…?
多分兄勇的な感じで、一話短くちょこちょこ更新していきます。
私には一人の双子の兄と一人の妹がいる。
今日は兄について話そう。
まず、兄は美少女だ。
女の私も時折ドキリとするような儚げな美少女だ。正確には美少年だが。
私も中学高校と何度か告白された経験がある、世間一般に見れば、多分私も可愛い部類に入るのだろう。
その私から見ても、なぜか膝まであるダボダボのシャツをワンピースのように着こなして、西日を浴びながら小説をペラペラと捲っている兄を見ると、思わず思考が停止してしまうくらいの美少女なのだ。
表現を変えるならば、絵画から飛び出してきたような光景だろうか。
憂いに瞳を揺らしどう見てもギャグとしか思えない題名の小説を捲る兄の姿は、どう見ても兄では無い。唯の深窓の令嬢だ。
「ただいまー」
できるだけ軽めに気軽さに気をつけて声をかける。
「お帰り、妹」
返事が返ってきた。兄の言葉を聞いたのは半年ぶりくらいだろうか。
姿を見たのも半年ぶりだ。
その半年間の溝を全く感じさせない、至極あっさりとした返事であった。欲を言えば名前で呼んでもらいたいところではあるが。
「おう、兄貴生きてたか」
こちらもできるだけ溝を感じさせない気軽さで返事を返す。
よく見れば、兄の隣には天井に届きそうなほど積み上げられた本の山が見える。しかも恐ろしいことに其処にはハードブックが一冊も含まれていない。
全て単行本サイズの小説で作り上げられた山だった。
その本の山々がまるで防壁のように兄を陽光から守っているのがわかる。
まあ、これくらいで驚いていては兄と兄妹などやってはいられない、なんせいつも突然に突拍子もないことを行う兄だ。
一番古い記憶では、小学校に上がる一年前に分厚い本を読み出したと思ったら、なぜか翌年には大学の卒業資格を手に入れていたことだろうか。
両親の協力があったのだろうが、その意味を理解できるようになった今でも、あの記憶は兄の七つには収まらない不思議の一つである。
だからなのか、兄は一度も学校には行っていない。くる日もくる日も部屋にこもったり、たまに居間にいても今日と同じように文字を追い続けている。
だから私は気にしない。
冷蔵庫の扉を開け、できるだけ平静を装いお気に入りの低殺菌牛乳に口を付ける。
「おお…、今日は随分と本読んだみたいだなー、すげーな。文字だけだろ?
私には、到底無理だぜ!」
気にしない気にしない。
なぜか兄がパパパと手を動かすと目の前の本の山がどこかに消えたが気にしない。
「漫画でも寝るしな!」
少々言葉が上ずったが、それもその後の兄の行動によってあっさり塗りつぶされてしまう。
「妹。牛乳頂戴」
私の横をトテトテと通り過ぎた兄が、コーヒーをくまさんのファンシーにマグカップに注ぎながら放った一言。
(え…?これ、口つけて飲んじゃったんだけど…)
「おう」
体は冷静さを装い動いていた。兄が牛乳を受け取り残った中身を全て注ぐと、当然の様にその愛らしい唇で両手で抱えたマグカップを小鳥が囀る様にコクコクと飲んでいく。
私は急いで空っぽになった今へと足を向けた。
触らなくても顔が熱を帯びていることが実感できる。
思わず漏れそうになった吐息を聞かれないように慌ててテレビのリモコンを押す。
アナログの時はすぐについたのに、電源を入れテレビが入る空白の時間。今はこの若干の間がやけに生々しく、何かを振り払いたい衝動に駆られた。
「なあ、妹」
「なんだ?」
ようやく映ったいつもは面白くもないバラエティ番組。今は、その喧騒にホッとしながらも、兄の綺麗なテノールを聞き逃さまいとする自らの体に嫌気がさした。
「俺な…、ようやく気がついたんだ、このままじゃいけないって」
「ああ、そうだな。十五年間引きこもりっぱなしだもんな」
「うん」
突然の兄の告白思わずつっけんどんに返してしまったものの。その意味を反芻して、何か温かいものが心の奥から湧き出してくるのが感じられた。
(あの兄が…、外へと目を向ける決意をした…。あの引きこもりの兄が社会復帰を決意した…)
感動のあまり体は動こうとしない、今すぐでも振り返り、兄に駆け寄りこの喜びを分かち合いたのに。
「だからな…俺…、俺…」
続く言葉を期待し、心がたかなる。
学校なんて行かなくてもいい、人の多いところに無理に馴染もうとしなくてもいい。
それでも、休日に兄と出かけるのが私の小さな夢だった。
親友に兄を堂々と自慢するのが私の、一番したいことだった。
「大丈夫だよ兄貴…、わかってるから。ゆっくりと……、ゆっくり進んでいこう」
いきなりとは言わない。
まず、一歩外に出ることから始めなくては。
十五年間引きこもった兄には世間はとても冷たく当たるだろう。それでも、くじけさせはしない支えるだけの自負が私にはあった。
ゆっくり振り向き今私が浮かべることが出来る最大限の気持ちを込めて、私は笑顔を作った。
(一緒に頑張ろう…。頑張って、社会復帰しよう。休みにショッピングに行こう、友達もつくろう)
それが笑顔の裏に秘めた私の希望。
そして、聞こえてきた兄の言葉が―――、
「うん…、うん…。だからな、俺な!勇者を倒しに行くよ!」
―――私の絶望だった。
(あー、この兄オワターーー!!!)
誤字脱字ツッコミなどどうぞ。
妹はなぜか若干危ない匂いがします。
まあ、作者の性格上これがデフォルトです。




