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EP3

―いいかい?君の妄想能力が、わが組織では必要なんだ―


俺は見ず知らずのお兄さんからこんなわけの分からない助言を受けた。


この見ず知らずなお兄さんに遭遇するのは今から11時間前の夏期講習24日目の朝だった。


あの大きな音がした日以来、俺の周りでは変な出来事ばかりが起きていた。アヒルがクワックワ言いながら、ただ道を歩いているだけで、『アヒルが大脱走している!!』と連日ニュース番組で特集されたり、手から魔法が出るとか言うやつが日夜テロ行為を行っていたり、銀行強盗らしき一般人が百円ショップの子供用のおもちゃのお金遊びセットを購入した!とかいう本当にくだらない出来事が新聞のトップを飾ったり。確実に俺の周りはおかしくなっていた。夏期講習を行っていた塾も、泰助の話を聞いた次の日に、なぜか自動車学校としてリニューアルオープンする運びとなり、俺らはなぜか大学受験の勉強をするわけでは無く、自動車学校で現在自動車の教習を受けている。ちなみに俺はまだ17歳なので、車に乗ることが出来ないため、実技の教習や試験は出来ないのだとか。じゃあ俺今自動車教習受けてる意味ないじゃんよ。免許取れないじゃんよ。


ともかく、世界はおかしな方向に動いていることはたしかみたいだった。とはいえめぐみも塾の事以外では普通に俺に振る舞っているし、泰助も「なんで僕は自動車教習受けてるんだ?」みたいな顔してるけど、それ以外は普通の生活を送っているみたいだったため、あぁ、俺が考え過ぎなのかなと、周りの環境に合わせて生活していた。


が、やはり異常な事態であることに変わりはないと、心だけはしっかりとした意思を持ち生活していた。


そんなある朝、いつも通り夏期講習という名の自動車教習に行くために、歯磨きをしながら新聞をペラペラと何気なく読んでいた。新聞に載ってる最新のニュースはやはり馬鹿げたニュース記事が多く、顔をきゅうりに見立てて白目になりながら、口を下に伸ばすキュウリ顔体操特集でほぼどのページも埋まっていた。キュウリ体操ってなんだよ畜生。と思いながら新聞をパタンと折り、口を濯ぐために洗面所へと急ぐと、母が顔の筋肉いっぱい使って洗面台でキュウリ体操をしていた。俺は思わずそのアホみたいな顔に、口の中に入っている歯磨き粉を噴射するところだったが、なんとか堪えて口を濯いだ。


そんなキュウリ野郎が居る自宅を行ってきますの掛け声で出ると、キュウリ体操をしながら門の前で俺を待つ、めぐみの姿が目に入った。めぐみは「おはよう!」というと、俺に熱心にキュウリ体操の極意を伝えてきたが、さっぱり分からないから俺は適当に受け流した。と同時に、「あぁ、俺の好きなめぐみもとうとう少しおかしくなってしまったか」なんて思ったら少し悲しくなってしまった。俺は隣のめぐみのキュウリ体操をする顔を観ていると、ついにいたたまれなくなり、「ごめん俺用事思い出したわ!」の掛け声で、駆け足で“極楽河原”の方に行くことにした。この“極楽河原”とは、俺が名前をつけた、ただの河原の事である。この極楽河原はあまり人気が居ない河原のため、俺はストレスが溜ったら、この河原のせせらぎや水の流れを観て、癒されていた。まぁ何の変哲もないただの河原だが、今のこのおかしな環境の中に居る俺からしたら、ストレスを少しでも減らしてくれる、素晴らしい河原なのだ。だから俺はこの河原に敬愛の意味も込めて、“極楽河原”と名づけるようにしたわけなのである。俺はいつも通り極楽河原に着くと、パンツ一丁になり、河原で水遊びしたり、ただひたすら石を積み上げる“三途の川ごっこ”をしたりして遊んでいた。

遊び疲れた俺は、河原のせせらぎを観ながらボーッとしていた。するとひとりでにため息が何発も出ていた。いつしか眠くなり、顔を伏せて眠ろうとしたその時、


「やっと見つけたよ」


と知らない声の人が俺の後ろから声を発した。「見つけた?俺を?」と勢いよく振り向くと、目の前には若い男の顔のドアップが俺の視野全体に写っていた。すっごい驚いた。しかもその男、少し二ヤついていた。怖かったから少し頭突きをしたら、鼻血をだした。ごめん。


その男の名は「ポテト男爵」と言うらしい。男爵イモでは無いとのことだ。紛らわしい名前しやがって。名刺もあるらしく、俺に名刺を一枚渡してきた。と、俺は名刺の上側の方に記述されていた「秘密結社男爵イモ」という名前が目に入った。やっぱり男爵イモじゃねえか。という俺の心のツッコミを抑えて、急にしゃべりだしたポテト男爵の話にとりあえず耳を傾けることにした。



「この世界はね妄想能力で成り立っている世界なんだ」

「妄想能力?なにそれ。なんの能力?」


俺は聞いたことも無いフレーズに疑問を覚えた。


「あぁ。妄想能力って、人間ならだれでも潜在能力として生まれた時から持ってるんだよ。」

「へぇ~。じゃあつまり俺にも妄想能力がある訳だ。で?その妄想能力とは一体なんなの?」


「妄想能力とはね、良いように使えば良い感じで使えるようにもなるし、悪いようにも使えば悪い感じで使えるようにもなる」

「ちょっと意味わからんですね。はい。」


「じゃあ分かりやすい例で言おう。君が住んでいるここ日本の首相は誰だ?」

「えーと、海老首相だっけか」


「そう!海老首相。海老首相はね、日本でトップクラスの妄想能力を持った人なんだよ。ちなみに妄想能力とは、特定の妄想イメージしたものを具現化したり現実化させる能力の事を言うよ。ただし、人には基本的には1個しか妄想能力を持つことが出来ないため、一人の人間が妄想能力で出来ることは限られているんだけどね。」

「へぇ。そうなんだ。」


ポテト男爵はそう言うと、さらに俺に今この国で何が起きているのかを淡々と話時始めた。


「で、海老首相は“自分以外の日本国民の妄想能力を封じ込める”妄想能力を持った、選ばれし者なんだよ。歴代の首相や国を統治する歴史上の人物たちもこの能力を持った人たちだったんだよ。つまりはだね、今まで君が何事も無く、とくに怪奇現象も起こらない日常で暮らしてこれたのは、海老首相の能力のおかげなんだよ。」

「ふーん。じゃあ何で今世間はおかしなことがいっぱい起きてんの?」


「そこなんだよ。実は最近海老首相は胃腸が弱くなっていたみたいでね、たぶんストレスが溜っていたんじゃないかな。それで自分の妄想能力をコントロールしきれなくなっちゃったんだよ。で、海老首相の国を治めるクラスの大きな能力を使うには、かなり強い精神力が必要なのだけれど、その精神力が、自分の能力をコントロールしきれなくなった反動で、全国に海老首相の精神力が飛び散ってしまったんだ。」

「なんかすごい話だね。」


「まぁね。あ!ところで、君の元に一羽のオッサンみたいな顔した小鳥が来なかったかい?」

「来た!何でそれ知ってんの??」


「あれはね、我が“秘密結社男爵イモ”の専属妄想能力強さ測りペットなんだよ。あのペットが全国を飛び回ってるんだけど、強い妄想能力を持つ者を察知すると、その者に近づき、その人の顔のイメージを脳裏に焼き付けると、念写で我が秘密結社にイメージ写真を送ってきてくれるんだ。ただ、念写をすると頭が非常に痛くなってかち割れそうになってしまうため、彼らにとって念写とは命がけの行為なんだよ。」

「あいつらオッサンの顔してすげぇな・・・」


「まぁそんなわけで、そのオッサン小鳥が送ってくれたイメージを元に君を探して、僕が今君と話しているわけで。それは良いとして本題に入るよ。今ね、君の身の回りでは変な事がいっぱい起こっているよね。」

「あぁ。今朝もキュウリ体操している好きな子を目の前にしたところさ。やってらんないよちくしょう」


俺はそう言って河原に石をポイと投げ込むと、先ほどのめぐみの顔を思いだし、泣きそうになった。


「それは・・・災難だったね。で、その災難を引き起こしてるのは、日本の各地に居る妄想能力者たちなんだ。さっきも言ったけど、海老首相の妄想能力は“自分以外の日本国民の妄想能力を封じ込める能力”だ。海老首相がこの能力を使えなくなってしまったということは・・・もう分かるね?」

「つまり、海老首相からの封印を解除された妄想能力者達が、各地域で今好き勝手に暴れ回ってるってこと?」


「そのとおり!!」

「ふむ」


「で、さらに最悪なのが、海老首相の各地に散らばった強い精神力を手に入れて、強大な悪事を働く妄想能力者が今増えているんだ。で、その精神力の中には今まで先代の首相たちの受け継がれてきた精神力も入っているから、この精神力が悪い奴らにわたってしまうとより大規模なレベルの妄想能力を使えるようになってしまって、少しやっかいなんだ。」

「あらまー」


「うむ。で、立ち上がったのが“秘密結社男爵イモ”なわけですよ。もともとうちは秘密裡に潜在する妄想能力の強い国民を集め、未来の国を動かす首相候補を育てる結社なんだ。だけど今は緊急事態。早く悪事を働く海老首相の精神力を手に入れた妄想能力者を倒し、全国の海老首相の精神力を集め、その集めた精神力を海老首相に注入しなければ、この国の未来は無い。だから今うちの組織は一緒に海老首相の精神力を探してくれる妄想能力者を全力で探してまわっているんだ。」

「つまり、俺に声がかかったという事は?」


「もちろん君の中に強い潜在妄想能力が眠っているからだ。で、各地で悪事を働く強い妄想能力者に勝つには、強い妄想能力を持ったものでしか勝つことは出来ない。君の潜在する強い妄想能力を使って一緒にこの国を救わないかい?」

「俺がこの国を救うのか!?」


と、俺がババッとあまりのスケールの大きい話に驚きながらそう言うと、ポテト将軍はさらに声を大きくしながら


「そうだ!!君ならやれる!僕の直観がそう言っている!君の妄想能力が我が組織では必要なんだ!」


と俺に言ってきた。俺は若干まだ自分がこの国を救う一員になることに戸惑っていたが、俺は「そういえば俺はこんな国になる前のこの国が好きだったなぁ。」とハッと思い出すと、なんだか自分の中に眠っていた『この国を変えたい』という感情がメラメラと湧き出してきた。


俺はその心を前面に押し出し「よし!!やるぞ!俺もその組織に入れてくれ!こんな国変えてやる!」と言うと、「よっしゃ!決まりだ!これからよろしくね!」とポテト将軍がガッツポーズをしながら喜んでいた。


で、俺は「うん!!よろしくお願いします」とポテト男爵に一礼すると、「そういや自分以外にも身近な人でオッサン小鳥に会った奴が居たなぁ。」と思い、泰助の顔がパッと頭の中に出てきた。


「あ、そういや俺の友達の泰助って奴もオッサン小鳥に会ったって言ってたよ」

「それは本当かい!??よし、その子にも話をしに行くことにしようか!」


「あいよー。たぶん今頃自動車学校行ってるだろうな泰助。その学校もいきなり塾から自動車学校に変わった、変な所なんだけどね」

「なに!?きっとそれは妄想能力の使い手が、勝手に自動車学校に変えてしまった感じの様だね。こうしちゃおれん。急がなくては!案内はきさらぎ君に任せた!」

「あいよー」



こうして俺はこの変な国になってしまったこの国を救うべく、秘密結社男爵イモに所属することになった。まだ妄想能力とか何がなんだか正直分からないけど、まぁ何とかなるでしょ。


俺とポテト男爵は泰助が授業を受けている自動車学校へと急いだ。


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