エピローグ1
“この世界は妄想の力でなりたっている”という意味不明な助言を聞いたのは、俺がどの大学に行こうか迷っていた高校2年生の夏の事だった。
俺は、肩書だらけを並べた、怪しい笑顔の講師が集う学習塾の夏期講習を受けた帰り道、俺と高校で同じクラスであり、同じ塾の生徒である河原めぐみと、アイスのガロガロ君を食べながら、昨日のテレビ何観た?というような他愛のない会話をしていた。
いきなりだが、この物語の主人公を務めるのは、この俺、笹山きさらぎだ。
どっちも名字みたいな俺の名前は、どうも自分でも慣れない。が、まぁそれは良しとして、ここでとりあえず、めぐみと俺の関係を少し話しておこう。
めぐみは特別可愛いってわけでもないし、勉強が得意ってわけでもない。俺もそんな感じだ。俺も特別カッコいいってわけでもなければ、勉強が得意どころか、だいぶ苦手だ。英語?数学?なんじゃそりゃ。俺は日本人だ。国語だけをやっていたいんじゃ。めぐみもそんな感じだった。
だから必然と話が合うわけであって、いつのまにかクラスの誰よりもめぐみとは親しい間柄になっていた。まぁ友達以上の存在かと言われたら、そうではないが。
で、めぐみと出会ったのは高校の入学式の時だった。
校長の長ったらしい入学式での挨拶は30~40分にも及んだ。その途中はぁ~、とため息をつく奴も居れば、うとうとと頭を揺らして眠りに着こうとしている奴もいた。夢の高校生活が始まった途端に、まさかの校長の長いスピーチを延々と聞かされるとは、こちらもたったもんじゃない。法律で罰してくれよと言いたくなるほどの、良い単語、良い体験談ばかりを喋る長おしゃべりロボットと化した校長の話は口に油を塗った如く、延々と続いた。しかしまぁしょうがないなと諦め、俺は校長先生の話を真剣に聞いていた。
そんな中、俺は隣の女の子が俺を真剣な眼差しで観ている事に気づいた。その女の子は瞬きもせずにこちらを観ている。折角校長が為になる話(笑)をスピーチしている中、他者とは違った異様な行為をする女の子に少し興味が湧いた。
俺は横目でその子を観るのを止め、横にクルッと顔を動かすと、その子に「こ、こんにちは」と当時の俺の営業スマイル(苦笑い)で挨拶をした。その子は「うん!!」と嬉しそうな笑顔で顔を縦に振ると、「これからよろしくね!!」と言い放ち、俺の手をガシっと掴んできた。俺はなんか不思議な子だなぁと思いながら、「よ、よろしく・・・」と少し後ずさりしながら、手を掴み返した。
これが少し不思議な女の子、めぐみとの出会いの瞬間であった。
まぁ、その入学式でのめぐみとの出会い以外は普通の高校生活を今日まで淡々と過ごしていた。
で、高校2年生の夏休みが始まったとき、母親から「あんた将来どうすんの?高校卒業したら大学とりあえず行きなさいよ。日本はね!今学歴の社会なのよ!?分かる?学歴!!!GAKUREKI!!!!!私もね、こんな風に見えて、日本アームレスリング国立大学を出ているのよ!国立よ!?国立!!」と鼻高々に言われてしまった。どんな大学だよ。
そんなわけで俺は今近所の塾の夏期講習に通っているわけだ。
突然だが今めぐみと食べている、ガロガロ君は凄い力を持っている。60円というチープな値段設定にも関わらず、安定した美味しさ、特に真夏に食べるキンキンに冷えたガロガロ君のソーダ味は格別だ。それにめぐみとの話題に困ったとき、とりあえずガロガロ君のマスコットであるパッケージの“ガロン君”をいじっとけば、とりあえず話を繋げることが出来る。こんな素晴らしいアイスが在っていい物だろうか。
なんて、今日も良くわからん分析をしたり、めぐみと他愛のない会話をしながら、あの坂の下の洋菓子店を曲がり、各々別れ、帰るはずだった。
が、今日は違った。いつもの古めかしい風貌の洋菓子店の雰囲気がいつもと少し違うのだ。というか、洋菓子店じゃなくて和菓子屋に変わっていた。
いつも「夏期講習の帰りはこの洋菓子店を曲がったら自分の家だ」と、自分の家までの帰路パターンを洋菓子店をポイントに覚えていた為、この店が洋菓子店じゃないはずがない。
俺はその光景に一度は何事も無かったかのように通り過ぎ去ろうとしたが、俺の頭がその光景にエラーを感じたため、その店の前で立ち止まってしまった。で、驚いた。というか、よく見ると表の店構えは和菓子屋だが、内はハンバーガーのファーストフード店で有名なマッカーサードナルドの様だった。
この異様な光景にめぐみも驚いていた。
「あれ?昨日までここ洋菓子店だったよね」と眉を顰めながら聞いてくるめぐみに、俺も眉を顰めながら、「う~ん。たぶんその筈」とあいまいな返答をするしかなかった。
しばらく立ち止まってめぐみと考えたが「店を改装したんだよ!きっとそうだ!!」ってことにして、ちょうどお互い小腹がすいていたこともあり、俺とめぐみはマッカサードナルドに入り、軽く何かを食べることにした。
不思議なもんで、外は和菓子屋なのに中に入ると、そこは本当にマッカサードナルドだった。で、俺は店内をぐるりと見回した後、俺は今期間限定で若者に大人気!とCMで話題になっている『照り焼きブリたまサンド』を購入した。めぐみは「このあと家で夕飯食べるから」という理由で、ポテトの小サイズを購入していた。しまった。俺も家に夕飯が用意されていたんだ。と下を向いて少し重い物を注文をしたことに後悔したが、目に入った照り焼きブリたまサンドの包装紙が可愛くて少し癒されたため、どうでも良くなった。