青年の試練
魔物が現れた。
いつもならリンが素早く前に出て、
戦闘の準備を始める。
でも、それじゃあダメなんだ。
俺も、戦うんだ。
リンと比べたら弱くても、
リンと比べたら臆病でも
リンと比べたらかっこ悪くても、
それでも俺は、前に出る。
この異世界で俺は勇者に、
真の勇者になる。そう決めたのだから。
「ふぅ~。もう暗くなったし、
今夜は野宿ですね。」
今俺達はジルアの国を出発し、
南の勇者の泉を目指している。
最低1日は野宿をしなければいけない
という当初の計算通り、今夜は
危険な外で夜を明かすこととなった。
「夕食できましたよ!
勇者さ…じゃなかった!
えーっと、何て呼べば…。」
今日もリンはわたわたしている。
「最初に言っただろ。俺の名前は真。」
「で、ではマコト!
夕食の準備が出来ましたよ!」
「おう。さんきゅ。」
この世界の食事は、日本と殆ど
変わらない。(流石に味噌汁とかはないが)
小麦で出来た食パンに木の実ジャムを塗った
ジャムパンを、真はかじった。
会話が無い。今まではリンがわーきゃー
話しかけてきていたのに。
…俺がリンの知る勇者ではないことを
理解してから、あいつは元気がない。
「リン。」
「はい?」
返事も冷めている。
「お前が以前一緒に世界を救った
勇者って、どんな人だったんだ?」
そう聞くと、リンの顔が明るくなり、
一生懸命自分がお供した勇者について
話しだす。
「勇者様は私を救ってくれたんです!
私が…ある村に住んでいた頃、
盗賊が村を襲って、私はその時
何も出来なくて、でも勇者様が
助けに来てくれて!!!私達を
救ってくれたんです!
凄くかっこよかったんですよ!」
「リンは…その勇者が大好きなんだな。」
少し間が空いたが
リンは頬を赤らめながら口を開いた。
「はい…。大好きです!」
「聞きたいんだが…俺と、その勇者は
似ているのか?」
その質問に、リンの顔が暗くなる。
「…瓜二つですね、本当に。」
「…そうか。すまん、まだよく分からない
から教えてくれないか?俺とその勇者が
いつ入れ替わったとかさ。」
「入れ替わった…という訳でも
ないと思いますが…」
そう言って、リンは話し始めた。
以前魔王を倒した時、魔王の城は
崩壊してしまったらしい。
瓦礫の中で目を覚ましたリンは
勇者を見つける為周辺を探し回ったが
見つからなかったそうだ。
それからリンは勇者捜索の旅に出た。
そして最近、ジルアの国(カルディマという
らしい。今まで知らなかった。)
付近で倒れている俺を見つけた。
俺に何があって倒れていたのかは
知らないという。
「…なるほどな。」
「はい。大体はこんなところです。
ふあぁぁ…。」
リンがあくびをする。
「悪いな。長いこと話させちゃって。」
「お気になさらず。でももう寝ます。
また明日、マコト。」
「おう、お休み。」
大分、『勇者ではない俺』に
打ち解けてくれたようだ。
「俺も寝るか…。」
疲れていたのかすぐに寝つくことができた。
ー翌朝ー
「さぁ!もうすぐで勇者の泉です!
しゅっぱーつ!」
元気良くリンが言う。
リンの言うとおり、1時間弱で
勇者の泉に辿り着いた。
と言っても、目の前には洞窟が
あるだけで、泉のようなものは
見当たらないのだが。
「リン、泉はどこにあるんだ?」
「この洞窟の中です…。が…
私はここからはお供出来ません。
ここから…勇者になる為の試練が
始まります。」
「…そうか。」
「…ご武運を。…も、もし
無理だと思ったら、すぐに引き返して
下さいね?生きて帰って来るのが
一番ですから…。」
リンが心配そうな顔をする。
「分かった。じゃあ言ってくるな。」
「…はい。」
1人で洞窟の中に入る。
洞窟はまっすぐ奥に続いていて、
約100mに光が見えている。
あれが勇者の泉だろうか。
だとしたら罠さえなければ余裕で
辿りつけそうだが…。
勇者の試練がそう簡単に
達成出来る訳無いだろう。
気合いを入れ直し、奥へ進む。
半分ほどまで進んでも、何もない。
逆に不気味になってくる。
残り約50mほどだろうか。
このまま何もないわk
「っぐあっ!?」
突如頭が割れるように痛む。
苦しい。何がどうなっている。
一歩前へ踏み出す。
今まで漂っていた洞窟の
匂いが消えた。
一歩前へ踏み出す。
視界がぼやけ始める。
一歩前へ踏み出す。
視界が真っ暗になる。
一歩前へ踏み出す。
音が聞こえにくくなる。
一歩前へ踏み出す。
音が完全に聞こえなくなる。
一歩前へ踏み出す。
苦しみのあまり地面に倒れこむ。
が、根性でまた立ち上がる。
一歩前へ踏み出す。
汗が異常なまでに
噴き出しているのが分かる。
一歩前へ踏み出す。
感覚が麻痺し始める。
一歩前へ踏み出す。
感覚が完全に無くなる。
一歩前へ踏み出す。
もう前に踏み出せているのか、
それどころか足が動いているのか
すら分からない。
一歩前へ踏み出す。
それでも歩みを止めない。
一歩前へ踏み出す。
止めてはならない。
一歩前へ踏み出す。
諦めてはいけない。何故なら、
一歩前へ踏み出す。
俺が勇者になるから。
俺が魔王を倒すから。
俺が世界を救うから。
一歩前へ踏み出す。
2日前から何度も頭に
浮かべてきた言葉を胸に
どれだけの苦難がこの身に
降りかかっても、何があっても俺は、
一歩、前へ踏み出す。
苦しみがなくなった。
嗅覚が回復した。
視覚が回復した。
聴覚が回復した。
全ての感覚が回復した。
目の前には泉があった。
ああ、終わったんだ。
いや、違う。
ようやく、始まったんだな。
6話です。
読んでくださった方、
ありがとうございます。
ユニーク数は順調で
投稿初日で40を記録しました。
前作では遠かった週間ユニーク100以上も
達成出来るかな…。
ではではまた7話で。
まだまだよろしくお願いします。