新勇者様とリン
「勇者の証…どこにあるんだ?」
少し時間が経ち、
動悸も落ち着いたところで
1つの疑問が生じた。
泉が存在するだけで、勇者の証らしき
ものはない。
泉の水を飲むとかだろうか。
別にふざけてはいないのだが、
それしか考えられない。
とりあえず飲んでみる?
よし、飲んでみよう。
一口、泉の水をすする。
「まっず!!」
…吐きそうになるくらいに不味かった。
他にそれらしい物も無いので
仕方なく洞窟を出る。
洞窟を出てすぐのところに、リンがいる。
「……あ、マコト、お疲れ様です。」
「?」
気のせいか?
震えているように見えたのだが。
「どうかしたのか?」
「いや、何もないですよ?
それよりも!
試練合格、おめでとうございます!」
「分かるのか?奥には泉があった
だけで勇者の証とやらは無かったんだが。」
「あー、いや、他の人から見たら
出てるんですよ。そのー、
オーラ的なものが、ね。」
「嘘つけ。だったら会った時から
俺が本物の勇者じゃないって
見抜けただろ。」
「ばれました?」
「ばれるよ。」
「実はずっと外から見てました
てへっ。」
「てへっ、じゃねーよ。
じゃあ勇者の泉ってのは…。」
「てへっ。」
「無かったのかよ…っ…!!
じゃあ中で起こった頭痛とかは…。」
「私が…術かけてました的な?」
「……。」
「怒っちゃだーめですよ?」
「…もう良いよ…。」
完全に騙された。
よくもまああんな真面目な顔で
堂々と嘘を言えるものだ。
「でもまあ勇者様の決意とか、
根性とかが見えましたし…。
だから私も決めました。」
リンが自分の近くへ来る。
近い。ほぼ密着している。
「よろしくお願いします。
私の、新しい勇者様っ!」
「っ!」
ぎゅっ、とリンが自分に抱きついてくる。
…正直、今まで生きてた中で
一番ドキドキしてたと思う。
「この後はどうするんだ?
カルディナに戻るのか?」
カルディナ、
ジルアが国王を務めていた国だ。
「いえ、ここから数時間のところに、
小さな村があります。そこにある
宿で体力を回復してから、
カルディナに戻って…魔王の城へ
レッツトライ!!ですね。」
「そうか。で、その村の名前は?」
「えーっと、サタリネ、ですね。」
「うっし!じゃあ行くか!サタリネ!」
「ということでサタリネに来たが…。」
目の前の光景は少し衝撃的だった。
「何だ…ここ…。」
「人が…いないですね…。」
村を歩いていても人と出会わない。
文字通り、人っ子一人いないのだ。
「あ、ここが村長の家じゃないですか?」
リンが目の前にある、今まで村で
見た中では一番大きな家を指して言う。
「何で分かるんだよ。」
「昔から一番大きな家には
村長がいるものなんですっ!」
まぁ確かにそうなんだろうけど。
「じゃあお邪魔させて頂きますか!
村長さーん入りますよ~?」
返事を待たず、リンが家の扉を開ける。
「お、おい、勝手に入るのは…。」
「伏せて!」
「のぁっ!?」
リンの命令を聞き、咄嗟に体を伏せる。
「何するんですかいきなり!」
家の中には弓を構えた若者が。
その奥には村長らしき老人が座っている。
「いや、すまなかった。
例の盗賊だと思ってね…。
ハイト、弓を下ろしなさい。」
ハイト、と呼ばれた若者は
老人の指示に従い弓を下ろす。
「失礼しました。」
そして深いお辞儀をする。
礼儀正しい若者だ。
(多分俺の方が若いけど…。)
「旅の方ですか。
どうぞゆっくり休んで下さい。」
「いえ、それよりも…。この村に
何かあったんですか?外には
誰もいないし、さっき例の盗賊とか
言っていたし…。」
リンが尋ねる。
村長は少し間を空け、口を開く。
「この村は今、たった一人の
盗賊によって半壊状態なのです。
「一人の…盗賊…。」
「そいつが途轍もなく強いのですよ。
奴の槍捌きに敵う者は大陸にも
多くはいますまい。」
「槍…ですか…。」
「はい。そいつが夜になると
村を襲い、作物や馬を盗むので
困っています。抵抗した者は連れ去られ、
行方が分からない始末…。」
村長が涙を流す。
「村長様…。」
ハイトという青年は村長を
心配そうに見ている。
どうにか助けてやりたい。
どうやらそれはリンも同じだったようで、
「あのっ!私達にま」
「その件、俺達に任せてください!」
俺の言葉が若干リンと被った。
上目遣いでムスッとした顔で
自分を見てくる。正直可愛い。
「あなた方に?本当に良いのですか?」
「もちろんですよ!何たって私達!
勇者一行ですから!」
「2人しかいないけどな。」
一応突っ込んでおいた。
「では…お願い致します。」
村長は深々と頭を下げた。
その時、ハイトがあまり
嬉しそうにしていないのが
少し気にかかった。
「待ってください。」
村長の家を出るとハイトに声を
かけられた。
「何か?」
「…私が…盗賊を倒します。」
「…いや、俺達が倒しますよ。」
ハイトが少し笑う。
「私が独自の方法で犯人を探し、
必ずひっ捕らえてくる。必ず、です。」
「良いですよ。競争しますか。
どちらが早く盗賊を捕らえられるか。」
「望むところです。」
ハイトは村長の家に戻っていく。
「さて、リン。」
「はい。」
「犯人の盗賊だが、何か知ってることが
あるんじゃないか?」
「ふぇっ?何で分かるんです?」
「村長が犯人の情報を話している時、
神妙な顔してたからな。
やっぱり何か知ってるんだな。」
「…はい。もしかしたらその盗賊は…」
「盗賊は?」
「以前の魔王討伐に途中まで
協力してくれていた、中央都市で
1番の槍使い、アルフかもしれません。」
「中央都市?」
「…後でまた説明します。
とにかく、その盗賊はもしかしたら
私の仲間だった人かも
しれないってことです。」
「そんな人が…何故盗賊を?」
「それは分かりません。
それを突きとめる為に…
盗賊に会いましょう。」
「なるほどね。
じゃあ新しい勇者とお供の人助け、
絶対成功させてやろうぜ!」
その言葉を聞き、リンが嬉しそうな
顔で自分に微笑んだ。
「勿論です!」
7話です。
読んで下さった方、ありがとうございます。
まだまだ頑張ります!
まぁでもダラダラ
引き延ばすつもりもないです!
最後までお付き合い頂けたら幸いです!
ではまた8話で!